第120話
「そういやギレンの過去の話、あんまり聞いたことがないんだよな」
「話すようなこともねえよ。Sランク冒険者だったのは知ってんだろ」
「普通はSランク冒険者って、話すようなことしかないんだけどな……」
ギルドマスターにまでなるような男なのだ。只者ではないことは間違いない。
ないのだが、それ以外の情報もあまり明かさない男だった。
なんとか話を変えようと頭をかいて考え込むギレンのもとに、新たな刺客が現れていた。
「あら。マスターとミレオロさんのお話ですか?」
お茶のお代わりを持ってきてくれたニィナさんだった。
「ニィナ!?」
「ふふ。まあ確かに大した話じゃないですが、二人とも現役がかぶっていたそうですよ?」
「それ以上いうなよ?」
珍しくいたずらげに笑うニィナさん。ギレンをからかえるのが楽しいんだろうな。
「まあまあ。私はこれで失礼しますが、皆さんで聞いてみてください」
「ったく余計なことを……」
ニィナさんを見送り、ギレンが持ってきてくれていた紅茶に口をつける。
「恋仲だったのかしら?」
「ぶほっ!? おい嬢ちゃん勘弁してくれ」
「なるほど……となると……」
「やめろやめろ。ったく……ミレオロはな、当時の冒険者たちからすりゃ高嶺の花、憧れの的だったんだよ」
諦めたようにギレンが話し始めた。
「美人だったのね」
「そりゃもう、な。で、当時の俺らはあのバケモンの正体を知らねえ。何人も上位の冒険者や実力者があいつのところに行ったが、結果はお前らが思ってるより最悪だぞ? 聞くか?」
ここまで聞いて終わりというのも締まりが悪いだろう。
ミルムとアイルに同意を取り、先を促した。
「あいつは言い寄ってきた男たちの誘いを全部受けた」
「全部?」
確かにそれは最悪かもしれないが……。
「それだけで終わりというわけではなさそうね?」
ミルムも同じ考えだったようだ。
「そうだな……男たちは皆喜んであいつについて行った。だが、無事帰ってこれたのはごく僅かだ」
「どういうことだ?」
「表向き、精魂尽きるまで搾り取られただなんだと言われてるが、あいつはサキュバスとかじゃあねえ。正真正銘人間だ。そしてなにより、実験中毒の狂った女だ」
「それって……」
アイルがその真意を悟って顔を青くしていた。
「そういうこった。もともとアンデッドを好んで狩ってたのも、その実験のためだ。嬢ちゃんの同胞も……」
言いづらそうに言葉をつまらせたギレンに、ミルムはこう答えた。
「そんな文字通り化け物に恋してしまった悲しい過去があったのね」
「うるせえ!」
いまのが暗くなりかけた空気を和ませるためのものかどうかはわからないが、とりあえずミルムのおかげでいつもの調子にはすぐ戻ってこられた。
「あいつが一枚噛んでるってこたあ十中八九狙いはヴァンパイアだ。そして、あのパーティーだけでヴァンパイア狩りができるかどうかはミレオロも疑問視してるだろう。気をつけろ。あのパーティーと出会ったらつまり、ミレオロがいるってことだ」
「面白いじゃない」
「大丈夫かよ……」
不死殺し《アンデッドキラー》の異名を持つ相手にミルムをぶつけたくはない。
とはいえミルムより強い味方もいない。
せめて一人ではなく、俺たちパーティーとして対峙できるようにだけ気をつけたいところだった。
「というわけだ。辺境伯様から聞いてると思うが、竜の墓場に異変がある。自然発生的なもんならいいんだが、俺はこの件になんかしらの形でミレオロは噛んでると予想してる。油断するなよ?」
「ああ」
ギレンから話が聞けておけてよかった。
気を引き締めて、俺達は再び竜の墓場を目指すことになった。
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