第131話 元パーティー視点

 決死の覚悟を持っての、フェイドの行動だった。

 デュラハンは死に招かれる。死に対する恐怖によってターゲットとなったメイルより、自分がその死に近づけばと考えたのだ。


 だがそれでも……。


「……くそ……これじゃあ……足りない……!」


 死に、もっと死に近づかなければ、デュラハンの気を引けない。


「フェイドさん!」

「クエラ! 絶対回復するんじゃないぞ!」

「でも!」


 クエラは食い下がるが、フェイドは回復を許さなかった。


「メイルの回復とサポートに集中しろ! どの道こんな相手に、俺じゃ勝てねえ」


 フェイドの狙いは一つ。

 化け物には化け物を当てるしかない。


「ミレオロが来るまで、メイルだけは死なせるな」


 メイルさえ生きていれば、ミレオロは自分たちを見捨てない。

 いやもう、フェイド自身に自己保身の考えはなかった。


 パーティーメンバーがせめて、無事に生き残る最善解を導き出しただけだ。


「ぐっ……」

「フェイドさん!」


 フェイドの出血量が増す。


「ここまでやって……ここまでやっても! 俺は! 見て! もらえねえのかああああああ」


 叫び声がフェイドの出血を更に加速させる。

 そこでようやく……。


「やっと……こっちを向いたな」


 ようやく振り向いた。かつてのパーティーメンバー、ロイグであった……化け物のデュラハンが、フェイドのほうへ。

 安心して力が抜けるのを感じるが、ここで終わるわけにはいかない。

 デュラハンの一振りで首が飛ぶ。その覚悟をフェイドは持っていた。

 最後に少しくらい時間稼ぎができればと、その一心で右腕一本で剣を握り込む。


「うぉおおおおおおおおおお」

「フェイドさん!」


 決死の特攻。

 右腕一本になったフェイドの、不細工で、型もなにもない、それでも、フェイドが人生で初めて、誰かのために本気で振るった一撃だった。


『グルゥアアアアアアアア』

「がはっ……」

「フェイドさん! そんな……」


 あっけなく、フェイドはその決死の一撃ごとまとめて、デュラハンの大剣に薙ぎ払われた。

 吹き飛んだフェイドをクエラが目で追うが、もはや聖女のヒールでも助からないことは明らかだった。


 だがそれでも、まだ死んでいない。


「そうだ……来いよ……」


 喋るのもやっとという様子で、フェイドがデュラハンを挑発する。

 デュラハンは挑発には応じない。

 だが静かに、ゆっくりと、死フェイドに招かれて歩みを進めていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る