第138話 騎士団長誕生?

「まずは礼を言うよ。度々この土地の災厄を取り払ってくれたこと、心から感謝を」

「おお……」


 竜の墓場で起きた顛末を説明するためにセシルム辺境伯に連絡を取ったところ、わざわざこちらまで来てもらえることになった。

 受け入れる準備も良くわからない俺をロバートはしっかり補佐してくれ、こうして館にセシルム辺境伯と、ギルドマスターのギレンを招き入れていた。

 補佐じゃないな。ロバートに任せきりだった。


 セシルム卿に頭を上げてもらい、とりあえず竜の墓場での出来事を説明した。


 ミレオロと邂逅したこと。

 ミルムの実力であれば追い払うことはできたが、倒しきれはしなかったこと。

 ロイグがデュラハンになっていたこと。

 そして……。


「ロイグはもうどうしようもなかったにしても、フェイドも死んだか……」

「悪いな。連れて帰れず」

「いやいや、お前が謝ることは何一つねえ。むしろこんな形にしちまったことを謝るのは俺だ」


 ギレンも頭を下げる。

 なんというか……二人ともそんなに軽い頭じゃないことを思うと落ち着かない気分になるな……。

 普通に生きていれば会うことすら難しい要人に頭を下げさせてしまうというのがなんともむず痒かった。


「いやぁ……ただこうなると、魔術協会の件はなんとかしないといけないねぇ……」

「ギルドからでは正直魔術協会は動かせないでしょう……」

「わかっているさ。この件は私が預かろう。なんと言っても我が領地最大の懸念点はすでにこの英雄によって祓われたのだから。私も役に立たなければ」


 竜の墓場、その周囲の魔物からの守護を主として国を外敵から守るのがセシルム卿の辺境伯としての使命だった。

 そう考えるとこれからのセシルム卿の動きは確かに少しゆとりが出来るかもしれないな。


「ロイグの件を含め、王都騎士団とは私から接触しましょう」


 ギレンの提案にセシルム卿は首を振った。


「いや、その件も私が引き受けようじゃないか」

「良いのですか?」

「むしろ王都騎士団をうまくつつくさ。魔術協会はともかくこちらは与し易いからねぇ」

「ではお任せいたします」


 ということらしい。

 ミルムはいつも通り興味なさそうにロバートが用意したお菓子を口いっぱいに頬張っていた。

 アイルは緊張した面持ちで背筋を正して……というよりなぜか縮こまっている。


「それにしても……」


 そんなアイルを見てセシルム卿が言う。

 緊張したアイルは固まって次の言葉を待った。


「良く、生きて戻ってくれたね」

「あ、ありがとう……ございます」


 セシルム卿の顔は政治家のそれではなく、子を慈しむ父のようなものであった。


「ですが私は……お二人の足を引っ張るばかりで……なんの活躍もできず……」


 申し訳なさそうにアイルが呟く。

 悔しそうに顔を歪ませながら、泣きそうな声で。


「今回の任務、君は私の私兵団の代表だった。君にとって最優先は、こうして二人に付いて、そして無事戻ってくること。それだけで代表として、立派に勤めを果たしたことになる」


 アイルとてそのことはわかっている。むしろその言葉を裏返せば、今の彼女には最初から期待されていなかったとも、そう受け取れる任務だった。

 だがセシルム卿の言葉はそれで終わらなかった。


「もしも君がそれで納得できないなら、次がある。しっかり励みなさい。手本となる存在がこんなにも身近にいるのだから」


 それは優しい、包み込むような声だった。


「はい……」


 アイルはそれだけいうとうつむいて顔を上げられなくなっていた。

 そしてそんな雰囲気をあえて壊すように、ミルムが口を開く。


「まぁ、強くなるわ。嫌でもね」

「嫌でも……?」

「領地開拓を進めていれば私たちは勝手に力が増すじゃない」

「確かにそうか」


 もちろんアイルだけじゃなく俺たちもそうだが、おそらく受ける恩恵は圧倒的にアイルが大きいだろう。

 ミルムより俺の成長速度が早かったことから想像がつく。


「この領地の騎士団長は貴方よ」

「騎士団……長?」

「待て待て。騎士はその嬢ちゃん一人じゃねえのか?」

「何を言ってるの。いるじゃないたくさん」

「まさか……」


 ギレンに続き、セシルム卿も口を開けた。


「この地に残るアンデッド、その全てが騎士よ」

「ひっ……」


 ミルムの真意を理解したお化け嫌いのアイルは、涙も引っ込んだ様子で顔を引きつらせていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る