第32話:ムア爺の覚悟

(※ユラ視点)


「ふー、どうやらモンスター共に見つかってしまったようじゃ。この結界を見つけられるとしたら、おそらく八大将軍クラスがいるじゃろうて。お主らはここを今すぐ出て、行かねばならんところがある。」


ムア爺はガタガタと部屋の棚を探りながら話す。


「シト、シズク・・・。このミスリルの短剣と手紙をお主らに。ローランド帝国の西に位置するガルガン山は知っておろう。そこの頂上付近にワシの古い馴染みが住んでおる。名はドルスキン。お主らの剣はガジュラとの戦いでボロボロじゃろうて。このミスリルの短剣と手紙を見せるがよい。きっと力になってくれるじゃろう。」


シズクが短剣と手紙を受け取る。


「シズクよ・・・・・・・・」


真剣な表情でムア爺がシズクを見つめる。


「小ぶりでもいいのでモチモチさせ・・・・」


ドガッ!!!!!!


シズクの前蹴りがムア爺の顔面にヒットする。


「おじじ。また必ず会いにくる。その時にモチモチしてあげる。」


シズクは何かを感じているようだ。真剣な表情でムア爺を見つめる。


「ふむ。良い。良い」


ニヤリと笑って頭をかくムア爺。


「ユラ、ミナ、この手紙とこの光の勾玉を。この勾玉は"神秘の森"の"結界を開く鍵になっておる。伝説としてよく語られる神秘の森じゃが実在するんじゃよ。まあ、神秘の森に行けば、自然と事は起ろうて。そしてこれが神秘の森の場所を記した地図じゃ。」


私はムア爺から勾玉と手紙と地図を受け取る。


「ユラ、ミナ、良いか。モンスターの侵略がすでに始まろうとしておる。事は早急じゃ。まずはローランド帝国に向かい、現国王のローランド三世にこの手紙を渡すんじゃ。そしてこう伝えよ。今すぐ連合軍の結成が必要じゃとな。ガルガン山、神秘の森はその後じゃ。まあ、どっち道行く事になろうて。」


ミナが手紙を受け取った。


「ふーーーー」


ムア爺が大きなため息をつく。


「これが最後じゃ、ユラ、ミナ、シズク、こっちへ。」


ムア爺は、部屋を出て足を止める。シトだけが部屋に残されている。


「みな、このブレスレットを。」


ムア爺が木のツタでできているブレスレットを、私たちの手首に順番に巻きつける。


「よいか、あの小僧は、必ずまた力を使う時が来るじゃろう。これは、小僧の力を封じ込める強力な結界アイテムじゃ。神樹の枝からワシが長年魔力を注ぎ込んで作ったものじゃよ。きっと役に立つ時がくるじゃろうて。」


「ムア爺・・・・」


私はブレスレットを触りながらムア爺を見つめる。


その時、再度大きな爆発が起こる。


「うむ。ここが破れるのも時間の問題じゃの・・・。今のお主たちでは、少し役不足じゃて・・・。よいか、強くなるんじゃぞ。お主らみんなで生き残るためにの・・・」


「ゴレさんやーーー!」


ムア爺の声と共に、ゴーレムのゴレさんがバタバタと家の中に入ってくる。その姿はシト、シズクと模擬戦をしていた時よりもだいぶ小さい。今では、幼い子供程度の大きさしかない。


「ゴレさんや・・・。これからの主人はミナじゃ。美人で優しい女子じゃぞ。長年、ワシに尽くしてくれてありがとうな・・・。よいか、これからはミナを全力で守るんじゃ。ワシの可愛い弟子じゃて・・・」


ゴレさんは涙を流しながら、ムア爺の足にしがみつく。


「うむ・・・」


ムア爺はゴレさんの頭を優しく撫でる。


しばらくして私たちは、シトのいる部屋に戻った。


「シトや・・・」


・・・


・・・


「いや・・・、お主はベリエルか・・・?」


強い視線でシトを見つめるムア爺。


シトはオドオドしながらムア爺を見つめる。


ムア爺はしばらくシトを見つめた後、ニヤッと笑いかける。


「良い目じゃ、シトよ。女を守るのは男の子の努めじゃて。この女子らを守るんじゃぞい!」


「はっ!はい!!!」


シトはムア爺を見つめて、強く返事をした。


「うむ。」


爆発音がして、モンスターたちのけたたましい鳴き声が響いてくる。


全員で庭に出て、あたりの様子を伺う。まだモンスターの姿はない。


「ふーーー、ユラ、ミナ・・・。我が可愛い弟子よ。必ず生き残るのじゃぞ。今度あったら約束のモチモチじゃて。」


ムア爺が私たちに笑みを向け、ゆっくりと腕を伸ばし、私たちの頬を優しく撫でた。


私たちはムア爺がこれからすることを理解した。


「私たちも戦う!」


私はムア爺に向かって叫ぶ。


「ムア爺、ダメよ!一人でなんかダメ!!」


ミナが涙を流してムア爺を見つめる。


ムア爺は私たちに向かって、呪文を詠唱した。


「この者たちに風の翼を!フローラ!」


その呪文と共に、私たちの周りに大気の丸い結界が張られ、空中に浮き始める。


地上にいるムア爺が段々と遠くなる。


「ムア爺っ!!!!!」


私は大気の結界をドンドンと叩く。


ミナも泣きながら、叫んでいる。


下に見えるムア爺が笑みを浮かべる。


「ゆけ、若い種たちよ・・・。どうかこれからの世界に光を・・・」


ムア爺は、森林の中から飛び出した十数体の巨大なモンスターたちに向き合う。


見たこともないモンスターばかりだ。


巨大なモンスターたちがムア爺に向かって突進してくる。


その瞬間、大きな爆発がいくつも起こり、砂煙りが視界を塞ぐ。


その後も大きな爆発が続き、地上を完全に覆い隠した。


「ムア爺ーーーーーー!!!!!」


ミナの大きな叫び声が、どんよりとした曇り空に虚しく響いた。

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