第18話:パート辞めるわ!大事件!
(※ユラ視点)
◇◇ユラの回想◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
---数年前------
昔、私はパーティーを組んでいた。
かなりの使い手が集まった5人のパーティーで、それなりに名も売れていた。
戦士 :オルフォス
シーフ:コルカス
弓使い:シリア
魔道士:ガント
そしてもう一人の魔道士の私。
私はこのパーティーに入ってから、リーダーでもあるオルフェスと恋に落ちた。
そして私たちは結ばれた。
愛しい人、気の知れた仲間。毎日が充実していて幸せな日々だった。
そう、あの出来事が起こるまで・・・
私たちがエリア4のクエストをこなしていた時、突如、あの異形の者は現れた。
私たちのパーティをまるで赤子の手を捻るかのように葬っていった。
私の見ている目の前でだ。
その異形の者が私に近づいてきた瞬間、あいつの一撃によって片腕を失ったオルフェスが、必死で抱きつき、私の目の前で自爆した。
「ユラ・・・逃げろ! どうか幸せ・・・・・」
大きな爆発でふき飛ばされる瞬間、大量の血を流しながら、私に微笑みかける顔が眼に映った。
私が次に気が付いた時、辺り一面、破壊されていた。
そして・・・、上空に浮かぶ異形の者。私に気付き、上空から語る。
「幸運なる者よ、我はガジャラ。滅ぼしたければ足掻くがいい。」
ガジュラと名乗る異形の者は、ゆっくりと飛び去っていった。
傷ついた身体を引きずりながら、生きている仲間を探して歩いた。
その時、私は見つけてしまった・・・。
愛すべきオルフェスの無残に切り刻まれた身体の一部を・・・・
「いやあああああああああああ!!!!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕たち、3人はユラさんの話を黙って聞いていた。
あの異形の者との戦闘後、僕たちはユラさんの回復魔法でなんとか回復し、家までたどり着いた。
結果的に全員無事であったが、全員の意識が回復したのは数刻前のことである。
「まさか・・・ガジュラって結界戦争の伝説に出てくる、八大将軍じゃないわよね?」
ミナさんが珍しく真剣な趣きで話す。
結界戦争・・・
昔このキングス大陸で起こった戦争。北の領地に住まう闇のモンスターと、南に住まうヒューマンの間で起こった大きな戦争。
この戦争は、とある冒険者のパーティーにより終止符を打つことになる。冒険者たちは、大陸の中心にそびえ立っていた大樹木を中心に、強大な結界魔法を展開したのだ。結果により、大樹木を中心に深い樹海が広がり、南北の領域を真っ二つに分断したのだ。人々は、この戦争を"結界戦争"と呼んでいる。
「わからない・・・。でもあいつはそう名乗ったの。そして私のパーティーは全員あいつに・・・。」
ユラさんは唇を噛みしめる。
再び沈黙の時間が流れる。
この結界戦争の伝説は、この大陸に住んでいる者なら誰でも知っている。闇のモンスターの大軍が、突如ヒューマンの領域に侵略し、人々を恐怖に陥れた。そのモンスター軍を率いた闇の王と、その闇の王を取り巻く八大将軍。伝説では、その中の一人に魔獣王ガジュラと記されている者がいる。
「まさかね・・・」
ミナさんが言葉に詰まる。
「私は、愛する夫と大切な仲間を同時に失った。あいつが八大将軍であるかなんてどうでもいい。私はあいつに復讐するために生きてきたの・・・。道具屋のパートをしながら、動かなくなった身体をリハビリし、毎日毎日、冒険者組合であいつの情報を探したわ。」
「やっと・・・、やっと見つけた!!あいつはおそらくエリア4の砦にいる。私たちが昔出会った場所。」
ユラさんは、厳しい表情で話した。僕が見たことのないユラさんの表情だ。
「シト、私はパーティーを抜けるわ。パート契約だし、いいわよね。」
ユラさんの真剣な眼差しが僕を刺す。
「ユラ、でも・・・、あんなバケモノにどうやって・・・」
ミナさんの言葉をユラさんが遮る。
「ミナ、これ以上は口出ししないで。私の問題よ。あなたたちには関係ないわ。」
ユラの強い眼差しを受け、口を塞ぐミナさん。シズクさんは目をつぶり、腕組みをしたまま黙っている。
そして、ユラさんはそのまま席をたった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
場所は変わって、いつもの名店「ブラックバード」。
僕たち4人はここで、ユラさんの送別会を開いていた。
ユラさんは、あの異形の者、ガジュラを追うために、パーティーを抜けることになった。僕らもついていくと散々話したのだが、ユラさんは首を縦に振らなかった。
寂しい・・・、心配・・・、何もできない自分。今でも複雑な気持ちで落ち着かない。
「もう止めないわよ!あんたが人のいう事を聞くタマじゃないって知ってるしね。だからせめて見送りぐらいさせないよ!」
「さあ、今日は飲むわよー!!ユラに幸あれっ!カンパーーイ!!!」
ミナさんは寂しさを紛らわすかのようにグラスを勢いよく掲げた。
「ミナ・・・、シト・・・、シズク、ごめんね・・・。あの部屋はそのまま使ってくれていいから。」
両手でグラスを握りしめながら、ユラさんは悲しそうな顔をしている。
「いや。ユラの気持ちはとてもわかる。私も同じ立場ならそうしている。気にしないで。」
シズクさんが、ユラさんの肩に静かに手を添える。
「ユラさん・・・!!!僕は・・・!僕は!」
「ほら、泣くんじゃないの。男の子でしょう!君はもっと強くなりなさい!いつまでもお姉さんたちに助けられていちゃダメよ。」
情けなく涙している僕の頭を、ユラさんの手が強く撫でる。
「うっ、うっ、年齢を重ねるとダメね・・・。涙脆くて・・・。さあ、飲もう!今日はシトのおごりよ!!」
僕はビクッとして、そっと財布の中身を確認した。
ユラさんはそんな僕をみて、少しだけ笑みを浮かべてくれた。
この笑みをもう見れないのか・・・・、僕の心は落ち着かない。
そして、別れの夜は更けていった。
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