第127話 フェイド幼少期視点

「すげー! またランドだ!」

「これで何連勝だよあいつ……」

「才能あるやつってやっぱちげえよなあ……」


 くそっ……。

 地べたに転がる俺は息も絶え絶えだというのに、あいつは、ランドは息ひとつ切らさずに皆にもてはやされていた。


「あっちはダメだな……」

「フェイドだっけ? 全然才能がないよなぁ……」

「何回もランドにやられてんのに、だっせー」


 好き勝手言ってくれる……。

 そこまでいうなら自分たちで一度、ランドに勝ってみて欲しい。

 天才神童、ランドを相手に。


 だが……。


「勝てない……」


 知識でも剣でも、ランドは同世代を圧倒していた。

 街の誇りとすら言われたランドに、俺は何ひとつ、勝つことができなかった。

 そんな俺にランドが近づいてくる。


「フェイド? いつもありがとね」

「は?」

「いや……フェイドが本気でぶつかってきてくれるから、俺は強くなってるんだと思う」


 こいつ……。

 差し出された手を取って立ち上がる。


「もう一回やる?」

「勘弁してくれ……」


 けろっとした表情で言ってくるが、こっちはさっきので満身創痍なんだ。

 なんでこいつはこんなに……。

 そう思ったとき、何故か不思議と、こんな言葉が口をついて出てきていた。


「なぁ」

「うん?」

「お前がいつも何してるのか、どうやって強くなったのか、俺にも教えてくれ」


 ランドは少し驚いた顔をして、ポリポリと頰をかいてこう言った。


「いいよ」


 ◆


「はぁ……はぁ……嘘、だろ?」

「あはは……でも付いてきてくれるの、フェイドが初めてだよ」


 次の日、ランドに言われて街外れの森の入り口で落ち合い、ここまで半日ランドの日課に付き合った。


「これを……お前は、まだ倍やるのか?」

「うん。これで三分の一かな?」

「なっ……」


 走り込み、素振りに始まり、様々な訓練に付き合った結果、すでに俺は身体が持ち上がらず地面に倒れている。

 森の一画はいつのまにかランドのトレーニングスペースに改造されていたようだ。


「フェイドはちょっと休んでてよ。もう少しやってくるから」

「くっ……」


 待てと言おうとも思った。

 必死で食らいつこうとも考えた。

 だが俺は……。


「頑張れよ」

「うん! ありがとう」


 そう言って送り出してしまった。


 もしこの時俺が死ぬ気であいつについていっていたら……。

 もしこの時俺があいつを引き止めてでも追いつこうとしていたら……。


 何かが、変わっていたかもしれない。

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