第173話 神竜

大陸を作った竜の伝説。

 古代竜グランドメナスの話よりもさらに前。

 大陸がまだ存在しなかった太古の時代にそれらは存在した。


 空の覇者バームルト。

 海の覇者リリヴァリス。

 そして大地の覇者、ベリモラス。


 三者の争いは熾烈を極め、大地は裂け、天を焦がし、海の水をも枯渇させるものだったと言う。


「人間にはそう伝わっているのね」

「ヴァンパイアは違うのか?」

「ヴァンパイアは、というより、真実を知る……いわゆる長命種の間ではこうよ。手に負えない化け物が三体いた。それらを神として崇め、機嫌を取ることでなんとか平穏を取り戻した」

「規模的にはそっちの方が現実味を帯びるな」


 神話よりもずっと現実的なラインだ。


「今も繋がってるのか?」

「いいえ。流石に伝承レベルよ、もう。でも逆に言えば、今はご機嫌を伺う必要もない相手ということよ」

「まあとりあえず行ってみるか」

「あら。貴方ならもう少し慎重に情報集めをするかと思ったけれど?」


 クスクス笑うミルム。

 確かに前までの俺なら色々と確認してから向かっただろう。

 だが……。


「ミレオロたちの動きが掴めていない状況で領地をあんまり空けておきたくない」

「それは確かにそうね。良いわ、すぐ向かいましょう」

「どこにいるんだ?」

「それぞれダンジョンの最奥に眠っている。ダンジョン名は、【虚空】、【久遠】、【開闢】」

「待て……それ……」


 どれも立ち入りすらも制限された神域。

 未開拓だとか、難度Sだとかの括りでは測りきれない人の領域を超えたダンジョン。


「ふふ。そのためにSランクパーティーの肩書きがあるのではなくて?」

「いやまあ確かに申請すれば俺たちはいけるけど……」

「大丈夫よ。【久遠】だけは当てがある」

「他の二つはどうするんだ?」

「依頼の規模を考えなさい。神竜一匹連れて行ったらそれで中止になるわよ。払い切れるはずないのだから」

「あー、それはたしかに」


 そう考えると三匹頑張るよりは良いかもしれないな。


「行くわよ」

「わかった」


 ギレンに神域ダンジョン【久遠】へ入り込む許可をもらいにひとまずギルドを目指すことになった。

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