第128話 フェイド幼少期視点
あれから数年。
俺はあいつがやっているトレーニングの量に追いつくために死に物狂いで努力した。
周りの人間は俺の必死さに引いていたが、ランドはそれでも、涼しい顔でマイペースに鍛錬を続けていた。
差が開くばかりだと焦っていた俺は、それでもランドを目標に必死だった。
だがランドは、もう俺のことなどきっと眼中になかった。その他大勢と同じように見ていたと思う。
そんな中、一つのニュースが舞い込んだ。
「おい。ランドのやつ最近見ねえじゃねえか」
「なんか森の奥で魔物とやり合ってるらしいぞ」
「は?! まだ子どもだろ?! 大丈夫なのか……」
「いやぁ、なんせあのランドだからなぁ」
ランドが森に……。
それに魔物と……。
「戦い始めたのか……? もう!」
その情報が俺の何かに火をつけたようだった。
それからはさらにトレーニングの時間を増やした。
もう俺を笑う奴はいなくなった。同世代で、いや大人を含めたって、俺より強いのはランドだけだと、そう思えるくらいには、できることはなんでもやってきた。
そしてついに俺も、森に入る決意をした。
「いくぞ……ランド」
俺も森に、魔物と戦いに……。
意気込んで森に踏み入る。
しばらく進んでもうさぎなどの狩りの餌くらいしか出ては来ない。魔物との棲み分けはある程度済んでいるようだった。
更に奥。
もうこの辺りには街に立ち寄る冒険者くらいしか入らないはずだが、まだランドの姿は見えない。
次第に獣道すらなくなった。道も自分で切り拓く必要がある。
「くっ……歩きにくい……」
はじめての街の外。
近くに出る魔物のことは調べてきたが、対応できるかと言えば分からないのが本音だった。
平地ならともかく、こんな場所で戦闘になった時、自分がなんとかできるか、そんな不安が頭をよぎったその時だった。
──ガサ
「っ!?」
物音がきこえた茂みに剣を構えて身構えた。
森の中は相手の……魔物のフィールドだ。
下級のゴブリンをとっても、森の中であれば後手後手になる恐れすらある。こちらが戦いなれている平地でこちらも武器を構えての一騎討ちなら負けることはない相手でも、だ。
ましてや奇襲を受ければ十分命の危険がある。
だが今回は、その危険はなかった。
「ふう……ウサギか」
ビクビクしたことがバカらしくなりながら剣を下ろした。
よく考えればこんなところでピンチに陥ることなんて、ゴブリンの巣でも突かない限り起こらない。
「よし。気を取り直そう」
少しずつでいい。
ランドだってきっと、一日で森の攻略を進めたわけじゃないはずだ。
追いつくぞ。
お前が今どんな努力をしているかわからないが、俺だって全力だ!
ランドならきっと、俺以上の、俺が考えもしなかった景色を見せてくれると、そう信じて森の奥に踏み込んでいった。
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