第76話:ご馳走と作戦会議
「何これっ!!美味しい!!!」
ユラさんは、目の前の鶏肉の丸焼きを豪快に頬張っている。
食卓には、緑色の鳥の丸焼きと、体に良さそうな野菜の温スープ、多くの果実が並んでいる。
「これは神秘の森にしか生息しない、グリーンバードさんの丸焼きです。」
「私たちが育てる薬草などをご飯として与えているので、体にもとってもいいのですよ。」
リリスさんが、肉を上品に食べながら話す。
「ヒューマンの方々が、この森でよく探しているレッドバードさんのお肉も食べてみたいのですけど・・・。私には合わないと、マーリが言うもので・・・」
リリスさんはマーリさんをチラっと見つめる。
マーリさんは先ほどから黙々と食事を進めている。
「このお酒も、ホント美味しいわ!」
ミナさんは相変わらずゴクゴクと果実酒を飲んでいる。
「これは私たちが飲んでいる薬膳酒です。こちらも体にとってもいいのですよ。」
ミナさんはマーリさんを、チラっと見て視線をお酒に戻した。
シズクさんは相変わらず無表情でパクパク、ゴクゴクを繰り返している。
今日も安定稼働だ。
ムツキさんは僕の隣で白ヘビのシロちゃんに鶏肉をあげながら、ゆっくりと食事を楽しんでいる。
シロちゃんは、たまに僕にも鶏肉をおねだりするので、お肉を切って与えてあげる。
その風景をリリスさんは微笑みながらみている。
ひとしきり食事を終えて、ユラさんが話を切り出した。
「これからどうするかよね・・・」
「エルフたちは嬢王でなくて、なんであんなやつの言うことを聞いているのかしら・・・」
・・・
「これは私の推測だが・・・」
マーリさんが口を開く。
「これまでリリス様をこの上なく慕っていた同胞たちが、いきなり反旗を翻すとは到底思えない。」
「何かしらの魔術で操られているのではないかと思う。」
リリスさんの方をチラっと見つめると、相変わらずニコニコ笑っている。
「その黒幕は、間違いなくギルムンドで、あのダークエルフもギルムンドの差し金なのではないかと思う。」
・・・
「ダークエルフが、ハイエルフに協力?それはないんじゃない?」
ミナさんが口を挟む。
「もちろんそう思う。エルフはエルフでも、本来なら我々はお互い干渉しない種族。協力すると言うのはありえない話だ。だが、やつが私たちを執拗に追いかける理由が他にないんだ。」
・・・
しばしの沈黙が流れる。
・・・
「まずは神秘の森で何が起こっているかよね。それを確かめないと・・・。」
ユラさんが沈黙を破る。
「偵察か・・・」
「私があのムカつくダークエルフをぶち殺してもいいのよ。」
ムツキさんがボソッと
「ダメよ。仮にエルフが操られていたとするわ。ダークエルフと一戦交えたら、エルフたちが援軍に来る可能性が高い。エルフと戦うわけにはいかないわ。」
ユラさんに止められ、ムツキさんは顔をしかめる。
「ダークエルフとやり合うのは避けたい。でも、あのダークエルフは魔力探知能力が高いと思うの。やつにバレずに行くとなると・・・」
ユラさん、ミナさん、ムツキさんの視線がシズクさんに集まる。
「わたひか・・・」
シズクさんは果実をモグモグと頬張りながら呟く。
リリスさんがゆっくりと話し始める。
「私もずっとみんなの事が気になっていました。様子をみて来てくれたら本当に嬉しい限りです。」
「ムアさん、ドルさんの手紙には、闇のモンスター軍の侵略が、近々起こり得るであろう事。エルフ族の力を貸してほしいと書いてありました。お力をお貸ししたいのは山々なのですが、みんなが私の言葉を聞いてくれるかどうか・・・」
リリスさんの表情が曇る。
「どうにかみなの目を覚させないと・・・」
マーリさんは相変わらず厳しい表情だ。
「でも、あのダークエルフに見つからないように行くとなると、あとは・・・。」
その様子をみて、
「ぼっ、僕も行きます!!」
僕は名乗り出た。
「シトは、確かに偵察には適しているんだけど、今は微小ながらも魔力を発している。見つかる可能性が高いわね。」
ミナさんが僕を見つめる。
「私も感じていましたわ。どこか懐かしい魔力をシトさんから少しだけ感じますの。」
リリスさんは首を傾げる。
ユラさん、ミナさん、シズクさん、ムツキさんは再び顔を見合わせた。
「リリス様なら話しても・・・」
ユラさんの言葉にみんなが頷く。
ユラさんはこれまでの事、僕がベリエルさんの魔力を持つ事をゆっくりと話した。
その話を聞いて目を丸くして言葉を失うマーリさん。
「そうですか・・・・ベリエル様の・・・」
リリスさんは初めて僕を悲しそうな顔で見つめた。
しかし、すぐに笑顔になり、
「なら良い方法がありますわ。」
胸の前で手を合わせて笑顔を向ける。
「シトさんはあとで私のお部屋に。」
「それと・・・、これから私に"様"をつけた方は罰ゲームです。」
笑顔で人指し指を立てて、僕らに向けた。
「でも、どうやってあの神秘の森の結界に入れば・・・」
「私とマーリなら入れますけど、すぐにバレてしまいますわ。」
リリスさんは少し困った顔をする。
「これ・・・」
その時、ミナさんが光の勾玉を差し出した。
「あんた!これ、どうしたのよ?」
ユラさんが驚く。
「神秘の森で、ギルムンドを突き飛ばした時にこっそりくすねました。」
ミナさんはピースサインをする。
「やるじゃん!!!」
「よし!偵察隊は明日の朝、出発よ!」
シズクさんと僕は、大きく頷いた。
「今晩はゆっくりするといい。大きくはないが浴槽もある。旅の疲れを取ってくれ。」
マーリさんが立ち上がる。
ユラさん、ミナさん、シズクさん、ムツキさんは目を輝かせて喜びの声をあげた。
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