第33話:国王と痴話ゲンカ
(※ユラ視点)
ここは深淵の森の入り口、エリア1。
ムア爺の結界魔法で守ってもらった私たちは、球体の結界に包まれ、空中を移動しながらここまでたどり着いた。
みんなの様子をみる。ミナ、シズクは地面に座り込みうな垂れている。シトは明らかに動揺している。
落ち着いて・・・、落ち着いて考えて・・・
最後の状況を、私は思い出してみる。
「そうよ・・・ムア爺がやられるところを見ていない・・・」
みんなの視線が私に集まる。
「いいっ?ムア爺はまだ死んだと決まったわけじゃない。目くらましのため大きな爆発を起こして、逃げ切った可能性だって十分あるわ!」
「あのエロジジイがそんな簡単に死ぬと思う?」
全員が首を横に振る。
そう、ムア爺が簡単に死ぬわけがない。きっと何かしらの手を使って逃げ切ったに違いない!
「それなら、私たちがやることは一つ。まずはローランド帝国の国王に会うことよ!」
私は自らの言葉で自分を鼓舞する。
「そっ、そうですね!ムア爺が託してくれた事をやらないとですよね!」
シトが立ち上がる。
「ガルガン山で剣、作ってもらう。」
シズクもシトに続いて立ち上がった。
「それなら・・・、私に心当たりがある。行きましょう!ローランド城へ!」
ミナの目に光が戻る。
ムア爺、きっと生きてるわよね・・・
きっとまた会えるわよね。
私は拳を握りしめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-- ローランド帝国/大広場 ---
私たちは、エリア1からローランド帝国に足早に戻ってきた。
やっと帰ってきた・・・
久しぶりの風景にみんなの顔もほころんでいる。
「城に行く前にシャワーを浴びる事を強く希望します!!!」
ミナがビシっと手を挙げる。その反動で大きな胸がボヨンと揺れる。
「そんなのはいい。早く城へ行く。」
シズクが反論する。
「王へ謁見するのよ!!失礼にもなるし、こんなカッコじゃ城門で止められるわよ!」
ミナが熱弁する。
「確かに。それは言えるわね・・・。シャワーを浴びてから行きましょう!」
会えるかわからないが王への謁見である。せめて身なりだけでも清潔にしなければいけない。
私たちは一度自宅に戻り、身なりを整えて城へ向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-- ローランド帝国/ローランド城門 ---
私たちは全員シャワーを浴び、身なりを整えて急いで城に向かった。
ローランド城の城門にたどり着く。
城門は堅く閉ざされているが、城門の脇には関係者の通行用の小さな入り口がある。複数の兵士たちが城に入る者を、入念にチェックしている。私たちはその列に並び、順番が来るのを待った。
「はあ、国王に直接会いたいだとー!!!」
細身の兵士が明らかに疑いの目を向ける。
「ダメだ!ダメだ!国王への直接の謁見なぞ、まかり通るものか!貴様らは一体何者なのだ?」
体の大きな別の兵士が、私たちを追い払うように手で合図をする。
「おいっ!!!貴様ら!!!」
違う兵士が猛スピードでこちらに走ってくる。
「バカ者どもが!!!」
その兵士は息を切らしながら、二人の兵士を叱りつける。そして私たちの方に振り向き、深々と一礼をした。
「お久しぶりでございますね、ミナ様。この者たちは、まだこの任について間もない者たちです。どうかご無礼をお許しください。」
上官の兵士が、再び深々と頭を下げた。
「デューク兵士長、お久しぶりです。お元気でしたか?」
ミナがまるで貴族の娘がするよう丁寧なおじきで答える。
「ふふふっ!」
ミナがクスクスと笑い始める。
「ハハハハハ!」
デューク兵士長も腹を抱えて笑い出した。
「どうしたんだよ!ミナ!お前が国王に会いにくるなって!今日は槍でも降ってくるのかー?」
デュークはミナの肩を叩きながら、話しかける。
「うっさいわねー!今日は全く別件よ!早く話を通してちょうだい!13番目の妻が会いにきたってね!」
・・・
・・・
・・・
「ええええっーーーーーーー!!!!」
私たちは、一斉に叫んだ!
「もっ、もしかして・・・ミナの旦那さんって国王様?????」
私は開いた口が塞がらず、震えた声で質問した。
「13番目なんて、もうなんか補欠っていうか、とりあえずただ名前だけって感じよ・・・」
ミナは照れ臭そうに答えた。
「ミナさんが・・・王様の奥さん・・・???」
シトは、まだ話が腑に落ちていないのか・・・目が点になっている。
「お前さんが自ら来るってことはかなりの急用だな!OK!少しそこで待っててくれ!」
デューク兵長は足早に城の中に姿を消した。
待っている間にデューク兵士長との関係を聞くと、どうやらミナの家に国王がお忍びで通う時の護衛担当でよく話した仲らしい。
「あんた!旦那に会うから、シャワー浴びたかったんじゃないでしょうね?」
私は肘でミナを小突く。
「えへっ!だってしばらく会ってないから、ブサイクになったと思われるの気に入らないじゃん!」
ミナはぺろっと舌を出してウインクした。
そんな話をしていると、デューク兵士長が戻り、私たちはそのまま玉座の間に案内される事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
-- ローランド帝国/ローランド城/玉座の間 ---
ムア爺からの手紙を読んでいる現ローランド帝国国王、ローランド三世。
見るからに高価そうなシャツとパンツに、国王を象徴する立派な刺繍が施された赤いマントを身に付けている。長い髪と整えられたヒゲは、王の威厳を象徴し、今にもシャツを破きそうなムキムキの筋肉が目をひく。
ミナ以外の私たちは玉座に向かい
「ふむ・・・、これは・・・、確かに我が国が認めた最高級の魔導士に与えられる印。ムアハルト・ジーンとは、あの伝説の冒険者の一人ではないか。結界戦争後、姿を見たものはいないと聞くが、まさかご存命だったとは・・・」
国王はミナを見つめてゴホンと咳を1つする。
「それで・・・、深淵の樹海に異常が発生しているというのは本当なのか?」
国王が、私たちに視線を向ける。
「はい、現に八大将軍の一体と思われるモンスターとも対峙いたしました。それに見たこともないモンスターとも遭遇しております。ムア爺・・・いえ、ムアハルト様は私たちにこの手紙を託し、自らが引きつけ役となり、私たちを逃しました。陛下、事態は急を要することかと。どうかよき対応を!」
「なんと、ムアハルト殿が・・・。」
「・・・うむ。わかった!聖騎士団の一団を、すぐに調査に向かわせよう。かつ、諸国にこの事象を早急に伝えようではないか。南のアース帝国、東のディーカブ帝国の同盟国に使者を送るとしよう。」
「あとはガルガン山か・・・あの者たちにも伝えなければなるまいて。どうだ・・・、ユラ、シズク、シトよ。お主たちの腕を見込んで頼みたい。ガルガン山へ使者として行ってはくれまいか。」
国王はヒゲをさすりながら、私たちを見つめる。
「承知しました、陛下。私たちもムア爺、、ゴホン、ムアハルト様から手紙を預かっております。このままガルガン山に向かいたいと思います。」
私は、チラッとミナに視線を送る。
「うむ、頼むぞ。では、私からのせめてもの気持ちじゃ。すぐに手紙と旅の支度金を手配しよう。それまで隣の部屋で待つがよい。何か食事でも準備させよう。」
国王は、側近の従者を呼び指示を出す。
「ありがたき幸せ。」
私たちは国王に一礼して、立ち上がりその場から去ろうとした。
「待って!私も行くわ!」
ミナがこちらに声をかける。
「ミナよ・・・、そなたは私と共に城に残るのじゃ。今晩は久しぶりに泊まっていくいくがよい。」
「イヤーーーでーーーす!!!」
ミナが腕組みをしながら国王に近付く。
「もう、家におらんし、連絡も取れんし、一体どうしたというのじゃ。」
国王がミナに囁く。
「もうーーー、ずっと待ってるなんてイヤッ!私、もうあなたと別れます!」
「そんな・・・私だって色々忙しくて・・・大変なんじゃって・・・」
国王がミナの手を握ろうと手を伸ばす。
ビシッ!!!!!
ミナがその手を叩く。
「知りません!!!あなた、去年、私に会いに来たのたった1回よ!!本当にいい加減にしてよね!」
「私はこのパーティの仲間です!一緒に行きます!!!」
「そんな、ミナ・・・、ワシはお主の事が本当に大事じゃと・・・」
・・・
・・・
・・・
国王とミナが私たちの冷たい視線に気付いた。
「ゴホン!わかった!ミナよ、同行を許可する。帰ってきたら必ず私に会いに来るんじゃぞ!」
国王は姿勢を正して話す。
「ふんっ!!会いに来ないわよ!それより、支度金はたっぷりいただきますからね!」
ミナは私たちと合流し、そのまま隣の部屋に歩き出した。
「ミナをよろしく頼むぞ!皆の衆ーーーーー!」
国王の声が、虚しく玉座に響いた。
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