第23話:仇討ち!激闘!カッチカチ!

「ここで何をしている。」


ガジュラは、爬虫類のような赤い眼をギョロギョロと見開き、僕たちを一瞥する。腰まであるかのような伸ばしっぱなしの長髪。耳まで避けた口と肉食動物を思わせる鋭い牙。そして、そのパワーを象徴するかのような屈強な筋肉。肩には、あの刃がギザギザの巨大な大剣を担いでいる。


僕たちは、一斉に武器を構えた。

シズクさんと僕は、水の魔剣、"雨音あまおと"と火の魔剣"火凛かりん"を抜き、ユラさんとミナさんを守るように構えた。


「もちろん、あんたを倒しにきたのよ!私の顔を覚えてる?あんたは私の仲間を惨殺した。そして私に復讐したければ、足掻けと言い放ったのよ!!」


「足掻いてきたわ!あんたの首を叩き斬るためにね!!!!」


ユラさんが、ガジュラに向かって吠える。


「ほう・・・、大事の前の肩慣らしぐらいにはなるか。この辺りの雑魚にもいささか飽きてきたところだ。」


ゆっくりと大剣を肩から降ろし、僕たちに正面から向き合った。


・・・


「例のやつ・・・いくわよ!シズク、シト時間稼ぎお願い。無理しないで、厳しいと思ったら距離取るのよ!」


僕とシズクさんは、ユラさんに向かってうなづく。


「ミナ、目くらましお願い。」


ミナさんがユラさんに向かって頷く。


僕とシズクさんはお互いの顔をみる。


「シト、いくよ。」


「はいっ!!!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ユラさん、ミナさんが呪文の詠唱に入る。


僕とシズクさんは、呪印を結びながら気を練り上げる。

これはシズクさんから教わった、肉体強化の術だ。


「闇の精霊たち、私に力を貸して!"シャドウスモーク"!」

ミナさんの精霊魔法が発動する。辺り一面に薄暗い黒の霧が出現し、僕たちの姿を覆い隠す。


「この者を守りたまえ!"風の守り手"よ!」

続いてユラさんの風の防御力UPの魔法、緑色の光が僕とシズクさんを包む。


僕とシズクさんは同時に術を発動する。


「闘気開放!!!!」


僕とシズクさんの肉体が一瞬光り輝く。

この術は、自らの体内の細胞を一気に活性化して、一時的に身体能力を向上する強化術だ。


しかし、一定時間、身体に負荷をかけるので、術後は能力が大きくダウンしてしまう。


僕とシズクさんは、ガジュラに向かって猛ダッシュする。

それに気づいたガジュラは、正面の僕らを意識する。


しかし、そこには僕らの姿はもうない。


一時的に強化された身体能力により、とっさに横に飛び方向を変えて、両サイドから魔剣を振りかざす。


シズクさんが叫びながら、雨音を振り抜く。

したたれ!雨音」


それと同時に僕も、火凛を振り抜く。

「燃えろ!火凛!!!!」


水の刃と炎の刃が、両サイドからガジュラに向かって放たれる。


よし!!!異なる属性の魔剣の同時攻撃!これなら無傷ではすまないはずだ!


ガジュラは、大剣を豪快に振り回し、魔法の刃を防ぎきる。


僕とシズクさんは、その間に魔剣の刃が届く範囲まで距離を詰める。


両サイドから、シズクさんは首を、僕は胴を狙って、刀を振り抜く。


「獲った!!!!!」


ヒュンッ!!!!!!


しかし、僕とシズクさんの渾身の一振りは空振りと終わる。


消えた????


周りを見渡した後に視線を空に送る。


そこには大きな黒い影が!


あの一瞬で、空中にジャンプして、僕らの一撃をかわした!!!


なんて身体能力なんだ!!!


ガジャラが、空中で大剣をふりかぶっている。


「しまった!!!」


「シト、爆発がくる!」


「はい!!!」


落下しながら、ガジュラは大剣を地面へと叩きつけた。


前にやられた以上の爆発が起こり、地面が陥没する。


「うおおおおおおおおお!!!!!」


僕は吹き飛ばされないように、火凛を地面にさしてその場で耐える。


「いたーーーーーーい!!!」


爆風と共に地面の破片や石が僕の身体を打ちつける。


「ほう。面白い。」


刀を地面にさした僕に、大剣を振りかざすガジュラ。


ガキーーーン!!!!!


鈍い金属音がする。僕は火凛を地面から抜いた勢いでガジュラの一振りを受けきる。


その衝撃に身体が大きく沈む。


「ぐううううううう!!!!もっ、、燃えろ!!!火凛!!!」


火凛から大きな火柱が上がり、ガジュラの大剣と腕に燃え移る。


一瞬、ガジュラの大剣を振り下ろしている力が弱まった。その一瞬に僕は力の限りを使い、ガジュラの大剣をカチ上げた。


ガジュラの両手が上がり、脇腹に大きな隙ができる。


「獲った!!」


僕の後ろに隠れ、爆発を逃れていたシズクさんが、目にも止まらなぬ速さで姿を現す。


そして素早くガジュラの横に踏み込む。


「滴れ!雨音ーーーーー!!!」


水の刃を纏った一撃が、ガジュラの横腹を見事に捉えた!


脇腹に大きな傷を受けながらも、大きく振りかぶった大剣をシズクさんに振り下ろすガジュラ。


「うおおおおおおおお!!!」


その間に僕は身体を滑り込ませて、火凛で大剣をいなす。


再び、大きな衝撃で身体が沈む!


その瞬間、シズクさんは僕を踏み台にしてジャンプし、ガジュラの右肩に雨音を突き刺した。


「シト!!!!!」


「はい!!!」


シズクさんは、雨音を手放し、転がるようにガジュラから距離をとる。


僕も無我夢中でガジュラから距離をとる。


その瞬間、距離を詰めていた、ミナさんの精霊魔法の詠唱が終わった。


「------、我が守護精霊、全てを裁く一閃の雷鳥。その力を解放せよ。"サンダーバード"!」


ミナさんの詠唱と共に、空から一閃の鳥のフォルムをした雷が、ガジュラに向かって落ちる。その雷鳥は、ガジュラに突き刺さっている雨音に見事に直撃した。


「ぐぬ!」


ガジュラの身体に、雷の光が突き刺さり、いくつもの雷の光がガジュラの動きを止める。


雷による麻痺効果である。


ミナさんは続いて詠唱する。


「闇の精霊、この者に暗黒の鎧を!"ダークシールド"」


僕の身体を黒い光が包む。防御力UPの精霊魔法だ。


さらにミナさんは詠唱する。


「風の精霊!お願い!一度だけ力を貸して、"フロート"!」


僕の身体を緑の光が包み、身体が軽くなる。


「私はもうすっからかんよ!あとは頼んだ!カチカチ社長!」


ミナさんが最後の力を振り絞り叫ぶ。


「いってこい!カッチカチ!」


シズクさんが思いっきり僕を蹴り飛ばす。


「うわーーー!!!!」


フロートの効果で身軽になった僕は、とある方向に吹き飛ばされる!!


そして、その場に倒れ込んでしまったミナさんを、シズクさんが抱きかかえてその場を離れた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(※ユラ視点)


私はクリスタルロッドを胸の前で持ち、詠唱を終える。


「魔力解放」


パリンッ!!


クリスタルは大きな音を立てて砕け散る。


その代わりに私の身体に大量の魔力が流れ込んでくる。


「くっ!!!!!」


その膨大な魔力の多さに、身体への負荷がかかり過ぎ、意識を失いそうになる。


唇を噛み締めて意識を保つ。私の身体から緑色の魔力が溢れ出す。


やっと、やっと、この時がきた!しっかりするのよ!


私はロッドを捨て、両手で大気の魔力球を作り出す。


膨大な魔力を注ぎこんだ大気の球から鋭い風の刃が漏れ、私の両腕や服を傷つける。


魔法耐性に特化した腕当てに大きな亀裂が入る。


ダメ・・・、このままでは腕が吹き飛んでしまう。私の装備や洋服はすでにボロボロだ。


「くっ!!!ダメか!!!」


その時・・・・、


私と大気の球の間にひとつの影が現れる!!


「お待たせしましたーー!!ユラさん!!!」


間に合った!!!


「シト!!!!!」


シトは私の身体の前に潜り込み、大気の球を強引に掴み始める。

私の洋服はすでに破けており、上半身はほぼ裸の状態だ。


ちょうど私の胸の間にシトの頭がある。シトは首をふり、左右に私のむき出しの胸があることに気付いた。


また、この子は!余計な興奮してる!!!!!!


この状況で私はクスッと笑みを漏らす。


「シト!!!いくわよ!!この戦いに勝ったらたっぷりモチモチさせてあげるから、鼻血出さないで我慢しなさい!!!」


「はっ、はいっ!!!!!」


そうなのだ!これが私たちが立てた戦略。


シトとシズクが身体能力を極限まで高めて、ミナの麻痺効果のある精霊魔法を当てる隙をつくる。


私はその間に、魔力を解放し、大気の魔力球を準備する。


そしてその膨大な魔力の制御は、防御力を高めたシトと私が行い、ガジュラに叩きつける。


超短期決戦!一撃必殺の超ギャンブルだ!


「ぐぎぎぎ!!!!」


「いたっ!!!」


風の刃を受けるたびに悲鳴をあげるシト。


シトが身体で風の刃を防いでくれているおかげで、私の負荷がだいぶ下がった。


「シト、行くわよ!!!!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ユラさん!!!!!!!」


ユラさんが制御している緑色の魔力の球から、風の刃が漏れている。


ユラさんの服はその刃に傷つけられて、もうボロボロだ!!!


間に合った!!!!!


僕はユラさんと魔力球の間に身体を滑り込ませ、両手で魔力球を掴む。


「ぐぎぎぎぎ!!!!!」


なんて風圧だ!この魔力をユラさんはたった一人で・・・。


ユラさんの方を振り向こうとすると、僕の顔の横に柔らかい何かを感じる。


左右に首をふると、何もつけていないユラさんの胸に顔が当たる!!


ああっ!!!!これは!!!!


こんな状況でユラさんの何もつけていない胸が!!


ユラさんの胸の先が僕の目の前に!!!!!


その時、ユラさんが叫ぶ。


「シト!!!いくわよ!!この戦いに勝ったらたっぷりモチモチさせてあげるから、鼻血出さないで我慢しなさい!!!」


ん!!!!!!たっぷりモチモチ・・・・、モチモチ・・・


モチモチってどんな事するんだーーーーー!!!


「うおおおおおおおお!!!」


その時、ユラさんが叫んだ!


「エアリアルバーーーーースト!!!!!!」


叫び声と共に、大気の魔力球は風の刃をあたりに撒き散らしながら、ガジュラに向かって放たれた。


そして、ミナさんの精霊魔法でいまだに身動けないガジュラに直撃した。


「ギギギギギーーーー!!!」


この戦いで初めてモンスターのようなうめき声をあげるガジュラ。


エアリアルバーストはガジュラの身体を切り刻みながら、数十m先までガジュラを吹き飛ばし、そして大きく爆発した。


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