第133話
駆けつけたときはギリギリ間に合ったと思った。
だが──
「ランド殿! この傷は……!」
アイルの言葉を聞かずともわかった。
見た瞬間にわかってしまった。
──もうフェイドが助からないことは。
今生きているのは、ギリギリの気力で持たせているに過ぎない状況だった。
「あとは……任せろ」
フェイドはパーティーのために身を犠牲にして戦ったということだけはわかった。
あの時俺を餌に逃げようとしたことを思えば大きな……とても大きな変化だった。
レイを失った憎しみはもちろんあった。だが今の……片腕が落ち、全身の骨が砕け、か細く息をするだけの……ボロボロになったフェイドを見て、そこから何かをしようという気にはならなかった。
それにフェイドが戦っていた相手にも見覚えがある。
「行くぞ……!」
首のない騎士……アンデッド最強種の一角、デュラハン。
この鎧と剣は間違いなく……。
『グルゥアアアアア』
「ロイグ……!」
変わり果てた姿でも、その強さが何よりもあの男の面影を示していた。
──ガンッ
大剣と俺の片手剣がかろうじて拮抗出来ているのは『超怪力』のおかげだ。
それでもデュラハンとなったロイグ相手では力比べは分が悪い。
「ランド殿! この者が相手なら……!」
「いや、応じる相手じゃないさ」
アイルが言うのは【ネクロマンス】でなんとかなるのではないかという話だろう。
だがそうするにしてもまず、倒さないといけない。
ドラゴンゾンビがそうであったように、敵意を剥き出しにした相手を無条件に従える力ではない。
それに……。
「こいつは……ここで殺さないといけない」
ロイグに対する恨みがないと言えば嘘になる。だがフェイド同様、いやフェイド以上にもはや原型を留めない相手に何を言ったってという思いの方が大きい。
それよりも俺は、アンデッド使いであるネクロマンサーとしてこいつを倒さないといけない使命感のようなものが芽生えていた。
フェイドはもう助からない。
生前の話ではなく、たった今、アンデッドとして人を手にかけたこいつは、ここで終わらせないといけない。
「【夜の王】」
デュラハンの特性はミルムに聞いてきた。
死に近いものを襲うらしい。
この場において死に最も近いのは、その深淵を使いこなさねばならないネクロマンサーの俺だ。
アイルを守りつつ、自身に死の匂いを強く植え付けるために【夜の王】を展開した。
「ついてこい。お前は俺を殺したくて仕方ないだろう?」
【黒の翼】と【黒の霧】を展開して空へ飛び立つ。
「ランドさんが……空を……」
今の声はクエラか……。
メイルの様子がおかしかったのは気になったが、二人はフェイドが守りきったようだった。
『グルゥアア』
もはや喋ることすらできなくなったロイグが空を舞う。
その姿はゴーストと同じく、一部はもう形をなさない魔物のそれとなっていた。
「終わらせる」
こんな姿になった元仲間を。
命をかけて守りきったフェイドのためにも。
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