第129話 フェイド幼少期視点
森の攻略を進めていると、ふと耳に、久しぶりの人の声が飛び込んできた。
「あはは」
ランドだ!
安心したような気持ちになる。ようやくランドのいるところまでやってきたんだ。
だがおかしい。
森の中で、こんな命の危機と隣り合わせの状況で……。
「笑ってる?」
何かにかき立てられるように、周囲の警戒もそこそこにランドの声を追いかけた。
森の一角、木々がそこだけない、少しひらけた場所で、ランドは……。
「くすぐったいよ。レイ」
獣と戯れていた。
「あれ……? フェイド?」
声をかけられてもしばらく考えが追いつかなかった。
どうしてランドが遊んでいるんだ?
俺はあんなに全力でやってきたのに、まさかランドはここ最近ずっと……?
そもそもあの獣はなんだ?
ランドならもっと強い魔物と戦えるはずだ。
俺なんかが見たことないような魔物と、なのに……。
「ランド。一体何を……」
またあいつは、ポリポリと頰をかいてこう言った。
「あはは。皆には言わないでね。テイマーってほら、あんまりよく思われないでしょ?」
何故……。
どうして才能に溢れたランドがテイマーなんて外れ職の真似事をしてるんだ。
どうしてランドは、ドラゴンでもないただの犬のような魔物を選んだんだ。
どうして一人で、森の中で……どうして、どうして……。
「どうして……」
「え?」
「お前はどうして! こんなところで遊んでたのか!? ずっと」
俺の怒りは理不尽で、自分勝手なものだった。
憧れていた、ずっと俺の先にいてくれると信じていたランドが、よりにもよってテイマーなんてものを選んだショックが、あまりにも大きくて……。
だというのに、またランドは頰をかいて……。
「あはは」
と、笑うだけだった。
◆
あの日以来、俺はランドに追いつくためじゃなく、ランドを置き去りにするために頑張った。
それまでの努力量なんて大したことなかったと言えるほどに俺は、森で魔物を狩り、大人たちに試合を挑み、必死に、何かに取り憑かれるように鍛え続けた。
俺はいつしかランドの実力を追い抜いていた。
ランドが獣と遊んでいる間に、俺は勝てたんだと思った。
これできっとランドも、俺のことを見ると思った。もう一度ちゃんと、あの頃のようになると思った。
だから俺は街を出る時、真っ先にランドに声をかけたんだ。
「ランド! 俺も冒険者になる! パーティーを組むぞ!」
きっと俺に負けないように努力を……そう勝手に、期待していた。
だがランドは……。
「いいよ」
それだけ気軽に言って、獣とまた戯れていた。
天才神童ランドの目には、ついに俺が映ることはなかったのだった。
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