第43話:マチビト来たる

(※ユラ視点)


今日が約束の七日目だ。


私たちは一つの小屋を与えられて、そこで生活していた。


「この村で自由に生活するがいい。」


シトが運ばれた後、嬢王は私たちの縄を外し、自由を与えた。


私は嬢王に喰ってかかった。


「いいの?逃げるかもしれないわよ!」


「逃げるなら逃げればいい。」


「ただし、あの少年はどうだ?仲間が自分の事を信じずに逃げたと聞いたら、あの少年はどう思うだろうな。男として大事な何かを失うんじゃないか?」


「それに暴れても構わんぞ。その時は命をかけて向かってくるがいい。」


嬢王は鋭い視線を私たちに向けた。


そうだ・・・。逃げたとしてもシトとの再会が難しくなる。何よりも、きっとこの七日間で何かしらの策を準備しているシトを、傷つけてしまうかもしれない。


私たちはシトを信じて、大人しく待つことにした。


あの日から七日が経過した。


約束の夜は今夜だ。


・・・


「シト・・・」


私は空を見上げて、シトの無事を祈る。


その時、


「きゃああ!ゴレさんかっこいいーーーー!!!」


黄色い声援の方を向く。


そこには大きな岩を担いで歩いているゴレさんの姿があった。


私たちは何もせずにただ居座る生活は、何となく納得がいかずに、各々ができる仕事を手伝う事にしている。


ミナは、ムア爺から受け継いだゴーレムの"ゴレさん"を召喚して、村の開拓を手伝っている。


ミナに聞いたところ、ゴレさんはサイズを調節できるらしく、今は2mほどのマッチョな大男ぐらいの体型で召喚されている。


「あーーん、ゴレさんのムキムキの岩の筋肉ステキだわー!」


「ゴレさん、それが終わったら私の所にきてーーーん!」


ゴレさんはアマゾネスたちからモテモテである。


アマゾネスは、ゴーレムもイケるのか・・・・


・・・


そんな事を考えていると、


「あの少年、戻ってくるといいな。」


ソレアと名乗る、嬢王の側近が私に声を掛けてくる。


仕事を手伝い、共に生活していると、話しかけてくるアマゾネスも増えてくる。


「ええっ・・・」


本来、気性は荒いものの、根はいい人たちなのかもしれない。


私は料理の手伝いをしながら、ソレアに笑みを浮かべた。


ちょうど、そこに狩りに行っていたシズクの一団が帰ってきた。


「ちょっとそれ!!!なに?」


見たこともない大きな猪を、アマゾネスたちが協力して運んでいる。


「シズクさん、さすがっすよ!」


「いや、見事です!シズク姉の弓は百発百中です!」


大猪を運ぶアマゾネスたちがシズクを賛賞する。


「うむ。君たちにもこの弓術を教えよう。」


シズクは狩りの能力を認められ、今では取り巻きもいるぐらい人気者だ。


「ふぅ・・・・」


大きく息を吐き出して空を見上げる。


段々と夕暮れが近づいてきた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


-- 数時間後 ---


日も暮れて、かがり火がともされている。


嬢王を含め、多くのアマゾネスたちが闘技場に集まっている。


果実酒を飲み、大きな猪の肉を食べ騒いでいる。


そして、宴が始まるのを待ちわびているように、場の空気がソワソワしている。


私たちにも一席が与えられ、夕食を食べている。


「シト・・・、きっと来るわよね。でも、来たところであの嬢王に勝てるの・・・。どうするユラ・・・。暴れる?」


ミナが果実酒をゴクリと飲む。


「シトは来る。そして嬢王も倒すハッピーエンド。」


シズクが猪の肉を頬張ほおばる。


「シトが負けたら、次の相手は私よ。嬢王にシトは渡さないわ。」


私は肉をかじりながら、玉座を睨む。


「じゃあ、ユラの次は私ー!」


ミナが元気よく手をあげて、相変わらず巨大な胸を揺らす。


「いや、弟子が負けたら師匠がカタをつける」


ミナとシズクが、また順番でもめている。


「大丈夫・・・きっと大丈夫。あの子はきっと大丈夫。」


・・・


その時、村の入り口に一つの影が現れる。


「ハア!ハア!ハア!ハア!」


「ユラさーん!!ミナさーーん!!シズクさーーん!!」


シトが大きく手を振って走ってきた!!


「シトッ!!!!!」


私、3人は同時に彼の名を叫んだ。


闘技場を突っ切り、私たちの所に猛ダッシュしてくるシト。


その姿を見た嬢王は立ち上がり、持っていた果実酒のグラスを放り投げた。


同時にアマゾネスたちの歓声も大きくなる。


「ハアッ!ハアッ!ハアッ!道に迷ってしまって・・・・」


シトは私たちの近くにきて息を整える。


「お待たせしました!!!」


ビシッ!!!


「いたーーーーい!」


私の脳天チョップを受け、頭をおさえるシト。


「おっ、おっ、遅いじゃない・・・バカ・・・」


私の中で、何か熱いものが込み上げてくる。


やっぱりこの子は逃げなかった!!


「シト、寂しかったわっ!!!」


ミナがシトの顔を胸の中に思いっきり埋める。


「信じていたぞ、我が弟子よ。」


シズクが、シトをミナからひっぺがそうとシトの腕に抱きつく。


「はいっ!今度こそ勝ってきます!!!」


自信満々に話すシト。よく見ると身体中に何か赤い点のようなものが無数にある。


「シト、これ・・・・」


「あっ、これはですね!ヘビたちとの特訓の証です!」


「ヘビ・・・???」


「はいっ!!!」


シトは私にサラマンダーダガーと光の勾玉を渡してきた。


「ユラさんですよね!この勾玉!寂しくなったらこれを撫でて元気をもらっていました。なんだかユラさんの香りがするみたいで・・・。あと回復魔法も・・・、腕ももう大丈夫です。」


「ありがとうございます!!!」


私の目を見つめながら、ぎゅっと私の手を握りしめるシト。


この子・・・、ちょっとだけ男っぽくなった?


「では、行ってきます!!!」


シトは私たちの全員の顔を強い眼差しで見つめる。


私たちは揃ってシトに、拳を突きつける。


シトは私たちに背を向けて、一度振り返り、再び闘技場の中央に走り出した。


それを見つめていた嬢王も、ゆっくりと中央に向かって歩き始めた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




アマゾネスたちの歓声があたりを包み込む。


僕とローザさんは闘技場の中央で向かい合う。


「よく逃げなかったな。少年。いや・・・、それよりも私の奴隷になりたくなったのか?」


ローザさんは片手でゆっくりと剣を振り回しながら話しかけてくる。


「もっ、もう、もう負けません!」


僕はローザさんの目から視線を外さずに答える。


「ほう。7日間で何ができる?どうせ、お前は私の前にひざまづくだけだろう。」


「もう一度約束してほしい!僕が勝ったら、仲間を解放して、ガルガン山に行かせてほしい!」


「くどい。二言はない。しかし、お前が負けたら、今度こそお前は私のモノだ。」


「約束だっ!!!!」


僕は叫びながら、さっき受け取った剣を大きく横に投げた。


剣が地面に突き刺さる。


「キサマ、なんのつもりだ。舐めてるのか?」


「違う!これが今日の僕の全力の戦い方だ!!!」


手をヘビの頭の形にし、両腕をユラユラと動かす独特の構えをして嬢王を睨む。


「面白い。私に剣なしで挑もうとするとはな!いいだろう。そういう戦いも嫌いじゃないんでね。」


ローザさんも剣を後ろに大きく投げて、拳を握り締めファイティングポーズをとる。


その様子を見ていたアマゾネスたちの歓声がさらに大きく湧く。


その歓声は、まるで大きな地震かのように、闘技場を大きく揺らした。

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