第69話:ミナの夜
(※ミナ視点)
「ふぅ・・・」
今晩泊まっている宿屋には、温泉が併設してあった。
誰もいない温泉に、ゆっくりと肩まで浸かる。
私はお酒の力を借りて、そのまま一度眠りについた。
しかし、先ほどパチッと目が覚めてしまい、それでもベットの中でゴロゴロしていたが全く眠れない。
諦めて、せめてさっぱりしようと温泉に浸かりにやってきた。
・・・
・・・
「エルフの嬢王と、神秘の森ね・・・・」
・・・
エルフの嬢王がいるということは、エルフ族の大きな集落があるのだろう。
本音をいうとエルフ族とは、あまり関わりたくない。
彼らは、自分たちを高等の種族であるという強い固定観念を持ち、他の民族を下に見る傾向がある。もちろん、中にはそういった思想を持っていない社交的な者たちもいるだろう。
でも、私と母さんが出会ってきたエルフたちは、一言でいうとプライドの高すぎる高飛車なエルフであった。
ハーフエルフである母さんと、その娘である私は、これまで彼らから至る所で差別的な扱いをされてきた。
しかも私たちは、ダークエルフ。一部の純血のハイエルフたちからは、それはそれはひどい仕打ちを受けたものだ。
母さんが死んでしまってから、私はエルフの血が入っているということを、ひた隠して生きてきた。
幸いなのか私にはエルフの特徴である、尖った耳などの見た目の遺伝が薄かった。
何も言わなければ、ヒューマンとして扱われることがほとんどだった。
もちろん、中にはすぐにわかる者も極少数いたが。
そんなことを考えながら、水で顔を洗う。
・・・
・・・
「ふぅ・・・、正直逃げたいわ・・・」
パチャンッ!!
・・・
岩陰のある方向で水の跳ねる音がする。
「誰?誰かいるの?」
私は念のために、胸元を腕で隠して声をかける。
・・・
・・・
しばらくして、ゆっくりと出てきたは、私のよく知る人物だった。
「ずいまぜんっ!!!」
目の前で、申し訳そうに頭を下げるシト。
「眠れなくてお湯に浸かりにきたら、ミナさんが入ってきて、
・・・
「なんだー!!シトーーーーー!驚かせないでよー!!」
私は、安心して肩の力を抜く。
「別に隠れなくてもいいじゃない!夜中は混浴って入り口に書いてあったし。」
「はい・・・、出ようと思ったのですが、ミナさんが真剣な顔をしていたので出ずらくて・・・」
・・・
・・・
「そんな顔してたんだ・・・」
私とシトは、少し距離をとって横に並ぶ。
「あの・・・、逃げたいって・・・」
・・・
・・・
「聞こえてたのね・・・」
・・・
私は少しの笑みを浮かべて、恥ずかしさを隠す。
・・・
・・・
「正直、エルフ族って苦手なのよね・・・。私はヒューマンとのクオーターでしょ。きっとまた変な扱いされるだろうなーって・・・」
・・・
シトはしばらくしてから口を開く。
・・・
「ぼっ・・・、僕はミナさんはとても魅力的な女性だと思っています。僕は今のミナさんがとても好きだし、何族だろうが関係ないと思います」
「もし、ミナさんを侮辱する人がいたら、僕はその人を許さない・・・」
シトの強い言葉を聞いて、私の頰が赤くなる。
この子はオドオドしながらも、たまに強い気持ちを話す時がある。
その時の目の力がとても力強くて、ドキッとさせられる。
「それに・・・」
何かを言いかけ、口を
「それに?」
続きが気になって問いかける。
「僕はどうやら普通のヒューマンではなくて、どこかモンスターみたいですし・・・」
「でも、そんな僕にもミナさんたちは何も変わらず接してくれている・・・、僕は本当にみんなが仲間になってくれてよかったと思っています。」
シトは頭をかきながら、私の方に笑みを浮かべる。
そう・・・、この子も私以上にどうする事もできない何かを背負っている。
私たちを守るために、よくわからない魔力を使い、モンスター化していく。
そしてその代償として、身体に異変が起きている。
「だから、僕はみんなの事を守れる強さが欲しいと思っています。」
シトは、水面を見ながら続けた。
シトもユラもシズクも、私の血筋を話しても何も変わなかった。
"それが何か?"程度で、特別視も何もしない。
なんて居心地の良い仲間たちなのだろう。
私もこの仲間たちがとても気に入っている。
・・・
・・・
「シト・・・、なんかありがとう・・・、ちょっと前向きになれた気がする!」
・・・
シトは私に笑みを浮かべる。
・・・
ふむ・・・
・・・
「こっち・・・、いらっしゃい!」
・・・
「えっ!!!大丈夫です!!だって、お互い裸ですから!!」
目の前では慌てふためているシトがいる。
「どうせ、腕が
シトのアザで埋め尽くされた右腕に視線を投げる。
こうして見ると得体のしれない力が、彼の身体を
そして、ムツキから聞いている。
シトの右腕は、魔力で強引に生成されたもので、まだ彼の身体には適合しておらず、魔力の流れが乱れている時がある。
その時は魔道士が自らの魔力を流し込んで干渉してあげれば落ち着くだろうと。
「少し見てあげるからおいで。」
シトを手招きする。
少しだけオドオドしたシトは、諦めて私の方に近づいてきた。
彼の正面に座り、右腕を両手で持ち魔力の流れを確認する。
腕が熱い・・・、熱が籠っている。
彼の手が私の大きな胸の間に挟まる。
シトはそれが気になってしょうがないのか、私の胸元をチラチラと見つめる。
彼の火照った顔が、可愛らしい。
「どう・・・?」
少しだけ微弱な魔力を流し込む。
「あ・・・、なんだか楽になってきました・・・」
シトは目をつぶり私に右腕を委ねる。
・・・
・・・
「ふむ・・・」
私は彼の手を、私の左胸に誘う。
シトがびっくりして目を開けた。
「えっ!ミナさんっ!!!」
「ちょっと!!!手が胸に!!!」
・・・
「うふふッ・・」
・・・
「今日は邪魔が入らないみたいだし・・・」
・・・
「いいのよ・・・、たくさんモチモチして・・・」
私の胸に添えてあるシトの手に、私の手を重ねて握りしめる。
彼の手が私の胸に埋もれていく。
・・・
「そして、それ以上も・・・」
・・・
彼の顔に近く。
・・・
ああっ・・・
この気持ち・・・
年甲斐もなくドキドキしてしまう。
・・・
シトは、私の大きな胸に目線を向け、顔を真っ赤にしている。
・・・
「シト・・・、んー・・・」
私は目を瞑り、シトの唇に唇を近づけていく。
そして・・・
・・・
・・・
いつまでもこない唇を不思議に思い、目を開ける。
そこには彼の姿はなかった。
・・
視線を下に向けると、温泉の中に沈んだシトの姿があった。
ブクブクと泡が浮き上がる。
その光景に思わず、吹き出して笑ってしまう。
「シト君はもう少し大人にならないと、たくさんのチャンスを逃すことになります。」
私は、沈んでいるシトを抱えながら話す。
「でも、このありえないピュアさも君の魅力なのかもね・・・」
「ありがと・・・、シト」
私はシトの頰に、唇を重ねる。
その後、彼はしばらくして意識を取り戻し、私の何もつけていない胸をみて、逃げるように温泉から出ていた。
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