第126話 元パーティー視点
フェイドもクエラも、そして当事者であるメイルも、一切反応できなかった。
デュラハンの、いやロイグが使っていたあの大剣が、メイルの腹部に突き刺さる。いや、正確にはその剣はメイルの身体には到達しなかった。
──カン、と高い音を立て、メイルがミレオロから譲り受けていたあの魔道具が落ちた。
ロイグの大剣を止めたそれは、その衝撃に耐えかねるようにバラバラになって砕け散った。
生命は救われた。
だが、メイルの中の何かが、この瞬間に失われた。
「どう……して……」
──ガン
鈍い音を立て、デュラハンの大剣とフェイドの剣がぶつかり合う。
「ぐっ……力比べじゃやはり厳しい……メイル! 何か魔法を」
だが、フェイドの言葉はメイルに届かない。
「メイル……?」
メイルは焦点の合わない表情でぶつぶつとこう言うだけだった。
「だめ……だめ……かてない……だめ……しぬ……」
デュラハンがメイルを執拗に狙った理由は、ミレオロが渡したあの魔道具にあった。
大量のエルフの死の気配を、常にメイルは放ち続けていたのだ。
ミレオロの意図についに気づけないまま、最悪の結末を迎えようとしていた。
いまメイルは、真の意味でデュラハンのターゲットになってしまったのだ。
死の恐怖に正気を失ったものは……アンデッドの、デュラハンの好物だった。
「メイル! しっかりしてくれ!」
自分のことで手一杯のフェイドが叫ぶ。
だがメイルが正気を失ったのも仕方がないことだった。
アンデッドを専門に対応する可能性を持っていた聖女候補のクエラは、それにそこで初めて気づく。
「まさか……メイルさんは、ずっと狙われてた……?」
自分たちが知らないところで一撃を食らっていたことは、傷の手当をしながらクエラも感づいていた。
だが……。
「ずっと……こんな化け物と一人で⁉」
治療を続けながらもフェイドとデュラハンの撃ち合いを横目に眺めていたクエラ。
デュラハンのベースであるロイグの強さも、その背中をずっと見てきていただけによく分かる。
二人は間違いなく、その実力だけは疑いようもないのだ。
そんなロイグが、デュラハンになって、常に自分を追いかけ回す。
「今までずっと……」
メイルは自分に起きてきたことを決して人に打ち明けなかった。
クエラだからこそ気づけた。
「だめ……もう……だめ……」
メイルはミレオロにあの魔道具を受け取った日の夜、夢を見た。
自分が何処かに連れ去られる、強力な何者かに襲われる、醒めない悪魔に苛まれてはじめて、メイルは気付く。それが夢ではないことに。
デュラハンは死の匂いに敏感だ。
そして、わずかに自我の残るロイグがフェイドたちに対する想いを持つ。それが合わさり、メイルの元に届いたのだ。
──死を招く者デュラハンが
クエラがカタカタと震えるメイルの肩を抱く。
仮に自分ごとデュラハンの刃の餌食になってでも、それでも守り抜こうという、聖女候補の意地にも似た慈愛の精神を体現していた。
防御に徹すればきっと、メイルはデュラハンの攻撃を躱すことはできていたのだろう。
だが狙われてからは夜も、一人の時間も、いつだって命を狙われ続けてる恐怖と戦ってきたのだ。
メイルを支えていたのはおそらく、戦えば勝てるだろうという、矜持だけだった。
「くそ……俺じゃあもうこいつを止められない……!」
もはや長くはもたないであろう鍔迫り合いの最中、フェイドはなぜか、昔のことを思い出していた。
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