第275話 鹵獲モンスター
車両から飛び降りたアキラはエレナに伝えた方向とは逆側、包囲の最も厚い部分へ向けて走っていた。敵は
同時に敵の砲撃を少々過剰に迎撃する。右手のLEO複合銃で自分には当たらないものを含めて砲弾を次々と撃ち落とし、空中に無数の爆発を発生させる。その爆発を敵に認識させて自分が車両とは別行動を取ったと教える。更に平行して、アルファを介してエレナ達との話を済ませた。
『そうですね。それじゃあ、また今度。……、アルファ! バイクはちゃんとここまで来るよな?』
『私が運転しているのだから当然よ。その前に、あれを片付けておきましょう』
そうアルファから指摘されて、アキラも自分の方に向かってくる前方の反応に気付いた。そしてまだ遠方にいる反応の姿を視界の拡大表示で見ると、思わず
『モンスター? どういうことだ?』
反応は大型肉食獣を模した機械系モンスターだった。完全にサイボーグ化した獣を思わせる外観をしており、金属製の皮膚が硬質化して生まれたような青い装甲を身に
明らかにクガマヤマ都市周辺に
偶然この近くにいて運悪く包囲に巻き込まれたのだとしても、砲撃を自身への攻撃だと判断して逃げるのであれば、今まさに砲弾が降り注いでいるこちら側に逃げるのはおかしい。砲撃元を強襲するつもりだとしても、向かうのは自分の方ではなく包囲側の方であるはずだ。アキラがそれを不自然に思っていると、青い機獣はアキラにある程度近付いた辺りでそれ以上近付くのを
敵のその奇妙な行動にアキラがますます困惑する。だがその困惑も自身の周囲に降り注ぐ砲弾の雨が急に濃くなったことで頭から吹き飛ばされた。
『急に何だ!?』
いままで砲弾は周囲一帯広範囲に降り注いでおり、アキラから大分離れた場所にも着弾による爆炎が上がっていた。しかしその爆炎は、今はアキラの周囲のかなり狭い範囲からしか上がっていない。これは砲弾の量が増えたのではなく、砲撃の範囲が狭まったことで砲弾の雨の密度が上がったことを意味しており、敵の照準がそれだけ正確になったことを示していた。
近隣には
『アキラ。あのモンスターは敵の偵察役よ。急いで倒しましょう』
予想外の説明に、アキラが思わずかなり
『偵察役? モンスターだぞ? 何でモンスターが俺を狩りに来たハンター達に協力してるんだ?』
『恐らく
強力なモンスターを使役してハンター稼業に役立てるという考えは珍しくない。だが生物系モンスターは本能で人を襲う個体も多く、
特に生物を模した機械系モンスターは普通の自律兵器等よりも構造を推察しやすい場合が多い。基本的に頭部に脳があり、そこから全身を制御しているという神経系に似た構造まで模しているからだ。そしてモンスターの制御装置の
そして
アキラの前に現れた機械系モンスターはブルーサーベルと呼ばれる機獣種で、アキラを狙うハンターチームが
『アキラ。
『……、分かった』
アキラが砲弾を意図的に過剰に迎撃していたのは、エレナ達への砲撃を減らす
それをここで止める。迷彩機能を使用して自身の姿を消し、砲弾の迎撃も止めて自身の気配も消していく。そしてそのまま青い機獣へ向けて駆け出した。
青い機獣は先程までのアキラを自身の情報収集機器で
その
アキラの位置を見失った機獣も再び相手の位置を捕捉しようと、直前まで反応のあった場所へ駆けていく。だが降り注ぐ砲弾が爆風と爆炎を絶え間なく生み出し、着弾地点の土砂が衝撃で巻き上げられ、爆風が砂
それでも機獣が相手との距離を詰めることで情報収集機器の精度を上げ、アキラの反応を再び捉えた。だがそれは既に相手を間合いに収め、迷彩の効果を下げてでも移動速度を上げて、機獣を両断しようとするアキラの反応だった。
アキラは銃を使用すればもっと遠距離から機獣を攻撃できることを分かった上で、
アキラが握るブレードの柄から伸びるコードは、腰の辺りに付けているエネルギータンクに
機獣がアキラを探知してから、ブレードがその頭部を両断するまでの時間は極僅かだ。機獣と同程度に強い生物系モンスターならば、驚く、ということにその僅かな時間を費やしてしまい、
だが機械である機獣はそのような無駄をせず、悩みもせず、事前の設定に従って即座に迎撃行動に入る。牙の代わりに電極針を生やした大口を開き、その砲口をアキラに向ける。電極針から放たれた青白い火花が口内中央に集まり、凝縮し、球形の高エネルギー体となる。そして指向性を与えられ、敵を焼き切る青い
次の瞬間、アキラが青い機獣をその
低い姿勢から勢い良く振るわれたブレードが光刃を放ち、青い
『危ねえ! あれ、
『ええ、
『こんなモンスターを
『500億オーラムの賞金首を狩ろうと思える程には高ランクのハンターでしょうね』
『それは分かってるけどさ』
銃という遠距離攻撃が基本の東部で、
モンスターの
つまり、アキラを襲っているのは、その馬鹿げたことに潤沢な資金を
気を取り直し、戦闘の余波で迷彩機能が乱れた
だがその顔が険しく嫌そうに
『まだいるのか!』
『包囲の内側の他の場所に向かわせていた個体のようね。アキラの位置が判明したから、他の場所の捜索は不要になったのよ』
敵は大分遠く、先程の戦いで遠距離攻撃も可能だと知ったアキラは、今度はLEO複合銃を両手に持ち、それぞれの銃口をそれぞれに向ける。銃口から無数の
だがその銃弾の群れは青い機獣に着弾する前に空中で
アキラが顔を
再び敵の射線に身を
『アルファ! どっちから倒せば良い?』
『両方すぐに倒さないと駄目よ。片方を倒しても、もう片方は逃げずにこちらの位置情報の送信を続けるでしょうからね』
『それが出来ないから聞いてるんだろう? どっちを先に倒せば状況がましになるか聞いてるんだ! 答えないなら俺が勝手に選ぶぞ?』
『大丈夫よ』
『大丈夫って、何がだ?』
圧縮した体感時間の中での念話だ。実際にはほんの僅かな時間ではある。それでも悠長に話している余裕など無い。それにも
次の瞬間、2体の機獣がほぼ同時に頭部を貫かれて撃破された。1体は限界まで引き絞った光線に頭部の制御装置を正確に射
その光景を見て驚いたアキラが思わずどこか
『大丈夫だったでしょう?』
『あ、ああ』
アキラはそう答えて
そして砲弾による土煙を突き破って現れたバイクを見て、アキラはもう一方の光線の発射元を理解する。同時にかなり驚いた。バイクにはキャロルが乗っており、大型の砲を手に持っていた。そのまま勢いを止めずに向かってくるバイクに、アキラはキャロルが伸ばした手を
そのまま自身の後ろに座ったアキラにキャロルが楽しげに笑いかける。
「お待たせ。ちょっと遅れちゃった? 私の判断だと、
「ああ、助かった。でも何でキャロルまでこっちに来たんだ? バイクはキャロルが運転しなくても、自動操縦でも大丈夫なはずだ」
「あら、
真面目に不満を
「キャンピングカーの方が安全だろう。一応護衛依頼は続いてるんだ。護衛としては、護衛対象が危険な場所に自分から飛び込むのは遠慮してほしいんだけど。さっきもちょっと危なかったぐらいには、俺もあんまり余裕は無いんだぞ?」
「アキラにも余裕が無い上に護衛依頼を持ち出すなら
「いや、違わないけどさ……」
そう言って渋るアキラの態度に、キャロルが少し意地になったように口調を強くする。
「言っておくけど、アキラが、じゃあ護衛依頼はもう終わりだ、って言っても、こっちは勝手にアキラを助けるからね。これはシロウの指示でもあるんだから。今はシロウに雇われている訳でもある以上、これも仕事、引かないわよ?」
キャロルにはそう思わせているが、正確には自分達はまだ雇われていない。それはシロウも分かっているはずだと思い、アキラが念話で文句を飛ばす。
『おいシロウ。何の
『俺の
『借りにはしないからな』
『良いさ。お前に死なれたら、貸しもクソもねえんだ。まあ、この程度で死ぬようじゃ、
そう言い合い、黙る。無言で意志をぶつけ合う。念話の
『それにしても、お前はどうやって彼女をあんなに
『何が言いたい』
『彼女にお前の救援を頼んだ俺が言うのも何だけど、全然嫌がらずにお前を助けにいったぞ? 頑丈なキャンピングカーを出て、砲弾の雨を潜って、500億オーラムの賞金首を狙う連中からお前を助けてこいなんて言われても、普通は嫌がるだろう。プロの
それならその方向から付け込みようがあると、シロウは軽い調子で探りを入れた。だがアキラは質問に答えずに念話で
『シロウ。お前はキャンピングカーをちゃんと守っておけ。そっちには予備の弾薬とかが積んであるんだ。この状況で弾薬を失うと
『分かった。じゃあ、そっちも頑張ってくれ』
『ああ』
シロウとの念話を切ったアキラが、一度大きく息を吐いてから顔を引き締める。
「キャロル。さっきも言ったけど、俺にはこの状況でキャロルをちゃんと守り切る自信も余裕も無い。だからこのまま俺と一緒にいるとキャロルは死ぬかもしれない。本当ならキャロルを一度キャンピングカーに戻した方が良いのかもしれない。その上で聞くぞ? それを分かった上で、戻らずに、俺を助けるつもりなんだな?」
「そうよ。さっきもそう言ったでしょう?」
「本当に良いのか? これが最後だぞ?」
「くどいわね。しつこいわよ?」
繰り返しの念押しに、そんなに邪魔だと思われているのかと、キャロルは不機嫌な顔を浮かべていた。
「……、そうか」
だがそこで、アキラが軽く吹き出し、笑う。
「分かった! じゃあ、助けてくれ!」
急に上機嫌になったアキラの様子にキャロルは軽く面食らっていたが、アキラは構わずに話を続ける。
「まずは、座る場所の交換だな。ほら、下がってくれ」
「ちょ、ちょっと」
降り注ぐ砲弾を回避する
「良し。じゃあ、始めるか。キャロル。何度も言った通り俺には余裕が無いんだ。その分だけ
「分かったわ」
キャロルが片手をアキラの胸に回し、体を密着させて笑う。
「アキラも初めて会った時に比べて随分大きくなったわね。やっぱりそろそろ子供は卒業で良いんじゃない?」
「考えとくよ。行くぞ!」
僅かではあるが以前より好感触の言葉を返されたことにキャロルが驚く。だがその驚きはすぐに別の驚きで上書きされた。バイクが進行方向を直角に変えたのだ。移動ルートを左右にではなく地面に対してほぼ垂直に
「ちょっ!? ちょっとぉぉぉー!? アキラぁー!?」
そう思わず叫んだキャロルの声を、アキラは楽しげに聞き流していた。
300メートルほど登った辺りでバイクは再び水平方向へ走り出した。砲弾の雨は続いているが、地上に着弾した後の跳ね返りを気にする必要は無くなった。地上で発生した爆発の衝撃、爆炎や爆風もこの高さまでは届かない。地上に比べれば大分静かになった状況に、キャロルも足下が少々怖いが落ち着きを取り戻す。
「アキラ。これはこれで砲撃の的になってる気がするけど、どうするの?」
「狙われやすくなったけど、狙いやすくもなった。俺達の銃で曲射は難しいからな。キャロル。索敵結果を送るから、射程に入ったらどんどん狙ってくれ」
キャロルは自身の情報収集機器に送られてきた情報を視界に拡張表示した。前方に敵の反応が無数に確認できる。地上では射線上の地形等の
「分かったわ。じゃあ、早速、一台目と行きましょうか!」
キャロルが砲を標的に向ける。それに合わせて、アキラも銃を構える。バイクの武装も照準を同じくする。
アキラとキャロルは軽く笑い合い、視線を標的に向けて、合図も無しに撃ち出すタイミングを合わせた。アキラ、キャロル、バイクの武装が一斉に砲火を放った。
3
それらに狙われた標的、アキラ達に一番近い位置にいた戦車は、過剰なまでの威力を受けて強固な
次の標的を目指してアキラ達がバイクで空中を駆けていく。500億オーラムの賞金首が、その額では足りないと示すかのように攻勢を開始した。
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