第22話:対戦前のファインプレイ

僕たちは岩山をなんとか越えて、エリア4にたどり着いた。


岩山を降りたところで、現在地の確認。そして、ユラさんがガジュラと遭遇した"イオニスの砦"の位置を調べる。


エリア4は、昔、イオニスと言う国があったところらしい。

かつての、モンスター軍とヒューマン軍の大規模な争い"結界戦争"時に、モンスターの襲撃を受けて滅亡した国とのこと。


冒険者組合の地図によると、ここから十数キロ先に、その砦は存在するらしい。


「大樹木があっちに見えるから、砦の方角はこっちの方ね。正直、私の記憶も確かではなくて、周りに何があったかは、うる覚えでしかないの。」


ユラさんが地図を見ながら、シズクさん、ミナさんと話している。


僕は、そんなユラさんを見つめて、昨晩のことを思い出す。


昨晩のユラさんは、いつものユラさんよりもずっと女の子っぽくって、そして可愛かった。

普段のキリっとしているユラさんも好きだけど、あんな可愛いユラさんも好きだな・・・。

こんな美人の人が、彼女だったらどんなに幸せなのだろう。


ぼーっとユラさんを見ていると、ユラさんが僕の視線に気付いた。


ユラさんが僕を見つめながら、自分の胸の下を軽く触って、口パクで僕に何かを伝えようとしている。


ん???


「モ・・?チ・・・?モ・・・?チ・・・?」


モチモチーーーーーーー!!!


僕の顔は一瞬で赤くなり、ユラさんから顔をバッと背ける。


昨晩、色々やらかしてしまった事がフラッシュバックする。


恐る、恐る、ユラさんの方を見つめると、今度は人差し指を口に当ててウインクしてくれた。


内緒って事・・・?どうやら怒ってなさそうだ。


僕は照れ隠しで頭をかきながら、ユラさんの方に微笑んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(※ユラ視点)


私たちは、砦を目指して、木々が生い茂る森林を進んでいた。


奥に進むに連れて、私たちはその異常さに気付く事となる。


「静かすぎる・・・」


探知能力に長けているシズクがボソッと呟いた。


そう・・・、そうなのだ。エリア4に辿りついてから、モンスターに全く遭遇していないのだ。


そして、時折、何者かにメタメタに切り裂かれたであろう巨大なモンスターの残額が視界に入る。


あの数年前の出来事が、私の中で鮮明になっていく。


そう、あの日も同じようだった。


いる・・・・、確実に奴はこの近くにいる。


私の手が汗ばみ、冷たい汗が頬を伝う。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここがイオニスの砦・・・。


僕たちは地図が指し示す場所に到着した。

しかし、そこにあったのは、明らかに長年放置されている老朽化の激しい砦だった。


主人を失った砦は、ツル型の植物がいたるところに絡まっている。

そして、もちろん建物自体も老朽化しており、ところどころが崩れ落ちたりしている。


僕たちはゆっくりと中に進んでいく。


ユラさんの方を見ると、明らかに表情が強張っている。


そうか・・・。


この場所でユラさんの大事な人と仲間が・・・。


でも、今のユラさんは、いつものユラさんじゃない気がする。よくわからないけど、このまま戦ってはいけない気がした。


ミナさんもシズクさんも何かの気配を感じ取っているのかもしれない。


ユラさんと同様に顔が強張っている。


いつものみんなじゃない・・・。


どうすれば・・・・


一体どうすれば・・・・。


この雰囲気をなんとかするんだ・・・。


「えーーーい!ままよ!!!」


「ユラさん!!気合い注入お願いします!!!!」


僕は思いっきり、ユラさんにダイブして豊満な胸に顔を埋めた!


ああ・・・・、柔らかい・・・・なんて柔らかいんだ。


「なっ!!!!!なにっ!!!」


ユラさんの動きが一瞬止まった。その後、顔を真っ赤にして小刻みに震え始める。


それとほぼ同時に


ビシッ!!!!!!


「いたーーーーーーーい!!!!!」


ユラさんの脳天チョップが僕の頭に炸裂した!


「なっ、なにするのよ!!!このエロシト!!!」


「ちがっ!あのっ・・・、みんないつもと違うんです!!」


ビシッ!!!!


「何がよ!!!!」


「きっ、気負いすぎてちゃダメで!もっと冷静にならないと・・・」


もう1発、脳天チョップが飛んで来るのを身構える。


しかし、脳天チョップは飛んでこなかった。


何かに気づいたように、あげた腕をゆっくりと下ろすユラさん。


大きく深呼吸している。


「ふーーーー、ちょっと気負いすぎていたわね・・・」


ユラさんは空を見上げて再びゆっくりと深呼吸した。


「あーーん!シト!私も気合い注入してあげるー!」


ミナさんに抱きしめられ、顔がミナさんの大きな胸に埋まる。


「我が弟子よ。よくやった。」


シズクさんが僕の腕に胸を押し付けてくる。


「そうね・・・これぐらいの雰囲気が私たちらしいわよね。さあ、生きて帰りましょう!帰りはまたあの源泉に浸かるわよ!」


僕たち4人に笑顔が戻る。


その時・・・・・


ズーーーーン!!!!


大きな衝撃音と共に砂埃がまう。


僕たち4人は、それが何かを一瞬で理解した。


目の前に現れた・・・。


異形の者"ガジュラ"と名乗る化物が。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る