第19話:出発の朝

(※ユラ視点)


まだ日の昇らない夜明け。私は荷物をまとめて、出発の準備をしていた。


大丈夫!この時のために。そう、あいつを倒すためだけに色々準備してきたのだから。


「なんだかんだいって面白い奴らだったわね。」


シト、ミナ、シズクの顔が目に浮かぶ。


もし、みんなもついてきてくれたら、どんなに心強かっただろう・・・。



ダメ!もう二度と、目の前で仲間が殺されるのは見たくない。ネックレスのトップに入った夫との写真をみる。


私は荷物を手に持ち、誰も起こさないようにそっと家を出た。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


メインストリートを抜ける。


日が昇りかけ、周りも少しずつ明るくなってきた。広場の噴水の前にたどり着く。そこには一人の人影が見える。


「あなた・・・」


「優秀な魔導士の相棒はいかが?ギャラはまけておくわよ!」


「ミナ・・・・」


「ほらっ、なんか泊まらせてもらっちゃてるしさ!なんか孤独な女子同士でほっとけなくて!」


ミナは、照れ隠しに頭をかきながら話す。


「ありがとう・・・・。でも、とても厳しい戦いになるわよ。」


そう、厳しい・・・。とても厳しい戦いなのだ。もう、私の前で誰も傷ついて欲しくない。


「アンタがそんな弱気でどうすんのよ!強力な助っ人も呼んでいるのよ!」


ミナの一言をきっかけに、木の陰からシトとシズクが姿を現す。


「一人は弱っちいけど、今回の雇い主よ!」


ミナがシトをわざとらしく大げさに紹介する。


「シトがすごい報酬出すって言うので。」


クスクスと笑いながら話すシズク。


シトは、私の方を照れ臭そうに見つめている。


「ユラさん、僕はあなたに助けてもらった。あの時、たった一人の僕に手を差し伸べてくれた・・・。こんな弱っちい僕とパーティを組んでくれた。だから、今度は僕があなたの力になりたい。僕はあなたを守りたい。」


顔を真っ赤にして相変わらずモジモジしている。だけど、私を見つめる視線に強い力を感じた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

時は昨晩にさかのぼる。


ユラさんの送別会が終わった後、僕はリビングで一人考え事をしていた。

そこにミナが姿を現した。


「眠れないの?」


「そう言う、ミナさんこそ。酔いが覚めたんですか?」


「私はほら、まだ飲み足りなくて・・・、お酒を取りにきただけだし・・・」


「シズクさんもさっきからそこに・・・」


僕は天井の柱に足をかけて、逆さまにぶら下がっているシズクさんを指さす。


ミナさんはビクッと驚き、ふーーと長いため息をつく。


「アンタもか・・・」


沈黙が続く。


僕は意を決して、その沈黙を破った。


「あの・・・、二人に僕からお願いしたいことがあります!やっぱりユラさんと一緒に行きませんか!?ユラさんには同行を断られたけど、朝に待ち伏せして、強引にでもついていきたいんです!!報酬が必要であれば僕が払います!おっ、おっ、お願いします!!!」


おそらく、あの化物と戦うことになると、相当の覚悟が必要だ。だから、なおさらユラさんを1人で行かせるわけにはいかない!ユラさん1人よりも、僕ら4人いる方が、まだ生きて帰って来られる可能性も高くなるはずだ。


顔をあげると、ミナさんもシズクさんも、口をポカーンと開けて僕を見つめている。

やがて、二人は顔を合わせて、クスクスと笑い始めた。


「そのつもりだったわよ。私も・・・・」

ミナさんは少し涙目だ。


「受けた恩義は返さねば、女が廃るわ。」

シズクさんも僕に笑いかける。


二人の言葉に僕の心も熱くなった。


「ありがとうございます!!!!!」


「だって、報酬を弾んでくれるんでしょう?」


「シト社長は太っ腹。」


ミナさんとシズクさんがニヤニヤと僕を見つめる。


「うっ、うっ、ずるいですよー。」


「よし!じゃあ、明日は・・・」


ミナさんが、コソコソ話をするために僕らを近くに集めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「僕は必ずあなたを守ってみせる。」


その強い眼差しに、ユラさんの顔が赤くなった。


「バカ・・・。一番弱いくせに・・・」


下を向いて言葉を詰まらせている。その素ぶりがとても可愛らしい!!いつものテキパキとしたユラさんも素敵だけど、女の子らしいユラさんの姿にドキドキしてしまう。


「あっ・・、その・・・、シズクさんもミナさんもいますし・・・」


僕はドキドキした気持ちを誤魔化すように話した。


「はいはい。じゃれあってないでさっさと行きましょう!私たちは死にに行くわけじゃないのよ。みんなでユラの仇を倒すの。そして帰って美味しいお酒を飲むのよ!」


「そうそう。報酬も弾むんだもんね、シト社長?」


「僕らはパーティーなんですから、ユラさんがなんて言おうと一緒に行きます!生きてまたあの家に帰るんです!」


「あなたたち・・・・、本当にどうなるかわからないのよ・・・。」


「でも・・・、でも・・・ありがとう。そうね!帰ってきたら、私がみんなにご馳走するわ。シトからもらった報酬でね!」


ユラさんが僕に向かってウインクする。


僕は3人の仲間を順番に見つめる。

よし、ユラさんの想いを遂げる!そして僕らはまた楽しい日々を過ごすんだ。


深淵の樹海へと向かう僕ら4人を、清々しい朝日が照らしていた。


[第4章・完]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る