第135話

 口から、いや口などないが、頭があればその位置だろう場所へ魔力が収束し……。


「ブレスか⁉」

『グルゥラアアアアアアアアアアアアアアア』

「くっ⁉」


 剣で弾きながら身を翻して攻撃を交わす。

 極大の負の力が森の上空に解き放たれた。


 攻撃を躱せたのはよかったものの……。


「剣が……」


 剣でいなすには少し、この攻撃は威力が高すぎたようだ。

 いや、その性質によるものかもしれないが……。


「直撃しないで良かったと思うしかないか」


 光に触れた部分からヒビが入り、ボロボロと腐り落ちるように刀身が失われた。

 これが宵闇の、死の魔力。


「どうするか……」


 剣がなくても戦いはできるが、エネルギーのぶつけ合いに終始するのなら攻撃を受け流すための防具として剣はほしい。


「【夜の王】」


 一旦コウモリを展開してデュラハンの動きを制しながら考える。

 ふと下を見ると、フェイドと一瞬目があった。


「ん?」


 その口元がかすかに動いていた。

 口元の動きだけに注目する。


「持ってけ、か……」


 自分で動くことが出来ないフェイドが剣を指し示した。


「ありがたく受け取らせてもらおう」


 【夜の王】を操って剣を受け取った。

 フェイドは何も言わずに笑っていた。


「これは……」


 あのダンジョンで手に入れた、神器の一つ……。

 買い取っていたのだろうか。ギルドから。

 ちょうどよかった。


 再びフェイドを見ると、返すとだけ、小さく口を動かして……。


「──っ!?」


 フェイドが右腕を必死に動かして何かを伝えてきたのを見て、慌てて俺も身を翻す。


『グルゥアアアアアアアア』

「ここからがデュラハンの本領か」


 俺が【夜の王】で黒いカーテンを作って対処していた、その隙間を縫っていつの間にか眼前に迫ってきていた。

 だが……。


「さっきの剣より痛いぞ?」


 逆に強烈なカウンターを浴びせる。

 受け取ったその剣を、振り向きざまに鞘から抜き去り一閃する。


『グッ……ァ……?』


 その神器は、まばゆい輝きを放ちながらデュラハンの巨体を、その屈強な鎧ごと真っ二つにした。

 だがその程度で終わる相手ではない。


「たたみかける!」


 ないよりマシ程度の【初級剣術】を使ってデュラハンの身体を切り刻む。

 神器のおかげでこんな剣術でもデュラハンはその身を徐々に失っていった。


『ぐ……ぁ……』


 様子が変わる。


『て……めぇ……は……』


 デュラハンに奪われていた自我が少しずつ薄れたからだろうか……。

 言葉が紡ぎ出されていた。


『コろ……ス……こ……ぐっ……アア……グルアアアアアアア』


 最期に戻った意識が本人の意思があったのかはわからない。

 だがロイグとは、最期までわかり合えないことだけはわかった。


「お前が馬鹿にした犬……レイのほうがもう、お前なんかより何倍も強いぞ」

『グ……ァ……』


 最後の一欠片を切り払い、そのすべてを【夜の王】で包み込んだ。


「【ネクロマンス】」


 ──ロイグ(デュラハン)の能力を吸収しました

 ──ユニークスキル【神出鬼没】を取得しました

 ──ステータスが上昇しました

 ──使い魔のステータスが上昇しました

 ──ロイグ(デュラハン)は完全に消滅しました


 使役するつもりもない。

 ここで完全に、消滅させた。


 文字通り跡形もなくなったロイグから離れ、地上に降り立った。

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