第66話:ムツキとシト

(※ムツキ視点)


夜も更けて辺りは静まり返っている。


その静けさの中で、あの人の匂いを感じて、吸い寄せられるように歩いてきた。


私の好きな匂いを持つ少年は、湧き水が流れる水辺でうずくまっている。


私は少年を驚かせないように、そっと声をかけた。


「どうしたの?」


少しだけ体を震わせて振り向くシト。


「腕が熱くて・・・」


シトは動かなくなった右腕を抑えながら少しの笑みを浮かべる。


心配させないようにつくろっている表情がバレバレだ。


「見せてごらんなさい。」


シトに近寄り、腕を優しく触る。


今はそんなに膨大な魔力を感じない。


しかし、魔力の流れが正常ではなく、ちょっとした暴走状態を継続している。


私はシトの腕をさすりながら私の魔力を流して中和し、暴れる魔力を強引に制御していく。


「あれ・・・、なんだから熱くなくなってきた・・・」


「この腕は魔力で強引に生成されたモノ。シトの身体に馴染んでいないからだと思うわ。」


そしてもちろんヒューマンの器が、あれだけの魔力を解放して無事で済むはずがない。


「このままでは・・・」


私は言いかけた言葉をつぐむ。


この力を使い続ければ、いつかこの子はうちなる巨大な魔力に喰われるだろう。


でも、きっとこの子は仲間たちを守るために使うのだろうな・・・。


・・・


「すいません・・・」


・・・


「僕がベリエル様ではなくて・・・」


突然、謝り出したシト。


とても悲しそうな顔をしている。


どうしようもできないことなのに・・・、本当に申し訳なさそうで今にも泣きそうだ。


・・・


「あの・・・、夢の話です。」


「夢の中で・・・、ベリエルさんだと思うのですが、僕に語りかけて・・・」


・・・


「女を守れと・・・」


・・・


私はシトの言葉を聞いて目を丸くする。


・・・


・・・


「プッ!」


「あははははは!」


・・・


「ベリエル様らしいわね。」


「これから、またベリエルさんの力を使ってしまう時がくるかもしれません。その時、もしかしたらベリエルさんの意識が復活して、ムツキさんと会えたりするのでしょうか・・・?」


「でも、もしベリエルさんが復活したその時、僕は一体どうなるんだろう・・・」


首を傾げて考えるシトを見つめる。


「でも、ムツキさんがベリエルさんにまた会えるなら、それはそれでいいのかな・・・」


・・・


私はブツブツと独り言を呟くシトを呆気にとられて見つめる。


この子、本当にそんなこと思っているの???


どれだけお人好しなのよ・・・


・・・


「ふふっ、あはははは!!」


・・・


「ごめん!ごめん!!」


「君のことをベリエル様と重ねるのはやめるわ。」


・・・


「・・・、シトはシトだもんね・・・」


「シト、君はこれから何をしていきたい?」


シトは少し照れながら話し始める。


「僕は大事な人を守りたい。そして仲間とずっと一緒に冒険したりして楽しく過ごしていきたいです。」


「ムツキさんが闇の王に狙われるのなら、僕が全力で守ります!」


顔を真っ赤にして照れながらも、その瞳には強い意識を感じる。


私はシトの瞳を見つめる。


私がモンスターである事は知っているはずなのに・・・


その私を守るですって・・・。


・・・


・・・


「あはははは!!!」


「やっぱりキミはベリエル様に似てるかも・・・」


「わかった・・・」


「じゃあ私も約束しましょう。アナタの命は誰にも奪わせない。」


私は、シトに近寄り、顔をそっと胸の中に包み込む。


ベリエル様・・・


私は命にかえてもこの少年を守ります。


・・・


ベリエル様としてではなく、シトとして・・・


一人の少年として・・・


・・・


・・・


私の瞳から一筋の涙が流れ落ちる。


・・・


「んーーーー!」


私はシトに唇を突き出す!


・・・


「えっ!どうしたんですか?」


「だからキス!!!」


「私は約束するときに、契約のキスを交わすの・・・」


「えっ!!えっ!!!」


オドオドしている姿がかわいい。


・・・


・・・


シトは観念したのか、目をつむり唇を突き出す。


「ふふふ、いただきまーす!」


彼の唇に、自分の唇を重ねようとしたその時。


ビシッ!!!


「おいおい、ムツキさーーーん!一体何をされているのかしら?」


・・・


眉間にビキビキとシワを寄せたユラがたたずむ。


「こら!ヘビ女!順番は守りなさいよ!」


ミナが私をシトから引き離そうとする。


「そうだ。そうだ。私はずっと順番を待ってるが、私のターンはまだこない。」


シズクが私の着物に手を掛ける。


私も負けずにミナ、シズクの服を掴み、揉みくちゃになる。


「みなさん!!」


「むっ、むっ、胸が・・・・」


シトが顔を真っ赤にしながら、私たちに向かって指を指している。


気付くと私とミナとシズクの胸が、ここぞとばかりに丸見えになっている。


シトの顔が真っ赤になり、目がグルグルと回っている。


「ほら、悪ふざけはやめなさいよ!また鼻血出すでしょう!」


ユラがシトの前に立ち、私たちに背を向けて視線をふさぐ。


その時、


「はい!ユラのおっぱいも!」


バサッ!


私はユラのタンクトップを思いっきりずり下ろした。


シトの前でユラの巨乳があらわになり、大きくボイーンと揺れる。


シトの目がユラのおっぱいに釘付けになる。


二人の動きが固まる。


・・・・


「きゃああああー!!!!」


叫び声をあげて胸を隠し、座り込むユラ。


視界をさえぎっていたユラが座り込み、私からシトの姿が見える。


そこには、キレイに鼻血を吹き出しているシトの姿が見えた。


「あらあら・・・、純粋無垢だこと。」


・・・


こんな騒がしい雰囲気もいいかも。


私は夜空に光る月を見つけた。


・・・


ムツキ・・・


・・・


月のない夜に、適当な偽名のつもりで名乗った名前・・・


今はなぜだから、その名前で呼ばれるのが心地よい。


・・・


「お主らは何をやっておるんじゃ・・・」


ちょうどドワーフの長が騒ぎを聞きつけてやってきた。


「ベリエル様と同じか・・・、いいかもね・・・」


ドワーフは私の顔を覗き込み、また正面をみて優しい笑みを浮かべ、ヒゲをさする。


「うむ。」


昔はイケメンだったはずだが、今はクシャクシャに年老いたドワーフは嬉しそうに頷いた。

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