第13話:漆黒の暗殺者

「えー、今晩も気を引き締めてよろしくお願いします!」


筋肉ムキムキの屈強な大男のリーダーが、護衛のスタッフに向けて指示を出す。


僕たちは、この5日間、冒険から離れて変わった依頼を受けている。


夜中から明け方まで、ある大商人の屋敷の警備をしている。


この依頼は、ミナさんからのお願いで、知り合いからどうしてもと頼まれたらしい。


ユラさんはあまり気がのらないようだった。しかし、報酬も高額ということから受けることにした。


本格的な警備は、直属の護衛の人たちがやっている。僕たちは召使いに扮して、深夜の時間帯に屋敷内を巡回する役割だ。


メイドに変装した、ユラさんとミナさん。


白を基調としたシャツと、黒のメイド服。二人とも髪はカチューシャをつけてキッチリとまとめている。

シャツの胸の部分は二人ともはちきれそうだ。いつもとはまた違って、とても新鮮で見惚れてしまう。


僕はというと、黒のパンツと白のシャツと黒のベスト。両足の裾にシズクさんからもらったクナイを仕込んでいる。


「おーー、お前たち、今日もしっかり頼んだぞ。」


セクシーなドレスをきた美女2人と、お供の警備を引き連れた主人が話しかけてきた。


みんなでお辞儀をする。


すれ違い様・・・


「きゃっ!!!」


館の主人がユラさんのお尻を触った。


「グハハハッ!!!!ワシは寝るでの。しっかり頼むぞ!」


小太りで中年の主人が、ユラさんを舐め回すようにみる。


殴りかかかろうとするユラさんを必死で止めるミナさん。


そのまま主人一団は、奥にある寝室の方に歩いていった。


ここ数日間、ユラさんとミナさんは主人からセクハラをされ、僕も正直イラっとしている。


「まったく・・・自分の命が狙われているって自覚あるのかしら!?」


そうなのだ。初めは主人も相当怯えていたのだが、最近は慣れてしまっている。


つい先日、命を狙われてから色々と警備を強化しているのだが、本人の気がだいぶ緩んでいる。


僕たちが頼まれたは5日間。今日が最終日である。


「このまま何も起こらなければいいんだけど・・・。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ふーーーーー!2時か。」


定時のパトロール中に、屋敷内の大きな柱時計を見つめる。


その時・・・


ガシャーーーーーン!!


窓ガラスの割れる大きな音がする。


「っ!! なんだ!!!」


主人の寝室がある方角だ。僕は猛ダッシュで寝室の方に向かう。


寝室の前に着いた時、


「きゃああああーーーー!!」


寝室の扉から、半裸の女性2人が飛び出してくる。


僕は、二人をかわすように寝室の中に入った!


「あっ!!!!」


全裸の主人の前に、全身黒ずくめの影が立っている。


主人には短剣が突きつけられている。


そして、黒ずくめの影が短剣を振りかざそうとした時、僕はとっさに脚からクナイを抜き、素早く投げる。


クナイは、主人と黒ずくめの間を通り、奥のひっくりかえっているサイドテーブルに突き刺さった。


僕の方へ視線を送る黒ずくめ。


その時、ユラさん、ミナさんが部屋に入ってきた。


「シトっ!!!!」


ユラさんの方に一瞬視線を送った瞬間、その一瞬で黒ずくめは窓から飛び降りた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ハアハアハア!やっと追いつめた!」


逃げる黒ずくめを、なんとか見逃さず追いかけてきた。


街から離れた墓地で、黒ずくめと対峙する。


ユラさんたちはいない・・・


沈黙が流れる・・・・


シュッ!!


黒ずくめがこちらに向かって突っ込んでくる。


それと当時に僕も黒ずくめに向かって走り出す。


キーーーン!!!!


黒ずくめの短剣の一撃をクナイでいなす。


いなした力の反動を利用して、そのまま回し蹴りを叩きつける。


しかし、黒ずくめは蹴りを手でさばき、逆にカウンターの蹴りを放つ。


両腕をクロスにしてガードするが、勢いを殺せず後ろに飛ばされる。


その隙に距離を詰めてくる黒ずくめ。


僕の目の前から一瞬姿を消す。


「グゥゥゥッ!!!」


体勢を低くして滑り込んできた黒ずくめの肘打ちが、僕の腹部に刺さった。


「うわああああああああ!!!」


痛みに耐えながら、黒ずくめの肘を両手で掴み、そのまま倒れこむ。


「ッ!!!!!!」


肘を両手で持ち、黒ずくめの上にのしかかる。


僕が上になり、黒ずくめを抑え込んだ。


しかし、あっという間にすり抜けられ、黒ずくめを逃してしまう。


再び距離をとって対峙する。


手には黒ずくめが顔に巻いていた黒の布が。黒ずくめに視線を送った。


「えっ・・・・・・」


まさか・・・。そんな・・・!!


「シッ・・シズクさん・・・?」


「シト・・・」


「シズクさん、なんで!?こんな事を!!!」


「答えない。でも私を捕まえたければ本気でやりなさい。」


「できないです!!!!」


「お願いです!話を聞かせてください!」


シズクさんは、強い眼差しで僕を見ている。


沈黙があたりを包む・・・


「わかった。」


次の瞬間、シズクさんが短剣を構えて、高速で距離を詰めてくる。


鋭く振られた短剣が、僕の腹部をかすり、同時に激痛が走る。


「ツッ!!!!」


血しぶきが舞う!


速い!!!これが本気のシズクさん?


「ホントに死ぬわよ。私を殺すつもりで来なさい。最後の忠告よ。」


シズクさんの手が不思議な動きをする。


何かの術?こんなシズクさんの技は見たことがない。


手の動きが止まると、シズクさんの手に光の球が浮かび上がる。


再び距離を詰めてくるシズクさん。


だめだ!やるしかないのか!!!!


シズクさんに向かって走り出す!!!


「うおおおおおおおお!!!!」


二人の距離が縮まる。


ふと、手に持っているクナイが目にはいる。


シズクさんがくれたクナイ・・・。


「だめだ!!!」


僕にはできない!!!


僕は振りかぶったクナイを、強引に横にそらす。


それと同時に・・・・・


「だめーーーーー!!!!!」


シズクさんは大声と共に、光の球を寸前で空中に投げ飛ばす!



ゴンッ!!!!!!!!!!


「イターーーーーーーーーー!!!」


「いたーーーーーーーい!!!」


お互いの頭が激しくぶつかり、二人とも地面にうずくまる。


そして、その場に座り込んで対峙する。


「バカ・・・。なんで刺さないのよ・・・」


「できるわけないじゃないですか!」


「シズクさんもできなかったくせに・・・。」


「もう・・・、もう、つらいの・・・・」


涙ぐむシズクさん。


「話してください!僕に!頼りないけど絶対なんとかします!」


僕の顔をみて、シズクさんは大粒の涙をこぼした。

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