第75話:二人のエルフ


「あっ・・・、ありがとうございます・・・」


僕らを助けてくれた女性は、安心したように大きく息を吐きながら顔をあげた。


「あっ・・・、こちらこそ、あっ、ありがとうございます!」


その美しさに、一瞬で目を奪われる。


金色のウェーブのかかった長い髪、エメラルドグリーンに輝く大きな瞳、大きく尖った耳、透き通るような白い肌。オフホワイトを基調とした柔らかそうな素材の生地でできた衣服を身に纏う。胸元が大きく開き、大きな胸が強調され、丈の短いスカートからは、細くて長い脚が伸びる。


まるで天から舞い降りた天使のように美しい女性だ!


僕の視線と、女性の視線が絡み合う。


大きな瞳で見つめられて、恥ずかしさのあまりに視線をそらしてしまう。


恥ずかしさを隠すように、ダークエルフに吹き飛ばされた、もう一人の女性に駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


座り込んでいる女性に手を差し出す。


「ああ。すまない。大丈夫だ。」


自らの力で立ち上がった女性を改めて見つめる。


短い金色のショートヘアー、尖った耳と、エメラルドグリーンの切れ長の瞳。ムツキさんよりも高い身長に見下ろされる。胸元が大きく開いた白の短いタンクトップと、緑のショートパンツに緑のマントを羽織る。僕の視線の高さには、タンクトップからはみ出しそうな超巨大な胸がユサっと揺れる。引き締まったウエストライン、緑のショートパンツからは豊満なお尻がはみ出している。


自分の顔が急激に赤くなるのを感じ、視線を背ける。


そこに、ユラさん、ミナさん、ムツキさんも合流した。


「大丈夫?」


ユラさんが僕らに向かって声をかける。


「助けていただいてありがとうございます・・・」


ロングヘアの女性が深々と頭を下げる。


「助けてもらったのはこっちよ!感謝します!」


ユラさんが答える。


「あなたたちは・・・」


女性が僕たちに視線を向ける。


「そうね・・・、あなたたちもエルフ族の方かと思います。私たちは嬢王に謁見を申し込んだのですが、先ほど断られてしまい・・・」


ユラさんが一部始終を話した。


「そうでしたか・・・、私は・・・」


ショートカットの女性がすぐに反応にして、何かを話そうとした時、ロングヘアの女性が手で静止する。


「いいのです、マーリ。この方達は信頼できる方々と思います。それに先ほどの力、おそらく相当の力をお持ちかと思います。」


「リリス様・・・」


マーリと呼ばれた女性は、困った顔をして呟いた。


「私はリリス。こちらの者は私の従者のマーリです。」


・・・


・・・


・・・


「リリス・・・?どこかで聞いたことあるような・・・」


ミナさんとシズクさんが首を傾げる。


ユラさんは大きくため息をついて、女性を見つめる。


「まさか・・・、エルフの嬢王のリリス・エルフィード様・・・」


「はい。リリスと呼んでください。」


ロングヘアの女性は、満面の笑みを浮かべて、首を傾げて微笑んだ。


・・・


・・・


「えええーーーーーーーーーーー!!!」


・・・


僕たちは一斉に驚きの叫び声をあげたのは言うまでもない。


・・・


「ここはまだ危険だ。隠れ家に案内する。」


・・・


マーリさんは、辺りを鋭い視線で見渡す。


こうして、僕たちは嬢王とマーリさんの後について歩き出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



僕らはエルフの嬢王が作り出す結界の中にいる。


1本の大きな樹木に添えつけられた古びた小屋。


大きな木の枝が、小屋を覆い隠すように上に伸びている。まるで、木と小屋が一体になったような幻想的な光景である。


小屋の中にある広い部屋で話を始めた。


「ここは私とマーリしか知らない秘密の小屋です。以前はお母様がよく使っていた秘密の工房でした。」


マーリさんが、とてもいい香りのするお茶をみんなに入れてくれた。


「美味しいわね!」


ミナさんがお茶を一口飲んだ瞬間、びっくりしたように声をもらす。


シズクさんがウンウンとうなずく。


「疲労回復効果もありますの。」


リリスさんはニコニコしながら答える。


「リリス様は、ムアハルト様、ドルスキン様はご存知ですか?」


ユラさんが嬢王である事を、確かめるかのような質問を投げる。


「はい、ムアさんとドルさん、私の古い友人です。」


ニコニコと答えるリリスさん。


「大丈夫だ、ユラ。この女性は本物だよ。」


ムツキさんが答える。


「久しいな、光のエルフ。」


ムツキさんがリリスさんに話しかける。


「・・・、どなたでしたっけ・・・?」


唇に指を当てて、首を傾げるリリスさん。


そして大きくズッコケるムツキさん。


なんとか冷静さを装い、リリスさんに答える。


「ベリエル様の従者の蛇だ。」


ムツキさんの袖から、白ヘビのシロちゃんが顔を出す。


それを見て、


「あーーー!ヘビの姫様。だいぶお姿が変わりましたのね。」


嬉しそうに話すリリスさん。


「早速ですが、リリス様、私はそのムア爺・・・、いえ、ムアハルト様とドルスキン様の使いでアナタに会いにやってきました。しかし・・・」


ユラさんは、神秘の森で起こった出来事、ギルムンドという男の話をする。


「ここでアナタに会えて本当によかった。お二人より預かっている物がございます。」


ユラさんは、バッグから二人の手紙と短剣をマーリさんに手渡す。


マーリさんから手紙を受け取り、手紙を読み始めるリリスさん。


「ふむふむ。」


・・・


「あー、そうだったんですね。ふむふむ。」


手紙を読みながらゆっくりと話すリリスさん。


リリスさんは、僕たちの方に視線を向け、ゆっくりと口を開く。


「他の種族の皆さまのお住まいと同じように、闇の王の手が私たちの森にも伸びているのかもしれません。」


・・・


「実は・・・、私たちの森で・・・」


・・・


「リリス様、私が説明しましょう。」


マーリさんが代わりに神秘の森で起こっている出来事を話し始めた。


「ギルムンドは、昔は無口で優しい男で、先代の嬢王からの参謀役だった。しかし、ある日から急にあのような男になってな。」


「他種族を差別し、エルフ族こそがこの大陸を統べる種族であると主張し始めた。」


「中には強く反発する者もいたが、謎の事故に巻き込まれて命を落としていった。」


「終いには、リリス様よりもギルムンドの発言に従うエルフが増えてきた。」


「そして、ある日、こうなったきっかけとなる出来事が起こった・・・。夜中に複数のエルフが、リリス様の暗殺を実施したのだ。」


「忠実な配下の者の助けにより、なんとか私とリリス様は逃れる事ができた。」


「しかし、神秘の森から逃れた矢先に、さっきのダークエルフの刺客に追われる始末だ。」


「正直、私たちもここから動けないでいた。そこにお前たちがやってきて、今にいたるわけだ。」


マーリさんはゆっくりとお茶を飲む。


・・・


「そうだったのね・・・」


ユラさんが話す。


リリスさんはニコニコしながら、ムツキさんの袖から出てきた白ヘビのシロちゃんの頭を撫でている。


・・・


「さあ、夕食の準備をしましょう。」


リリスさんはニコニコしながら話す。


・・・


マーリさんはそんな嬢王が好きなのか、笑みを浮かべて返事をした。

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