第44話:Re:嬢王との1vs1

「あのチョコマカする肉体強化は使わないのか?遠慮しなくていいんだぞ。」


両手のガードをあげ、片方の脚でリズムを取りながら、ローザさんが技の発動を促す。


「今日はこの前のようにはいかない!!」


僕は両腕の動きを止めて、あえてローザさんに手の内を見せる。


ヘビの頭をした手がポアッと光り輝いた。


そう、これはシズクさん伝授の、自らの気を練って発射する"波動弾はどうだん"の応用だ。


本来なら相手に向かって光の球を発射する技だが、それを手にまとわせながら戦う改良技である。


シズクさんの方をチラリとみる。


シズクさんは視線に気づき、親指を立ててGood!のサインをしてくれた。


少しの笑みをシズクさんに返し、視線をローザさんに戻す。


「いくぞ!!!!!」


ジリジリとローザさんとの距離を詰める。


そしてついにお互いの拳が届く距離に近づいた。


「お前、やってる事の意味がわかってるのか?私とこの距離で打ち合うのか。」


ローザさんが顔をしかめる。


その通りだ!スピードで動き回って戦うスタイルは通用しないことがわかっている。だから、覚悟を決めて接近戦で打ち合うことを選んだ。


ムツキ・スペシャルは7を押す事で技の効果が発動する。


7つのツボを押すまで耐えればいい!


「どうやら、そのつもりなんだな。」


ローザさんがニヤリと笑う。その瞬間、


ドゴッ!!!


僕の顔面にローザさんの右ストーレートがヒットする。


つっ!!!!


ゴクリと唾を飲み込むと、血の味がする。


大丈夫!


特訓を思い出せ!鼻から垂れる血を腕で拭う。


集中・・・!集中・・・!!


ローザさんの鋭い右ストレートが飛んでくる。


その瞬間、左手でローザさんの右ストレートを受け止め、同時に右手を素早くわせて、ローザさんの左の太ももの内側を鋭いスピードでつく。


ローザさんの左太ももにポアッと光がともる。


「ちっ、なんのつもりだ。何をしている!」


ローザさんは僕を睨む。


その瞬間、左のフックが飛んでくる。


それを右腕でガシッと受け止める。拳の勢いで僕の体が少し浮くが、同時に左手で素早く右ふとももの内側を突く。


2つ目!!!!


右の太ももの光を見つめるローザさん。


「ふん。なんだか知らんがいいだろう。」


「おい、覚悟しろよ。」


「もう死んでも知らんぞ!」


ローザさんは、腕を胸の前でクロスし、目をつむり何かを唱え始める。


・・・


なんだっ!!!とてもイヤな感じがする。


・・・


ローザさんが何かを唱え終わり、ゆっくりと目を開けた瞬間、


ローザさんの身体から赤いオーラが立ち昇る。


「肉体強化ってのはな・・・・。」


ローザさんの身体の赤いオーラが収まり、身体中の皮膚が赤らんだ。


「こうやってやるんだよーーー!!!!!」


目の前から姿を消したローザーさん。


その瞬間、


ドゴッ!!!!


「ぐっ、あああああ!!!」


頭をすごい力で掴まれ、腹部に膝蹴りがめり込んでいる。


腹部の激痛で膝をついてしまいそうになると、


「あはははーー!!!おネンネするには早いんじゃないかい!!!」


倒れこもうとする僕の顔にローザさんの膝がめり込み、ふっと飛ばされた。


「ぐあああっ!!!」


鼻と口から血が飛び散る。


「あははははーーー!!これだから男との戦闘はたまらないんだよ!!!」


「ほら!もっと!もっと!気持ちよくさせてくれよ!!!」


「ううううっ・・・!」


仰向けに倒れて痛みに苦しむ。


なんだ・・・


なんなんだ!


まるで・・・!!まるで別人じゃないか!!!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(※ユラ視点)


「シトっ!!!」


嬢王の動きが明らかに変わっている。


シトが何を狙っているのかは私にもわからない。でも、さっきまでは互角の体術を披露していた。


でも、今は違う!!


赤いオーラと共に嬢王の動きが明らかに変わった。


私たちの目の前では、嬢王が倒れたシトに馬乗りになり、一方的に殴りつけている。


「おい、あの少年、下手したら死ぬぞ。あの状態の嬢王は狂気だ。欲求の赴くままに相手を破壊する。あーなった嬢王と戦って、生き残った者はいない!」


近くにいた嬢王の側近のソレアが私に話しかける。


シトに視線を戻す。


「シトーーーーー!!!」


ミナ、シズクも大声を出して、シトに呼びかけている。


嬢王の攻撃が激化するに連れて、会場のボルテージは上がっていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ぐっ!!!!!」


なんてっ!なんてっ!強打だ!!!


ローザさんに馬乗りになられ、怒涛どとうのラッシュを受けている。


何発かは腕で防御しているが、全てを防ぎきれず、重いパンチが何発も顔や身体にめり込む。


「ははははっ!!!!!!」


ローザさんは狂ったような笑みを浮かべて、拳を打ち付けてくる。


だめだ・・・


このままじゃ・・・


打撃に押しつぶされる!!!


殴られる度に血が飛び散る。


視界も悪くなってきた・・・


また・・・


また・・・・、負ける・・・・


強烈な一撃が顔面にめり込み、頭ごと地面に叩きつけられた。


「ぐうっ!!!!!」


殴られた反動で横を向いた瞬間、


観客席の後ろの大きな木の上に、ムツキさんの姿を見た。


ムツキさん・・・


・・・


来てくれたんですね・・・


・・・


ムツキさんから教えてもらったこと・・・・


・・・


・・・


朦朧もうろうとする意識の中で、飛んできた一撃をスレスレで交わす。


ローザさんの拳が地面にめり込む。


拳が顔にカスり、頬がざっくりと切れて血が噴き出す。


・・・


ローザさんの動きが一瞬止まる。


僕はガードをといて、両腕をユラユラと動かした。


「またその動きかい!!うっとおしいんだよーーーー!!!」


ドゴッ!!!


ローザさんの拳が顔面を捉える。


「ぶはっ!!!!!!!」


血が噴き出す。


しかし、ローザさんのウエストのくびれ部分の右側、左側に僕の右手のツキ、左手のツキが同時にヒットする。


4つ!!!


突いた二つの箇所に光が灯る。


視界が悪くなってきた・・・・


片方の目がハレているのだろう。意識も遠のいていく・・・


でも・・・


僕は・・・・


残り3つのツボを・・・


・・・


自分の身体の光など気にせずに、ローザさんの右ストレートが再び僕の顔面にめり込む。


そのストレートに巻き付くように右手を這わせ、ローザさんのお腹の中心をつく。


ローザさんの腹部の中心に光が灯る。


・・・


「ヘビ・・・僕の腕はヘビ・・・・、ヘビ・・・、シロちゃん、ムツキさん・・・」


ああ・・・・、耳鳴りがする・・・


・・・・


・・・


「シッ・・・」


・・・


・・


「シトッ!!!!!」


違う・・・


ユラさんの声・・・


「シトーーーー立ってーーー!!!!」


ミナさんの声・・・


「シトっ!」


シズクさんの声・・・


・・・


・・・


「うおおおおおっ!!!」


拳が当たるのを気にせず、両腕をひたすら、ローザさんの腕に這わせて、上半身に手刀を当てていく。


・・・


「うわああああーーー!!!」


・・・


ローザさんのブラジャーは、僕の手刀に切り裂かれ、何も身につけていない胸が目の前に現れた。


それでも鬼神のように拳を止めないローザーさん。


僕の顔からは血しぶきがまう。


「もっとだ!!!もっとくれてやる!!!」


ローザさんは叫びながら、両手を重ね合わせて、その拳をハンマーのように叩きつけようと振りかぶった。


その瞬間・・・、


ローザさんの何も身につけていない胸が丸見えになった。


「ここだーーーーー!!!!!!」


ヘビのような動きで、僕の両腕がローザさんに向かって伸びる。


「ムツキ・スペシャーーーーーール!!!」


ピトッ!!!


僕の両手の指が、ローザさんの両方のおっぱいの先っぽを見事に突いた!!


7つ!!!!


不意を疲れたローザさんの動きが止まる。


そして、ローザさんの両方の胸の先っぽに光が灯る。


「あははは!!!!!バカめ。そんなもんが効くか!」


・・・


・・・


「うそだ・・・失敗・・・」


とてつもない破壊力を持つと聞いていたムツキ・スペシャルが発動しない・・・


なんで・・・


ローザさんが、止めた拳を再び振り下ろそうとした時、ローザさんの体が小刻みに震え始める。


・・・


・・・


・・・


・・・



「あっ・・・、あんっ!」


・・・


「はああ・・ん!何・・?これ・・・身体中に・・・」


ローザさんが自らの大きな胸を手で握りしめながらもだえ始める。


「ダメ・・・・、そんな・・・あん!気持ちぃぃ!!!」


ローザさんの片手が下腹部へ移る。


んっ???


・・・


なんだか・・・、ローザさんがすごく気持ち良さそうな・・・


んっ???


こっ、これは・・・、これは一体????


僕の上で悶えるローザさんに、視線が釘付けになる。


「はあああん・・・あっ・・、このままじゃ、私・・・もう・・・」


ローザさんが胸を握りしめながら悶えている。


「気持ちいい・・・もう・・・、あん・・・、いっちゃ・・・」


・・・


「はああああんん!!!ダメーーーーー!!!!!」


・・・


ローザさんはそのまま小刻みに痙攣しながら、僕の上に覆いかぶさった。


・・・


・・・


やがてその震えも止まり、ローザさんは完全に動きを止めた。


荒い息づかいだけが、僕の耳元をくすぐる。


身体の痛みに耐えながら、ローザさんを少しずらし、ゆっくりと地面に寝かせる。


そして、痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がった。


・・・


・・・


静寂が闘技場を包む・・・


・・・


「シトーーー!!!!!!」


ユラさん、ミナさん、シズクさんが僕に向かって駆け寄ってくる。


ああ・・・・、ユラさん、また泣いている・・・


もう倒れてしまう・・・


意識が・・・もう・・・


もう身体の感覚がない・・・


意識が途切れそうになった時、懐かしい香りとやわからな感触が僕を包む。


「ああ・・・、やりました・・・やりましたよ・・・」


ムツキさんが立っていたところに視線を送る。


ムツキさんは、少し微笑んでくれた気がした。


一度目をつむり、再度ムツキさんのいた場所をみる。


その時はすでにムツキさんの姿はなかった。


アマゾネスたちの大きな歓声を聴きながら、僕の意識は遂に途絶えた。



そしてこの夜、嬢王を指だけで失神させたムツキ・スペシャルという技が、アマゾネスたちの間で伝説になった。

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