第24話:魔獣ガジュラ

(※ユラ視点)


「ハア、ハア、ハア・・・・・やったの・・・・?」


全魔力を放出したエアリアルバースト。


それを放った私は、正直立っているのもしんどく、目の前にいたシトに後ろから抱きつくように寄りかかる。


「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」


シトの息遣いも荒い。シトの両腕は、エアリアルバーストの風圧で、深い切り傷や皮がめくれており、大量の血が滴っている。


私の両腕も同じようなものだ。私の両腕は感覚もほとんどなく、腕をあげることもできそうにない。


エアリアルバーストが直撃し、爆発した方向へ視線を送る。


エアリアルバーストが通った起動は、風圧で地面やその周辺がえぐれており、その破壊力の凄まじさを物語っている。


「ユラさん・・・・やっ、やりましたよね?」


シトが震えた声を出しながら、後ろを振り向く。


「これで死んでなきゃ、もうお手上げよ。」


シトの膝が折れ、崩れるように二人してその場に座り込む。


「ユラ、シト、生きてる?」


声の方向を向くと、シズクとミナが立っていた。


ミナは一人では歩けないようで、シズクに肩を貸してもらっている。


「なんとかね・・・。でも、もう何もできないわ。」


私は二人に向かって叫んだ。


そして、二人も崩れるようにその場に座り込んだ。


目をつぶり、呼吸を沈める。


やった・・・、やったわよ・・・


コルカス・・・、シリア・・・、ガント・・・、そして・・・オルフェス。


私は昔の仲間の顔を思い浮かべる。


「みんなの仇はとったわ。」


私の目からは自然と涙が溢れた。


・・・


・・・


ガシャン・・・




その時、何かが崩れる音がし、私はその方向に視線を送る。


視界に入ったそれをみて、私の体からは冷たい汗が吹き出した。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「うそだ・・・、そんなっ!!!!」


音がする方向に恐る恐る目を向けた僕。


そこには両腕が二の腕部分から吹き飛び、腹部に大きな穴を開けたガジュラが立っていた。髪を振り乱し、大量の傷からは血が吹き出している。


ユラさんの顔をみると、顔が真っ青で体は小刻みに震えている。


「うそ・・・・なんで???生きてるの・・・」


ユラさんも目の前の光景に愕然としているようだ。


「グオオオオオオオオオン!!」


これまでに聞いたこともない、モンスターの雄叫びがお腹の底まで響く。


「貴様ら・・・、貴様らはーーーー!!我の身体を!!!!!」


「グオオオオオオオオオン!!」


目の前のガジュラが再び雄叫びをあげる。


そして僕たちは信じられない光景を目にする。


ガジュラの身体が3倍ほど肥大化し、吹き飛んだ両腕の切り口部分から、新しい腕が生えてくる。その両腕は、人のカタチをしておらず、大きな手から5本の鋭く長い爪が生えている。全身からは毛が伸び、顔はどう猛な肉食獣のような顔つきに変化している。


[こっ、これは・・・・、これじゃ・・・これじゃ、まるで獣じゃないか・・・・]


ガジュラは両手を握りしめ、感覚を確認しながら深い息をはいている。


「この姿になったのは何年振りか・・・。かの大戦であの忌々しい人間と戦った時か・・・」


「この姿を見た、お前らは・・・」


「ここで、死・ぬ・ん・だ・よ!!!!」


ガジュラが突如、目の前から姿を消した。


そして、次に視界に入った時は・・・


えっ!!!!!


一瞬でシズクさんとミナさんの傍まで移動したガジュラ。


シズクさんは全く反応できていない!


肉体強化の術を使った後遺症からなのか!それともガジュラの動きが早すぎるのか!!


その瞬間・・・


「ゴフッ」


シズクさんの腹部にガジュラの長い爪が数本突き刺さり、シズクさんの身体が宙に浮く。


「シズク!!!!!」


ユラさんが叫ぶ。


ガジュラは、腕を横に振り、シズクさんの身体から爪を抜く。


シズクさんの血が飛び散っている。


地面に叩きつけられて、転がったシズクさんは全く動かない。


そしてガジュラはゆっくりとミナさんに視線を向ける。


「ミナ!!!!逃げて!!!!」


その叫びは虚しく響く。


ガジュラはミナさんを両腕で抱えあげ、その肩に喰らいつく。


ガジュラは、ミナさんの肩から牙を抜き、その身体を放り投げる。


投げ飛ばされたミナさんは、地面に叩きつけられ、全く動かない。


ドクン・・・


僕の心臓の鼓動が激しくなる。身体が動かない。


助けに行かなければいけないのに・・・


これが恐怖・・・、怖いのか・・・


ガジュラが僕たちの方にゆっくりと歩いてくる。


守らないと!ユラさんを守らないと・・・


でも腕が・・・、腕が上がらない・・・


ユラさんに視線を送る。


ユラさんの血で染まった腕・・・、手が震えている。


ユラさんはゆっくりと僕の目を見て微笑んだ。


「シト・・・、逃げなさい。大丈夫・・・、君が逃げる時間くらいは稼ぐから。」


「つっ、強くなりなさい。そして復讐なんか考えずに幸せに生きなさい。」


「さあ、走って!」


ユラさんは笑っている。でも目からは涙が出ている。


あああ・・・


僕は・・・・


どうして・・・どうして・・・


こんなにも弱いんだ!!!!


ドクン!心臓の鼓動が大きく聞こえる。


「うわあああああああ!!!!!」


強引に腕をあげる。


力を入れると血が噴き出す!!!


痛い!!痛い!!


でも、動けーーーー!!!


震える腕で腰に刺してあるサラマンダーダガーを抜く。


「ユラさ・・・ん。僕は・・・あなたを守ります!!!」


「うおおおおおおお!」


残っている力を振り絞り、ゆっくり歩いてくるガジュラに向かって突進する。


ガジュラに一撃を入れようとしたその時・・・


切りかかった腕を抑えられ、そのまま・・・


ボキッ!!!


鈍い音と共に、僕の右腕に激痛が走る。


「ぐああああああ!!!!」


「シトーーーー!!!!!!」


ユラさんの叫び声が聞こえる。


右腕を抑えながら地面に転がる僕の腹部をガジュラが踏みつける。


ドゴッ!!!


ガジュラに踏みつけられる度に、僕の身体が地面にめり込む。


「ゴフッ!!!」


腹部に激痛が走り、口からは血を吹き出す。


意識が・・・


ドゴッ!!!!


もう・・・


「ユラさ・・・・」


僕を置いて、ユラさんの方に歩き出そうとするガジュラ。


「いか・・・せ・・・」


必死にガジュラの足にしがみつけた。この手は離さない・・・


その瞬間・・・


ボキッ!!


鈍い音が聞こえた。


両腕の感覚がもうない。


「ユラさ・・・、にげ・・・」

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