第98話
セシルム卿の次の予定は貴族との面会とのことだった。
これからいろんな貴族と顔を合わせるだろうということで、軽く紹介だけでもと言われ一緒にそこまでついていくことになった。
その間にアイルが準備を整えるようだ。
「まあ、私が君たちのことを自慢したいだけなんだけれどねえ」
セシルム卿はそんなことをおどけて言っていた。
◇
「くそう……あの忌々しい冒険者どもめ……そしてマロン、あの馬鹿め。私を怒らせるということがどういうことかわからせてやる……」
辺境伯邸、館にはいってすぐの待合スペースに一人の男が座っていた。
ぶつぶつと喋るその男は、顔の大きな貴族風の格好をした男だった。
その男がしきりに貧乏ゆすりを続けている。大きな顔にぶら下がる二重あごがタプタプと揺れ続けている。
「冒険者ごときなんとでもなる……Sランクだろうとこの私、グリムにかかれば……」
セシルム辺境伯邸を尋ねていた男、グリムは私怨によりどうしても冒険者と商人を失墜させたい願望があった。
ミッドガルドは巨大商会だが、それでもやはり辺境伯に比べれば影響力は少ない。ましてSランクといえど一介の冒険者パーティーなど、自分の力でどうとでもなると思っていた。
「それに調べたがまだなりたてのSランクだ。もののついでに痛い目に合わせてやればいい」
もちろんグリムの認識は一般的な認識と大きく異なっているが、親の代を継いで以降、自分のやり方に口を出す無・能・な・部下はすべて切り捨ててきたせいで誰も彼を止めなかった。
「くそう……まだか……今すぐにでもこの怒りを鎮めたいというのに………」
グリムはセシルムを待つあいだもいらいらを隠しきれない様子だ。
しきりに貧乏ゆすりをして、ブツブツと何かを呟き続ける厄介な来客を、使用人たちも一歩引いて様子を見ていた。
「ミッドガルド商会ともども私を馬鹿にした罪は償ってもらうぞ……!」
グリムの作戦はこうだった。
手元には偽装したミッドガルド商会の汚職に関わるデータがある。そこに新たなSランクパーティーとなったランドたちも関わっていたことにしてあるのだ。
このデータを元に辺境伯セシルムの後ろ盾を持ったうえでランドたちとミッドガルド商会へさらなる打撃を与えようというのが、グリムの用意した作戦だった。
うまく偽装データを元にした攻撃が成功すれば、この地で絶大な力を持つセシルムの株を上げることになる。一石二鳥の作戦。
そう意気込んでわざわざやってきたのだ。
そしてようやく、待ち人が現れた。
「これはこれはグリム卿。わざわざこんなところまで来てもらえるとは」
「いえ、セシルム卿こそお忙しい中わざわざお時間を頂いてしまい……なっ!?」
グリムの待ち人は思わぬ人物……グリムにとって最悪の人物を連れて現れていた。
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