第123話

「ここからだとあの時と変化がないように見えるんだけどな……」


 竜の墓場の上空。

 アールにとってはある意味生まれ故郷にやってきた。


「これが……我々騎士団が目指していた……」


 アイルが感慨深そうにつぶやく。


「アールはいまじゃこんな感じだけど、古代竜としてはここからあの木までが全長って感じだったぞ」

「なっ⁉ それは流石に……いえでも……確かにそのライン上に不自然な跡が……」


 アイルにそんな説明をしながらアールに指示を飛ばして降り立ってもらう。

 竜の墓場は古代竜が横たわっていた場所の周囲は草木ひとつない灰色の荒れ地が広がっている。

 その周囲は森だ。

 降り立って初めて俺はその異変に気づいた。


「今更気がついたのかしら……瘴気の質があのときとはまるで違ったじゃない」


 ミルムはわかっていたようだが、当たり前のように言われても俺に瘴気の違いなんてわからない。


「あなたもそのうち見えるようになるわ」

「そもそも私にとって瘴気に質などがあることすら新事実でした」

「安心しろアイル。俺もだ」


 のんびりとした話が出来たのはここまでだった。


「これはあなたたちも気づいたようね」


 ミルムの目が金色に輝きを放つ。

 臨戦態勢に入っていた。


「ぐ……なんて重いプレッシャー……なんですかこれは⁉」


 アイルが武器に手をかけたまま、そこで動けなくなっていた。


「これは……」

「あの時のあなたと同じね」

「なら……」


【竜の威光】


「はっ! いまのは……」


 俺のスキルで周囲にかかるプレッシャーを跳ね返した。

 だが、スキルでぶつかったがゆえに、相手の隔絶した力量差もまた、わかってしまった。


「これは……」


 すぐに【宵闇の棺】からレイとエースも喚び出す。

 アールもすでに臨戦態勢だ。

 だがそのプレッシャーの主と相まみえる前に、次の異変が起こった。


「きゃあああああああ」

「悲鳴⁉ それも……森の中から⁉」


 明らかにこのプレッシャーの主ではないものが原因だ。


「行きなさい。ここは私が引き受けるわ」

「でも……!」


 アイルが食い下がるがミルムが突き放すようにこういった。


「あなた達じゃ、足手まといよ」


 ミルムの真意はわからない。

 だが古代竜、アールと戦っていた時を思えば俺でも足手まといになることは十分あり得るんだ。

 正直アイルだとなおさら、そうなる可能性はある。


 そうじゃなくてもミルムがわざわざ行けといったということは、俺たちが向かう先にもなにかあるということだ。


「アイル、行くぞ!」

「え、ランド殿⁉ 本当にいいんですか⁉」

「ミルムがいいって言ったんだ。大丈夫」


 俺はミルムを信じてる。


「ミルム」

「ええ。ありがとう」


 使い魔を置いていくことにした。

 俺たちは守るべき対象になるが、使い魔はそうではない。

 一定以上のダメージを負えば俺に伝わるし、そうなる前に【宵闇の棺】で俺が喚び出してしまえばいい。

 素直に受け取った事を考えると、やっぱりあの相手は只者じゃない。


「ミレオロ……ってやつか」

「だったらなおさら!」

「あっちはあっちで、俺は俺でやらないといけないことがあるんだ」


 ミレオロが現れたのだとすれば、あいつらがいる。


「フェイド……!」


 ここまでの事態になっているんだ。俺が、あいつらを連れて帰る。

 責任を取って、それで、あいつだってまた、冒険者の夢をもう一度追いかけ直せばいい。


 俺はやっぱり、あいつを、殺されかけてなお、恨みきれていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る