第34話:新たなる旅立ち

僕たちはローランド城を出て少し街をぶらついた後、馴染みの店「ブラックバード」で夕食を食べている。


ユラさんは大好物のブラックバードの丸焼きを黙々と食べている。


「モグモグ・・・、やっぱり最高!!この丸焼き!!この味をまた食べれるとは思っていなかったわ!!」


ユラさんは両手にお肉を持ち、とても嬉しそうだ。


「ごくごくごく!プハーーーー!!!うまいっ!このために生きてるわーーー!!」


果実酒を飲み干すミナさん。勢いよく果実酒が入ったタル型のグラスを、テーブルに置く。


「モグモグ。ゴクゴク。モグモグ。ゴクゴク」


1点を見つめ、お肉と果実酒を交互に口に運ぶシズクさん。シズクさんは美味しい食べ物を食べる時、1点を見つめて黙々と食べる習性がある。安定稼働だ。


この日常の幸せな光景が久しぶり過ぎて、僕は微笑んでしまう。


「でも、ミナの旦那が国王様だったなんて、本当ビックリしたわよ!!」


ユラさんが、モグモグしながら話す。


「ほほほっーーーー、もっとうやまいなさい!」


すでにお酒が入り、顔の赤いミナさん。


「でもね・・・そんなにいいもんじゃないのよ・・・。旦那は家に来ないし、13番目にもなると、そんなに優遇されることもないしね。そこそこいい家と、何人かの執事がいるだけの退屈な生活よ・・・」


「国王となると、お忍びの外出なんかは、だいぶ制限されるみたいでね。本当に去年は1回キリ。城には、本妻がいるでしょう・・・。だから城にはあまり行きたくないのよね・・・」


「毒ヘビの生殺し。」


シズクさんがお肉をモグモグと食べながら、さらっと一言を放つ。


「誰が毒ヘビよ!!!あっちがたくさんの女を相手にしているんだから、私だってたまには・・・ね・・・」


ミナさんが僕にチラッと視線を送る。


その視線がとても色っぽくて、目をそむけてしまう。


「まあ、ミナ夫婦の痴話喧嘩は置いておいて、今後の行動よね。まずはガルガン山に向かって、国王とムア爺の手紙を届ける。そして願わくば、シズクとシトの装備強化が最優先ね。」


みんなでウンウンと頷く。


「ムア爺・・・大丈夫かしら・・・、帝国の最高級魔導師だったんだね・・・。」


ミナさんが果実酒のコップのフチを指でなぞりながら話す。


「そうね・・・、本当は今すぐにでも様子を見に行きたいわよね・・・。」


ユラさんの表情が曇る。


「でも、国王が聖騎士団を派遣すると話していた。エリア4は聖騎士団に任せて、私たちはムア爺に頼まれた事をやりましょう。ガルガン山に行って、私たちも強くなって、そして状況次第でエリア4に乗り込みましょう!」


ユラさんが果実酒を飲み干す。


「それが良策。」


シズクさん、ミナさんが大きく頷く。


「じゃあ、まずはガルガン山攻略!明日は準備に使うわよ!出発は明後日!各自の買い物担当は・・・」


ブラックバードで、準備の役割分担の話が始まった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


-- 翌日 --


僕たちは昼間、買い物をすませて、夕食を取りながら作戦会議をしている最中だ。


ガルガン山・・・。ローランド帝国の西にある大きな山脈だ。

頂上には大きな火口があり、そこには巨大な火竜が住まうと伝えられていた。結界戦争の時には、火竜はその姿を現し、山のふもとに住まうドワーフ族を滅亡の危機までおとしめたらしい。


僕たちの目的は、そのドワーフの国で、ムア爺の知り合いのドルスキンさんに会う事だ。


巨大な火竜・・・、なんだかとてもイヤな感じがする。そんな事を想像していると・・・


「シト!ちゃんと聞いてる?」


ユラさんがこっちを見ている。


「はっ、はっ、はい!すいません!!」


「じゃあ、続けるわね、ガルガン山への最短ルートは、クルビレ湿地帯を抜けるルート。でもここが問題よ。この湿地帯は、亜人族の領地なのよね・・・。正直、無法地帯だから、何かしらの争いに巻き込まれる可能性は高いわ。」


「でも、回り道をすると相当の時間ロス。」


「そうね・・・、夜に入って一晩歩き続けて最短で抜けるのが一番かもね。トラブルに巻き込まれそうになったら、私の魔法で逃げ切る方法しかないかも。」


シズクさんとミナさんが同意する。


「シトはどう?」


・・・


「ぼっ、僕は・・・、出来るだけ早く強くなって、ムア爺を探しに行きたいです!」


・・・


・・・


みんなの顔が微笑む。


・・・


「よし!決まった!最短ルートを抜けて、ガルガン山に向かうわ!」


ユラさんが、僕たちに向かって拳を突き出す。


「そうとなったら、今日はもう寝るわよ!明日、朝一で出発よ!」


「おおーーーー!」


僕たちは掛け声と共に笑いながら、拳を突き出した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



夜も更けて、ユラさん、ミナさん、シズクさんは各々部屋で過ごしている。


明日の朝は早いので、みんな各々準備しているのだろう。


お風呂から上がり、僕は自分の部屋に戻る。


準備は終わったので、後は寝るだけだ。


軽く柔軟してベッドに入る。


「ふーーーーー」


・・・・


・・・・


・・・・


ん????


腕に柔らかいものがあたる・・・


手探りで柔らかいものを触ってみる・・・


ムニュムニュ・・・


「あんっ・・・」


この声・・・


「ミナさん!!!!!」


暗闇に目が慣れてきて、ミナさんの顔が近くに見える。


この手の感触は・・・


はっ、裸なんじゃ??????


僕が手を引っ込めようとすると、ミナさんは僕の手を掴んで離さない。


「あっ、あっ、なんで・・・」


「えーと・・・、今晩は私が添い寝する番ですっ!明日からまた旅でしょう・・・。気持ちが高ぶって眠れないの・・・」


ミナさんの顔が近づき、その艶っぽい表情が、僕の心拍数を高める。


その時・・・


僕の身体の上に、何か柔らかいものがのし掛かる。


「私もいる。今日は私の番。」


「シズクさんっ!!!!!!」


シズクさんは僕の上に馬乗りになり、ゆっくりと僕のシャツのボタンを外していく。


シズクさんの柔らかいお尻が、僕の下半身の上に乗っている。


「あんっ・・・、シト・・・、今日もカチカチ。」


シズクさんは、微笑みのある意地悪な表情を僕に近づける。


・・・・


あっ・・


隣にはミナさん・・・、上にはシズクさん・・・


もう・・・


もう・・・、限界だ!!!!


・・・・


「きゃあああああああ!!!!!!」


僕はシズクさんを押しのけ、ベッドから飛び降りて部屋を出た。


ドンッ!


「きゃっ!」


廊下に出た瞬間、パジャマ姿のユラさんとぶつかった。


・・・


・・・


ユラさんの視線が、大変な事になっている僕の下半身を凝視している。


ユラさんの身体が小刻みに震えている。


「こっ!こっ!このっ!エロ・・・シトッ!!!!!」



ビシッ!!!!!!


僕の頭に久しぶりの脳天チョップがヒットする。


・・・


・・・


「いい加減に寝なさい!!!!!!」


その後、ユラさんのカミナリが、僕ら3人に落ちたのは言うまでもない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


-- 出発の朝 --


僕は大広場のベンチに腰を下ろす。


朝日が気持ちいい。


ユラさん、ミナさん、シズクさんは、何か用事があるらしく、僕だけ先に家を出ることになった。


集合場所はこの大広場だ。


ここでユラさんと出会い、僕の冒険は始まった。


ミナさんと出会い、シズクさんと出会い、ムア爺と出会い、そして王様とも会った。


僕はこれまで起こった出来事を思い出しながら、朝食のパンを食べている。


するといつもの痩せた野良犬が僕のところに寄ってきた。


「久しぶり!元気してた?」


僕は馴染みの犬に、いつものようにパンを半分ちぎって分け与えた。


「また冒険に出て、しばらく来れないけど元気でいてね。」


僕は大広場の旧友の頭を撫でる。


「お待たせーーー!」


遠くから、ミナさんの声がする。


振り返ると三人の女性の姿が見えた。


ユラさんは、黒縁のメガネをかけ、まっすぐな黒髪を一つにまとめている。白のタンクトップに黒の短いショートパンツ、クリスタルが装飾してある腕当てと、ロングブーツ。そして白のローブを着ている。ぴっちりしたタンクトップが、ユラさんの大きな胸をより強調している。


ミナさんは、黒の小さいブラジャーとTバックの上に、胸あてと腰あてのついた軽装備。そして黒のマントを羽織っている。小さめの黒のブラジャーからは、今にも大きな胸がこぼれ落ちそうで、豊満なお尻には、Tバックの紐が食い込んでいる。


シズクさんは、黒のタンクトップに、黒のミニスカート。同じく腕あて、胸あて、ブーツが黒で統一されたライトアーマーを身に付けている。スカートから伸びる、網タイツの脚がとても艶かしくて、目がいってしまう。


「なに見とれてるのよ!!」


ユラさんがニヤニヤしながら、僕を見つめる。


「そっ、そんな事・・・」


「でっ、でも・・・、とってもキレイで目のやり場にこま・・・」


見とれいたのがバレてしまった。はっ、恥ずかしい・・・!!!


「あーーん!シト、もっと近くで見ていいのよー!」


ミナさんが僕に抱きついて、僕の顔を胸に埋める。


ううっ、相変わらずモチモチで・・・


息が・・・息ができない・・・


「離れろ。毒ヘビ。」


シズクさんが、ミナさんの頭をビシッと叩く。


その光景を腰に手を当てながら、笑って見つめるユラさん。


「さあ、行きましょう!目的地はガルガン山!!!」


ユラさんは、ガルガン山の方角を指で指す。


「はーーーい!」


ミナさんがいつものように、胸をボヨンとさせながら手を挙げる。


「了解。」


シズクさんが敬礼のポーズをする。


「はいっ!」


僕も返事をした。


そう、またこの4人での冒険が始める。


もしかしたとんでもない出来事が起こるかもしれない。


でも、この最強の仲間となら、何でもないできる気がした。


そして僕は、ムア爺に言われた言葉を思い出す。


「この女子らを守るんじゃぞい!」


はいっ!!!


僕は心の中でムア爺に向かって大きく返事をした。


そして僕たちは、朝日を浴びながらガルガン山への道を歩み始めた。


[第6章・完]

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