第136話

「ランド殿!」


 地上に降り立つとアイルが駆け寄ってきてくれた。

 クエラとメイルは動かなかったが声だけかけてきた。


「あの……」


 クエラと目が合う。

 メイルにも視線を飛ばすが、怯えるようにカタカタ震えながらクエラにすがりついていた。

 元々小動物のようなところもあったが、今の姿は文字通り、怯えた小動物そのものの動きになっていた。


「ランドさん……あの……」


 クエラがなにか言おうとしているが、いまはそれよりもフェイドのもとに向かうべきだろう。

 それにミルムも気になる。

 冷たいようだがいまクエラに付き合う時間はなかった。


「フェイド……」

「なん……だよ……」


 苦しそうに顔を歪めながらフェイドと目を合わせる。


「もし望むなら……アンデッドとして意識を保たせられるぞ」

「てめえの犬になれってか?」


 睨むようにこちらを見るフェイド。


「死んでもごめんだね」


 フェイドの命が終わろうとしていた。


「そうか……お前の力だけ、俺がもらうぞ」

「勝手にしろ」

「無駄にはしない」


 目をつむりそれを受け入れるフェイドに手をかざす。


「くそ……結局お前に、振り回されっぱなしで……はぁ……何も出来ねえ、人生だった……」


 フェイドの言葉に返す言葉は俺の中になかった。

 ただ黙ってフェイドと目を合わせる。


「俺もお前みたいに、なりたかった……」


 やり直せるなら、俺とフェイドが並び立つ未来もあったのかもしれない。

 だがもうフェイドはやり直せない。

 後悔だけを抱えたように表情を曇らせ、それっきり俺たちは何も言わず静かに最期を待った。


 程なくして、苦しそうにしていた息が止まる。

 息を引き取ってようやく穏やかな表情を浮かべた幼馴染に向けて手をかざす。


「【ネクロマンス】」


 ──勇者フェイドの能力を吸収しました

 ──エクストラスキル【上級剣術】を取得しました

 ──ステータスが上昇しました

 ──使い魔のステータスが上昇しました


「じゃあな……フェイド」


 一緒に旅立ったときは、こんなことになるとは思っても見なかった。

 最後の最後に【勇者】の認定を、このスキルが与えるに至ったことすら知らずに逝ったことを含めて、皮肉な最期だった。



「終わったのね」

「ミルム!」


 傷一つない様子を見ると……。


「勝ったんだな」

「いえ……逃げられたわ」


 そうきたか……。

 だが相手は不死殺し《アンデッドキラー》にして最悪のヴァンパイアハンターなのだ。

 いつの間にか狩る側と狩られる側が入れ替わっているところが流石だった。

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