第130話 元パーティー視点

「フェイドさん! 危ない!」

「はっ!?」


 フェイドに意識が戻る。

 デュラハンの刃はすでに、フェイドの喉元へと迫っていた。


「くっ⁉」


 とっさに身を翻して避ける。剣で攻撃をいなしながら。

 その動きもああ……。


 ランドの真似事をしていたときに身に付けたものだった。

 避けきれたのは良い。だが──


「しまった……!」


 感傷に浸ったせいで大事な目的を見失っていた。

 デュラハンの姿がスッと消えていく。


「このままじゃ……またメイルのところに!」


 次はもうフェイドも止められる位置にいない。

 肝心のメイルに抵抗できる気力はない。


 そしてクエラにデュラハンの一撃に対抗する手段はない。

 クエラは絶望的な表情を浮かべ、それでも気丈にメイルを抱きかかえた。

 何があっても離さないという強い意志を感じさせながら。

 カタカタと震えて何もできなくなったメイルを、それでも抱きしめていた。


 その様子を見たフェイドが静かに一瞬、目をつむった。


「俺は……」


 思い返す。

 ランドに負けたくないだけで努力してきた子ども時代を。

 ランドを見返すことだけを考えてやってきた冒険者時代を。

 だが……。


「俺はこんなことのために、冒険者をやってきたわけじゃない!」

「フェイドさん⁉ 何を……」


 フェイドの目の色が変わる。

 これまでを思い返して、ようやく、この段になって本当にようやく思い出したのだ。


「俺は……ランドに勝つためだけに! 冒険者を目指したんじゃねえ!」


 あれから、あのランドに裏切られたと思って決別したあの日から、フェイドはそれでも鍛錬を続けてきた。

 周囲の大人が止めるのも聞かずに毎日森に入って、何を目指しているかもわからない、空っぽの気持ちのまま、それでももう鍛錬をやめることができなくなっただけの、言ってしまえば惰性で動いてきた時期すらあった。


 そんな日々の中で一度だけ、ゴブリンの巣でも突かなければ危機に陥ることのない町外れの森で、フェイドはピンチに陥ったことがある。

 まさにゴブリンの巣をつついてしまったのだ。


「あの時俺はもう一度、自分の生きる意味を見つけたはずだったのに」


 いつしかランドへの嫉妬と憎しみに苛まれ、自らを失っていた。

 そのフェイドが何のために冒険者をやってきたのか思い出した。


 その心理は非常に単純なものだった。

 ありがちな、子どもの夢物語だった。

 自分を助けてくれた、憧れの冒険者に近づくためだった。

 困ってる人を助けるためだったはずだ。


 ランドに劣ることがわかっても、周りの子供達が諦めて追いつくことをやめても、憧れたランドが道を外れたと思っても、それでも必死に食らいついてきたのは、本当に困ってる相手を守るためだ。

 小さい時に見た、自分を助けてくれた憧れの冒険者に追いつくためだ。

 決してランドに追いつくためではない。

 困ってる人を助けるためだ、あの日自分が助けられたように。

 ここまできてもはや勇者だ何だといえたものではないことくらいわかっている。


 ただそれでも、最後くらいは、

 目の前で困っている仲間くらいは救いたい。


「何を?!」


 クエラが驚くのも無理はない。

 フェイドは今、自分の左腕を自ら切り落としたのだから。


「ぐぁああああああああ」


 激痛にフェイドの身体が悲鳴を上げた。

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