第54話
「どうしたんだ?」
どうも村に立ち寄ると決めてからミルムの様子がおかしかった。
俺の後ろに隠れるように腕を掴んできてまっすぐ歩こうともしないくらいだ。
「いや……えっと……」
きゅっと俺の腕を掴んで前を歩こうとしないミルム。
これはこれで可愛いんだけど……フォローする必要があるな。
「なんだ……なんかあるのか?」
仕方ないので立ち止まって話を聞くことにする。
振り返るとポツリポツリとミルムが言葉をこぼし始めた。
「あの……ね? 私結構派手に魔法を使ったじゃない?」
戦闘シーンを思い返す。
ドラゴンゾンビ相手に互角以上に魔法でやりあうミルムの姿が浮かんだ。
「確かに……?」
「あれ、見る人が見れば私が何者かはわかると思うの……」
まあそもそも空飛んでドラゴンゾンビに一人で魔法ぶっ放してる時点でただの人間とは思われないと思うが、一部俺も人のことを言えなくなっているので黙っておく。
「だから……こわい……」
怖い……か。
「なぁミルム」
「ん?」
「良かったら何があったか話してくれないか? 人間と、何があったか」
ミルムは人間を嫌いとは言わないが苦手意識は持っている。
だが単純に全ての人間を苦手とし、敵視しているわけではない。
むしろさっきは身を挺して俺を守ってくれたくらいだ。
なんとなくわかってきたのが、目の前に現れた個体としての人間は恐れないということ。
俺もそうだし、ギルドでもそうだった。
だがその反面、こうして顔の見えない集合体としての人間たちというものに、不思議なほどに恐怖心を抱いている。
理由が知りたくなった。
「だめか?」
「……そうね。貴方になら別にいいわね」
そういうと話を始めてくれた。
「私はヴァンパイアロード。王家に生まれた一人娘だった」
一人娘、か。
「私が生まれて本当に間もない頃、人間による吸血鬼狩りは最盛期を迎えていたわ。私たちの国にもヴァンパイアを狙った人間たちが押し寄せてきたところだった」
なるほど……。あれ? 待てよ?
「前に自分の周りで犠牲になったのはいないって言ってなかったか?」
「正確に言うと自分の周りとして認識できるほどの状態じゃなかったのよ」
「なるほど……」
だが実の両親が被害にあったことになるんじゃ……。
そう思ってミルムを見ていたらいたずらな表情で俺にこう告げた。
「ふふ。私の両親は生きてるわよ?」
「そうなのか!?」
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