第72話:下級種族

(※ユラ視点)


「ふん!これが魔道士ムアハルトに、ドワーフの長ドルスキンの手紙だと!」


「こんなものは信じるにも値しない!」


ギルムンドと名乗るその男は、玉座に脚を組んで頬杖をついている。


オールバックにした長い銀髪と白い肌、そしてつり上がった鋭い眼光が、私たちへの異常な嫌悪感を感じさせる。


「その短剣がムアハルト様、ドルスキン様の証です。どうか嬢王にお話を。」


私たちは玉座に座るギルムンドにひざまずく。


「嬢王は、お前らのような下級種族の者には会わぬ。このまま立ち去り、二度とこの地に踏み入るな!」


ギルムンドは、私たちに向かって、手紙と短剣を放り投げる。


投げ捨てられた短剣と手紙を、シトがアワアワしながら拾い集める。


「それでも・・・」


「それでもこの地に留まると言うならば・・・」


ギルムンドは、玉座の横に並ぶエルフの戦士たちに視線を投げる。


それを察したかのように、先ほどの屈強なエルフの戦士たちが、私たちに敵意をむき出しにする。


「それに、それが奴らからの手紙だとしても、エルフの嬢王がヒューマンやドワーフなどの話なぞ聞かん!種族の違いというものをいい加減に理解したらどうだ。」


ギルムンドは立ち上がり、その吊り上がった目で私たちを見下ろす。


「この勾玉は、本来は私たちからの敬意の証、貴様らが持つには分相応だ。」


ギルムンドは、勾玉を懐にしまう。


「こやつらを連れていけ!」


「はっ!」


屈強な戦士たちが私たちを取り囲み、手荒に歩き出すよう促す。


「ふん!汚らしい種族の混血が!」


ギルムンドは、明らかにミナを一瞥し、その言葉を放った。


ギルムンドの方を一度は睨み、その後、唇をんで下を向くミナ。


その時、


「取り消せっ・・・」


「今の・・・」


「今の言葉を・・・」


「取り消せーーー!!!!!」


シトが急に叫んだかと思うと暴れ出した!


あたりを囲む戦士たちの制止を振り切り、ギルムンドに殴りかかる。


ギルムンドとシトの距離が縮まる。


その時、


「シトッ!!!!」


ギルムンドを横から突き飛ばし、シトの前に立ち塞がるミナ。


ギルムンドは、一回転して地面に転がり、細身の尻を突き出しつんのめっている。


「いいのっ!」


「大丈夫よっ!落ち着いて・・・」


両手を広げてシトの前に立つミナ。


シトは、ハッと我を取り戻し、あげた拳を震わせている。


「シト・・・、行くわよ。」


近くにいた私はシトの拳に触れ、リーダー格の屈強な戦士に話しかける。


「大丈夫。もう騒動は起こさないわ。入り口に向かう。」


戦士は、シトの背中をドンと手荒に押し、歩く事を促した。


「この・・・、貴様ら・・・、許さんぞ!この下級種族が!!!」


ギルムンドは怒りに震えながら、私たちに向かって怒声を浴びせる。


屈強なエルフの戦士に囲まれながら、私たちは着いて早々に神秘の森を後にした。

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