第104話

「どうしたいの? 貴方は。アイル=アルバル。貴方の意思は?」


 ミルムの言葉に息を呑むアイル。


「私は……」


 次の言葉を静かに待った。

 だが、次の言葉は、言葉として紡がれることもなく──


「きゃあああああああああああああああ」

「え、誰の声だ」

「この子以外にありえないでしょう」


 思いがけず可愛らしい悲鳴を聞いて脳がバグった。

 アイル、こんな一面があったのか。


「準備を!」

「あ、ああ!」


 アイルから見えて、俺たちに見えなかったということは、敵は背後だ。


「エース!」

『グモォオオオオオ!』


 自身を【黒の霧】で霧化しつつ、エースを召喚して振り返る。

 そこにいたのは……。


「え……」

「これは……」


 白髪の、人のいい笑みを浮かべた執事だった。


『おかえりなさいませ。ご主人さま』


 だがその声は、姿は、レイたちと同じ。


「精霊体……ゴースト」

『ええ。身体はとうに朽ち果てました。ですが我ら、いつかお戻りになられるその時を、ずっと……ずっと待ち望んでおりました』

「で、待ち望んだお嬢様アイルは……」

「気を失ってるわね……」



「っ! ここは……!?」

「屋敷の中よ」


 あのあと屋敷の中にアイルを運び込み休ませた。

 屋敷の中はゴーストタウンの中にポツリと立った建物とは思えないほどに、キレイに維持されていた。

 よく考えれば外もそうだ。人がいないはずなのに庭園の草木が整えられていることがおかしいと気がつくべきだった。


「全部、貴方の従者がやっていたのね」


 初老の執事以下、百人単位のメイドや召使いがゴーストとなってまだここにとどまっていたのだ。


「従者……?」

「今度は気を失わないでよね。入りなさい」

『お目覚めになられましたか……! お嬢様!』

「ひっ……」


 何故か俺の腕を掴んで俺の影に隠れるアイル。


「貴方……」


 ミルムが呆れたようにつぶやくが、アイルはそれどころではない様子だ。


「お化け……怖い……」


 ギュッと俺の服を掴むアイルは涙目になっていた。

 しかしお化け怖いときたか……。


 この反応はショックなのではと執事のゴーストを見ると、やはり人のいい笑みで笑っていた。


『お嬢様の怖がりは昔のままですね』


 その言葉に、アイルがやっと顔をあげた。


「え……」


 ここで初めて、アイルはその老人にゴーストではなく、一人の意思を持った相手として向き合った。

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