第119話

 俺の理解が追いついていなかったのでミルムが聖属性とアンデッドの関係を補足してくれる。


「アンデッド……特にヴァンパイアにとって聖属性かどうかなんて、正直あまり意味がないわよ」

「どういうことだ?」


 アンデッド対策には聖属性。

 これは冒険者の常識だったはずだが……。


「例えばだけど、貴方は水に沈められたらどうなるかしら?」

「どうって……そりゃ息ができなくて……死ぬだろ?」

「私達不死と呼ばれる者たちにとって、聖属性の魔法はそういうもの」


 ここまでの話は理解できる。というかこれは俺の認識でもあった。

 だからこそ、アンデッド退治は聖職者が呼ばれるのだから。

 だがミルムの言葉はそこで終わらない。


「じゃあそうね……貴方が水底のダンジョンに行くことになったら、どうするかしら?」

「そのためのスキルか魔道具を準備して臨むだろうな」

「それと同じ。死なないための対策はするわ」

「対策……」


 ミルムが改めて、アンデッドの王たる所以を説明する。


「知能のあるアンデッドで、聖属性の対策をしていないものなんていない」


 なるほど……。

 いやそうか。そもそも対策を講じられるようなアンデッドとの戦いを想定していなかった。

 アールが敵だった時、古代竜ですらその知能はなかったのだから。


「不死と言っても生物であることに変わりはない。弱点はお互い可能な限り対策を講じ合うのだから、最終的には持っているエネルギーの総量のぶつかり合いでしかないわ」

「そうか……」


 だからヴァンパイアは強いのか。

 その持っているエネルギーの総量が、明らかに人のそれよりも高いから。


「そもそも貴方、あの時ドラゴンゾンビをどうやって倒したか忘れたのかしら」

「そういえばそうだな」


 【夜の王】の力で、エネルギーで押し通したんだった。


 と、そこでギレンが口を挟んだ。


「要するにあいつ──ミレオロは、無尽蔵と言われるエルフやヴァンパイアを凌ぐほどの魔力を、人の身でありながら持ち合わせる化けもんだ」


 ギレンをして化け物と言わしめるだけの存在なのか……。

 そんなギレンを見てミルムが尋ねる。


「貴方、現役時代にその女となにかあったのかしら?」

「ああ?! ねえよ! なんもねえ!」

「嘘ね……」

「嘘だな……」

「嘘ですね……」


 ミルムの口撃は想像以上の効果をもたらしていた。

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