第113話

「依頼……?」


 セシルム卿の表情がいつになく硬いのを見て気を引き締める。


「竜の墓場を見てきて欲しい」

「竜の……って、あそこはもう」

「君たちがドラゴンゾンビを倒してくれて、大きな問題は去った、そう思っていたんだがね……」


 辺境伯家の最も頭の痛い問題が竜の墓場だった。

 俺たちがドラゴンゾンビを倒したことで、その問題は解決した……そのはずだった。


「瘴気の動きがおかしい……かしら?」

「そのとおりだ……流石だね」


 ミルムの言葉にセシルム卿が同意した。


「ミルム……なんか知ってるのか?」

「いえ。でも私も気にしてはいたから調べていたの。持っている情報量は多分同じよ」

「ふむ……」


 なるほど……。

 実際にことが起きれば騎士団を動員するのだろうが、調査を俺たちに依頼する意味はまあわかる。冒険者は戦闘だけじゃないなんでも屋だからな。

 向いてるだろう。俺たちのほうが。


「本来あのクラスのドラゴンゾンビであれば、倒したとしても数年は……下手すれば我々が死ぬまであの地は瘴気で覆われる地として管理される」


 セシルム卿の言うとおりだろう。

 ある程度の瘴気はあの時ドラゴンゾンビが吸ったとはいえ、あの地にはまだまだ膨大な瘴気があった。

 管理されるべき土地だ。

 セシルム卿の言葉をミルムがつなげた。


「その瘴気が、異常に薄くなってるのよ」

「え?」

「あなたもその気になればスキルを使って視られるけれど」

「そうなのか……」


 まだまだスキルのポテンシャルを発揮しきれてないんだな……。

 いやそれよりも……。


「そんなこと、あり得るのか……?」

「あり得るかどうかでいえば、実際そうなってるのだからあり得るのでしょうね」


 ミルムの言うことはもっともだった。


「そうだねえ……私も最初に知ったときは同じ反応だったよ。通常ならばあり得ないことだ」

「瘴気を操れる何者かがいる……?」

「そうじゃなくとも、瘴気を吸い込む何かがいるということになるわね」


 これ……ただの調査依頼ではないな。


「減っている瘴気の量を考えると、最悪の場合ドラゴンゾンビより厄介な相手とぶつかる」

「だから俺たちに……」

「そのとおり。恥ずかしながら……我が騎士団では正直、力不足だろう」


 セシルム卿の表情が固かった理由がわかった。

 それは確かに、話し出しづらかっただろうな。


 にしてもドラゴンゾンビより厄介な相手……か。

 賢者がアンデッド化してリッチとかになってたら、正面からやっても勝てないだろう。

 上位のアンデッドに悪意と知識を同時にもたせるととてもじゃないが対応できない。アンデッドの弱点は色々あるがその際たるものは知能ごとなくなっていることだからだ。

 思考するアンデッドの強さは、ミルムを見ればよく分かる話だった。


「なによ」

「いや。ミルムがいてくれてよかったって話だ」

「あなた……だんだん私の扱いに変に慣れてきてないかしら」


 そんな事を言いながらもミルムは顔を赤くしてそっぽを向いていた。

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