第137話

「さて……」


 ようやくクエラたちの方に向かう時間ができた。


「なんでこんな事になったんだ」

「それは……」


 ロイグがデュラハンになり、フェイドは俺が来た時点で瀕死、メイルは正気を失っている。

 唯一まともなクエラに尋ねる。


「簡単なことじゃァない」

「──っ!?」


 嘘だろ……。

 こんな近くに来るまで気が付かないなんて……。


「貴方……あれじゃあ足りなかったのかしら?」


 強烈なプレッシャー。

 ミルムのそれと同等か……下手をすればそれ以上。


「あらァ。確かにさっきはやらレたけれど……その足手まとい、守りながら戦えるのかしらァ?」


 ミルムは表情に出さなかったもののその言葉を受けて一瞬たじろいだ。

 足手まといに相手が、ミレオロが指差したのはアイルだったが、そこには俺も含まれると断言してもいい。それだけ底の見えない相手だった。


「で、なんで逃げた貴方がのこのこやってきたのかしら?」


 臨戦態勢のミルムが静かに対応する。

 俺はとにかくミルムの邪魔にならないようにいざというときは防御に徹することができるよう準備をしながら、レイとエースをアイルのところに向かわせて守らせる。


「忘れ物を取りに来タのサ」


 そう言った次の瞬間にはフェイドの亡骸が宙に浮かびあがり、ミレオロの手元に来ていた。

 同時にクエラとメイルもその影響を受ける。


「え? え?」


 されるがままのメイルに対して、クエラは戸惑った様子のまま連れて行かれようとしている。


「あんたは別にどっちでもいいんだけどねェ。まあなんかに使えるだロう。連れて帰るサ」

「私は……! もう!」

「うるサいよ」

「かはっ……」


 何が起きたかわからなかったがクエラの意識がそこで途絶えたのはわかった。


「デュラハンが消えたのは残念だけど、面白いもんも手に入ったしいいわァ。勇者の抜け殻なんて、なかなかお目にかかれないじゃァない」


 その様子をただ眺めることしか出来なかった。

 俺が動けばおそらくミルムが俺のことを庇わざるを得ない状況が生まれる。

 最大戦力であるミルムが後手に回れば、そのままパーティーの壊滅につながってもおかしくない。


「じゃあまた会いまシょうねェ。ヴァンパイアのお姫様ァ?」

「二度と顔を見せないでほしいのだけど」

「連れないこというじャない。あんなに愛しコロシあったノに」


 狂っている。

 だが強い。

 それだけ言うとミレオロは背後に生まれた空間の切れ目にまるで荷物を運び込むかのように三人とともに消えた。


 同時にそれまで森に張り詰めていた緊張の糸が一気に切れる。


「っ! ぷは……はぁ……はぁ……」


 特にアイルはようやく呼吸ができるようになるほどだった。


「大丈夫か」

『キュオオン』


 近くにいたレイがアイルに心配そうにそのもふもふした身体をこすりつけた。

 エースも後ろでおろおろ心配そうにしていた。


「すみません……大丈夫、です」

「休んでて大丈夫」

「面目ない……」


 ひとまずアイルが落ち着いた様子を見て改めてミルムに問いかける。


「あれがミレオロか……」

「ええ。間違いなく、また戦うことになるわね」


 ミルムをして倒しきれなかった相手。

 それどころか、俺たちがいたのでは足手まといだった。


「強くならなきゃ……」

「そうね。貴方には頑張ってもらおうかしら」


 俺が強くなればそのままその力がみんなに還元される。

 そうなるとアンデッドを大量に【ネクロマンス】できる環境がいい。そしてそれが今最も身近に叶えられそうなのは……。


「貴方の領地、開拓しましょうか」

「そうだな」


 ミルムの考えに賛同するとアイルもその意味に気づいたらしい。


「まさか……」

「この国で唯一のアンデッドタウンが出来上がるな」

「ひぃ……」


 アイルのお化け嫌いもどこかで治ると良いなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る