第141話 総司令アイルの葛藤【アイル視点】
領地には四つのダンジョンがある。
二つは王都騎士団がこの地の魔物の討伐に訪れた際に攻略されており、その難度はBランク上位からAランククラスと言われている。
そしてその二つの攻略済みダンジョンの対応が、アイルに求められた役割だった。
『して、お嬢様。どうなされるので?』
「まずは持っている情報を集める……ダンジョンに前情報なしにふらっと飛び込むなど、あの二人ほどの実力者でなければ正気とは思えない」
『全くですな。今頃どこまで進まれたことやら……』
アイルは執務室の机に向かい書類と睨めっこを続けながら二人を思う。
規格外。
二人ほどその言葉が似合う人間をアイルは知らない。
ランドが行った大規模なネクロマンスにより、もはやこの領土の魔物たちはまるで別次元の存在に成り代わっている。
目の前でテキパキと仕事をこなすロバートも、ゴーストからスペクターへと変化したらしい。
スペクターといえばもはや辺境伯家にいた当時なら騎士団を何隊か追加で編成し、さらに冒険者に討伐隊の編成を依頼する大規模作戦が行われてもおかしくない魔物だ。
「あまり聞きたくないのだが……この地域の戦力確認もしなきゃいけない……」
『私スペクターの他にドラウグルやレイス……さらにはファントムやリッチまでおりますからな』
「もはや国家戦力でも太刀打ちできるのかそれは……」
『私の知る限りもはや、王都騎士団とやり合っても互角以上でしょうな』
「国家最高戦力だぞ……」
『それだけのものであるということです。そしてその総司令は貴方、この領地を治めた一族唯一のお方でございます』
「どうしてお父様たちもゴーストとして残ってくれなかったのだろう……」
ロバートたちや領民が残った理由はひとえにその心残りの差だ。
領地全てが蹂躙され、最後の最後まで良き領主として奮闘したアイルの両親をはじめとした親族は、文字通り魂を燃やし尽くすまで戦った。
一方ロバートたち使用人にとって、その主人たちを守りきれなかった無念が先行した。
ロバートはその実、この結果を恥じ入っている。
魂を燃やし尽くすほどの覚悟が、自分にはなかったのではないかと。
「余計なことを考えている顔ね」
『お嬢様には敵いませんな』
「気にしないでいいわよ。むしろ貴方がこうしてここに残ってくれていたからこそ、私もいまここにいられる」
ロバートはその一言で救われる。
『全力でお役に立たねばなりませんな』
「ええ、そうして頂戴」
ダンジョンの攻略情報、自軍の状況把握。
危険なダンジョンに踏み込んだ二人が戻るまでにしっかりやるべきことをやらねばならない。
「私もあそこに並び立てるように……!」
決意を新たに、ロバートの率いる諜報メイドたちがひっきりなしに持ってくる情報を、アイルは懸命に捌いていた。
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