第112話
『お気をつけていってらっしゃいませ』
ロバートをはじめ家中の使用人たちに送り出される。
あの後ダンジョンに潜ってみることも考えたんだが、王都騎士団でもすぐには攻略できず封印に留めたダンジョンに軽い気持ちで臨むのは危険ということでやめた。
『まずセシルム辺境伯へご報告なされるのがよろしいかと』
結局ロバートのこの言葉を受けて方針が決まった。
たしかに色々とセシルム卿へ話をしにいく必要があるからな。
というわけで俺たちはいままたアールに運んでもらっていた。
「いきなり戻って大丈夫だったのか?」
「お忘れですか? あの屋敷と辺境伯邸は魔道具で連絡が取れますよ」
「あー」
完全に忘れていた。
あれ……?
「それならその魔道具越しに話せば良かったんじゃ……」
「どうせこの子がいれば一瞬なんだからいいじゃない」
『きゅるー!』
まあそれもそうか。
騎士団の精鋭であるアイルごと領地までもらうのだ。ちゃんと面と向かって言った方がいいだろう。
◇
「いやぁ。まさかここまで思い通りの展開になるなんて思いもしなかったよ」
報告を受けたセシルム卿はご機嫌だった。
「まさかロバートから連絡が来るとは思ってなかったから驚いたけれどねえ。とにかく、アイルくんとあの領地のことは君に頼もう」
「軽いなぁ……」
「ははは! 君の気が変わらないうちに手続きを進めよう。私の権限でまず子爵には出来る。そこから先は王都に行ってから色々しておくよ。きっと伯爵くらいはいけるだろうし」
「いや程々で留めてくれ頼む……」
男爵じゃなくいきなり子爵なのか……。
ミルム曰くこうも簡単に進むのは土地の余ってるこの国ならではらしい。辺境伯が貴族を増やす権限を持ってたり、爵位が上がっていったりというのは異例だと教えてくれた。
「特にこの辺りは魔物さえ倒せる人間がいれば開拓出来る土地ばかり残ってるしね」
「確かになぁ……」
ミルムの言葉に納得する。
だから冒険者が貴族になるパターンが多いのかもしれなかった。
「それじゃあ改めて、よろしく頼むよ」
そんな形ですべてセシルム卿の手のひらの上だったような気持ちにさせられながらも、一応の目的は果たした。
「さて、アイルくんは準備があるだろう。騎士団からは退団という形ではなく、しばらく離れるという形にする。何かあれば戻っても構わないし、君の自由にしなさい」
「ありがとうございます……!」
頭を下げるアイル。
「おや……すっかりこの短い時間で騎士というより令嬢のオーラに変わったように見える」
「あ……その……」
「責めてるわけじゃないさ。むしろ喜ばしいことだ。だが二人についていくのであれば、あの勇ましい君も魅力の一つだ。さあ、行っておいで」
「はっ! 失礼いたします!」
聞いた話じゃセシルム卿って実質アイルの育ての親なんだよなぁ。
二人のやり取りにはその雰囲気を大いに感じ取れていた。
アイルがいなくなってセシルム卿が口を開く。
「一つだけ君たちに依頼があるんだ」
その表情はいつになく真剣なもので、こちらも気を引き締めて依頼内容の話へ移った。
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