第99話
「おや。驚かせてしまいましたか。ご存知の通り二人は私の恩人、新進気鋭の冒険者パーティーですからな。グリム殿もやはり知っておいででしたか」
「そ……それはもちろん……」
冷や汗の止まらないグリム。
余計なことを言うなという視線を俺たちに向けてくるが、その動作がとどめとなってミルムが動くことになってしまった。
「あら。ミッドガルドの本店で私を下品に誘った男がこんなところで何してるのかしら」
「貴様ぁあああああ」
ものすごい形相でミルムを睨みながら小声で抗議するグリム。
「おや? それは本当かい?」
「いえいえまさか。他人と見間違えたのでは……」
「ミッドガルド商会の主人にも喧嘩を売ってたわね? 確か名前は……グリムだったかしら」
「ぐぬぬ……」
怒りと焦りで顔を真っ赤にするグリム。
元々暑苦しい顔が赤くなってさらに目立つな……。
「ランドくん」
判断に迷ったセシルム卿が俺にふる。
マロンにも約束したようなものだったし、ここで引導を渡しておこう。
「ミッドガルド本店で喧嘩を売られてな……その時にミルムを誘ったことも、それをマロンに怒られて逆上したのも事実だ」
「セシルム卿! 騙されてはいけませんぞ! その者らはマロンとともに不正に加担した重罪人! 証拠はここに!」
「ほう……」
グリムが取り出したのは何枚かの紙だった。
どうやらその、不正の証拠とやらがあるらしいが……。
「確かに、ここに書いてあることが事実だとすれば大問題だ」
「そうでしょう! そうでしょう!? ですので」
「勘違いしないでくれたまえ。事実なら、と言ったはずだ」
「何を……! 私を疑いになられるというのですか?!」
「いや。疑ってなんかいないさ」
セシルム卿の言葉に、焦っていたグリムの表情がニヤリと歪んだ。
「ほっ……でしたら」
「疑いの余地などない。この文書は改竄されたものだ。我が領土における大商人と、私の恩人である二人を貶めようとした罪、その首では償いきれぬぞ。グリム」
「なっ……」
セシルム卿の言葉に固まるグリム。
そのまま視線を右往左往させ続ける。顔には滝のように汗が流れ、ついに赤かった顔が蒼白になっていた。
「そんな……ど、どうかご慈悲を!」
「ふむ……本来であれば王都にて処分を決めるが……」
セシルム卿がこちらを見る。
俺は別に俺たちと、マロンに被害がなければそれでいいと伝える。
「私は! 今後決して! 決して関わらないと誓いましょう……! ですのでどうか!」
「グリム。選べ」
「はっ!」
助かると信じ切った顔でグリムがセシルム卿を見上げる。
「貴族として死ぬか、一族を巻き込んで不名誉に消えるか」
「はへ……?」
多分本来、いくら大貴族でも法的に直接処分する権限はないはずだ。
それでもその選択を突きつけたということは、辺境伯家の力をフルに使ってでもその結果をもたらすという宣告だ。
男爵家でしかないグリムの末路はもう、決まったも同然だった。
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