第29話:夜空の決意表明
(※ユラ視点)
ムア爺の話を聞いた夜、みんなで久しぶりの夕食を食べた。
シトの様子を注意深く観察すると、右手の動作がおぼつかないように感じた。
何度かフォークを落としていたからだ。
これが一時的なものなのか、それともあの戦いの影響なのか・・・。
もうしばらく様子を見てみようと思った。
これから私たちはどうしていくか、また明日話すことになっている。
私はなんとなく寝付けずに、小屋の庭にある椅子に腰掛けている。地面には芝が植えられており、結構な広さの庭である。この庭部分までがムア爺の結界領域で、奥に見える森林に入ると結界外になるとのこと。
・・・
辺りを静寂が包む。
「ふぅ・・・・」
大きく息を吐き、ゆっくりと背伸びをする。
「眠れんのかい?」
振り向くと、そこにはムア爺が立っていた。
ムア爺はゆっくり歩き、そして隣の椅子に腰をかけた。
私はムア爺に向かって少しの笑みで返した。
・・・
言うか、言わまいか迷ったが、これまでの経緯をムア爺に話した。
「私の復讐のせいで、みんなを巻き込んでしまったかもしれない・・・」
「ミナ、シズク、シトだって、私と一緒について来なければ・・・、こんな事には・・・」
ムア爺は黙って話を聞いている。
「シトなんて私と出会わなければ、もしかしたらあんなよくわからない力を使う事もなかったんじゃ・・・」
ムア爺は長いヒゲを
「そうかの・・・。ワシは人の出会いと言うものは、縁じゃと思うとる。お前さんたちは、いずれかの時に、必ず出会う運命じゃったと思うがの。あの小僧、おそらくお前さんと出会う運命だったのもしれんぞい。」
「ただの老いぼれのカンじゃがな。それに・・・」
ムア爺は言葉に詰まった。
「それに・・・?」
私はムア爺の方に視線を送る。
「おそらく・・・、近いうちにこの大樹海の結界は破壊されるじゃろう。八代将軍の登場、モンスターの大量発生と凶暴化。ワシは近いうちにあの結界が完全に破られ、昔のようにモンスター軍の侵略が始まると考えておる。」
「闇の王の復活・・・」
ムア爺の視線が鋭くなる。
「昔、闇の王との死闘の末、ワシたちはなんとかその力の一部を封印することができたんじゃが、始末するまでには至らなかったんじゃ・・。奴の力の一部を封印するだけで、ワシの仲間はほぼ全滅じゃよ。」
「生き残ったのはワシを含めて3人だけじゃ・・・」
「ムア爺・・・」
夜空を見上げているムア爺を見つめる。
「大きな戦はまた必ず起こる。お主らはの・・・、ワシから見ても、良い素質を持っておる。皆で戦いお互いの命を守ればいいんじゃ。ウダウダ悩まずに強くなればいいんじゃよ。」
「強くなれば・・・」
ムア爺が暗闇の方を見つめる。
「どうじゃ?お主ら、ワシの元でしばらく鍛えてみんかい?」
すると・・・
小屋の影から、ミナ、シズク、シトが顔を出した。
「すいません・・・。立ち聞きするつもりはなかったんですが・・・」
シトがオドオドして頭をかいている。
「私たちがあんたの復讐に巻き込まれって?冗談じゃないわよ!私は私の意思でここにいるのよ。」
ミナが私に向かって両手をあげて呆れた素ぶりを見せる。
「私は借りと借金を返すため。別に気にしなくていい。」
シズクが腕組みをしながらチラリとこちらを見る。
「そうです!ユラさんが責任を感じることはないんです。僕らはユラさんの仲間なんですから!」
シトがオドオドしながらも、強い視線で私を見つめる。
「みんな・・・・」
「あんたらしくもないわね!喧嘩を売られたら買えばいいだけの話じゃない!私たち、八大将軍の1人を追い詰めたのよ。」
ミナが胸を揺らしながら拳を掲げる。
「死にそうになったけどなんとかやれた。」
シズクが頷く。
・・・
・・・
「あんたたち・・・」
・・・
「あーーあっ!!どの道、一生逃げ回るなんて私の性に合わないか・・・。わかったわ・・・、私は・・・私は強くなる。みんなが私に命をかけて協力してくれたみたいに、今度は私がみんなを守る!」
「ムア爺、あなたの元で鍛錬したら、本当に強くなれるのかしら?」
ムア爺は相変わらず長い白ヒゲをさすっている。
「こう見えても結界戦争を生き抜いた1人なんじゃが・・・。その代わり・・・、ワシの鍛錬は死ぬほど辛いぞい!」
ムア爺はニヤリと笑った。
こうして私たちはしばらくムア爺の元で鍛錬することになった。
「そう、強くなる・・・。どんな危険が迫ろうが、私たちは生き残ってみせる。」
私たちは、星が輝く夜空をしばらく眺めていた。
[第5章・完]
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