第70話:森の亡霊
「ユラ、気配を感じる。」
ムツキさんが、小声でユラさんに耳打ちをする
シズクさんも感じているのだろう。
ユラさんと視線を合わせて大きく頷く。
僕たちは今、行方不明事件が起きているフェローナの森を進んでいる。
昼間だというのに、辺りは大きな樹木で覆われており薄暗い。
そして、獣たちの姿もなく、辺りは静まりかえっている。
「もうすぐ、地図に書いてあるポイントのはずよ。」
ユラさんが地図を片手に持ちながら僕らを見つめる。
僕たちは、ある人にムア爺の手紙を届けるために、神秘の森を目指している。
その人物の名前をガルガン山のドワーフの長、ドルさん(ドルスキン)が教えてくれた。
エルフたちが集う森、"神秘の森"の嬢王、リリス・エルフィード。
あの深淵の大樹海の結界を作ったエルフ、アイラ・エルフィードのお姉さんである。
地図に記されたポイントは、まさにフェローナの森の奥地を記していた。
ムア爺の話によると、神秘の森には特別な結界が張ってあるとのこと。
エルフ、またはエルフと親しい者しか入ることができない不可視の森らしい。
ムア爺から、結界を開く鍵、光の勾玉は預かっている。
あとはその鍵を使う場所を見つけるだけだ。
僕たちは急な奇襲に備えて、僕とシズクさんが前列、その後ろにユラさん、ミナさん、最後尾にムツキさんという隊列で歩いている。
獣道を突き進んでいくと、樹木に覆われていない開けた広い場所にたどり着いた。
前方を歩く僕とシズクさん。
シズクさんは突如、脚を止めて僕を手で静止する。
「来るわ。」
シズクさんが
僕も慌てて
その瞬間、辺り一面の地面が紫色に光り輝き、武器を持ったスケルトンが地面から這い出てきた。
このフェローナの森で死んでいった者の死霊なのか、巨大な大男の骨格、小型のモンスターのような骨格の者、それぞれである。中にはボロボロに欠けた剣や、斧、矢をそのまま握りしめている者さえいる。
「ギギギギギ・・・・」
骨のなる音なのか、スケルトンの叫び声なのか、異様な音が辺りで鳴り響く。
「闇魔法!!」
ミナさんが叫ぶ。
あっという間に僕たちを数十体のスケルトンが取り囲んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うおおおおおお!」
少し刀身が短くなった魔剣、炎凛で一体のスケルトンを切りつける。
返す反動で回転し、後ろの一体のスケルトンの胴をなぎる。
スケルトンはガシャンと派手な破壊音を立てて崩れ落ちる。
ユラさん、ミナさんを中心に、僕と、シズクさん、ムツキさんが三方向に別れてスケルトンと対峙する。
シズクさんは、何体ものスケルトンの間を素早く走り抜けながら、雨音を振り抜き、鮮やかにスケルトンを屠っていく。
ムツキさんは背中に背負っていた槍を、鮮やかに回転させたかと思うと、複数のスケルトンを豪快になぎ倒していく。
・・・
・・・
しかし、僕はあることに気づく!!
・・・
おかしい!!
・・・
かなりの数を倒したはずなのに、数が減っている気がしない。
スケルトンの攻撃をかわしながら、粉々になったスケルトンを注意深く見る。
すると、粉々になったはずのスケルトンの残骸が、カタカタと音を立てて復活している。
「これって!!!復活している???」
「アンデットなんだから当たり前でしょ!!」
ユラさんが僕に叫び返す。
「ムツキ、シズク、術者が近くにいるはず!」
ムツキさん、シズクさんに叫んだ後、ユラさんは風魔法を発動する。
「エアリアルショットーーー!」
複数の風の魔力弾が、スケルトンの群に向かって放たれ大きな爆発を起こす。
そして真逆の方向のスケルトンには、
「サンダーショット!!!」
ミナさんが放った雷の魔力弾が、スケルトンたちを破壊した。
ほとんどのスケルトンがバラバラになっている。
しかし、紫のオーラが再び辺りを包むと、粉々になったスケルトンの破片が徐々に浮かび上がってくる。
「シズク、ムツキ!!!」
ユラさんが叫ぶ!!
探知能力の高いシズクさん、ムツキさんは、魔力が大きく発せされる瞬間を見逃さなかった!
すぐに何かを感じたようで葉が生い茂る1本の樹木に素早く目を向ける。
シズクさんは素早い動作で、ミニスカートから伸びる太ももに装備してある短刀を、樹木に向かって投げた。
そしてムツキさんは、ローブの袖から一匹の白ヘビを樹木に向かって放った。
「ギャアアッ!!」
・・・
うめき声が聞こえた後、辺り一面の紫のオーラは静まり、空中に浮いていたスケルトンの破片も大きな音を立てて地面に落ちた。
「やった・・・?」
ミナさんが辺りを見渡しながら問いかける。
「わからない。でも何かしらの傷は負わせたはず。」
「シト、いくわ。」
シズクさんが僕についてくるよう合図をする。
注意深くシズクさんが短剣を投げた場所に近付く。
樹木の下には血のついた短剣が落ちており、樹木にはかわされた短剣が突き刺さっている。
「チッ。仕留め損なった。」
シズクさんは眉間にシワを寄せる。
「こっちも逃したわ。」
ムツキさんの放った白ヘビが戻り、ムツキさんの腕に絡みつく。
「どうやら、行方不明ってのも本当らしいわね・・・。」
ユラさんが呟き、僕たちはこれから進む森の奥を見つめた。
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