第116話 救出戦
アキラの車が急加速する。車の後部にいるアキラとキャロルに急加速分の慣性が掛かる。アキラはアルファによる強化服の操作のおかげで体勢を崩さなかった。キャロルは彼女自身の実力と強化服の性能のおかげで体勢を崩さなかった。
キャロルがアキラの様子を抜け目なく見ている横で、アルファがアキラに状況を説明する。
『アキラ。進行方向にモンスターが多数存在しているわ。エレナ達は移動の障害になる敵だけを倒して突破するつもりよ。道路の左右にエレナ達が無視したモンスターが残っているから注意して。そのモンスター達が追ってきた場合、挟み撃ちにされる恐れがあるから早めに倒しましょう』
『了解』
アキラがキャロルに一応敵襲を告げる。
「キャロル。敵だ」
「分かってるわ。任せて」
キャロルも自分の情報収集機器による索敵で既にモンスターを察知していた。笑って銃を構えるキャロルにアキラが話す。
「いや、俺も戦う」
キャロルが少し不服そうに答える。
「信用ないわね。大丈夫よ」
「そうじゃない。そもそも俺はキャロルを案内役として雇ったんだ。戦ってもらえるのは助かるけど、無理して積極的に戦わなくても良いぞ?」
キャロルが笑って答える。
「あら、私もしっかり戦っておかないとアキラに報酬を請求しにくいじゃない。参加している以上、私も案内役の報酬だけで済ませる気はないわ」
アキラも笑って答える。
「分かった。俺だけで敵を
「たっぷり搾り取ってあげるわ」
アキラとキャロルはお互いに不敵に楽しげに笑い合った。
現在のミハゾノ街遺跡の道路には数多くの機械系モンスター達が
道路には破壊された機械系モンスターの金属部品が散乱しており普通の車なら通行も難しい。しかし荒野仕様の車両ならばその程度の障害は通行の妨げにはならない。大型の残骸が道を塞いでいない限り、エレナ達の車両ならば強引に突破することは十分可能だ。
機械系モンスターは味方をどれだけ破壊されようとも、自身をどれだけ破壊されようとも、その戦意を失うことはない。しかし行動の優先順位は変化する。攻撃目標が離れていけば、他の敵の索敵等を優先して攻撃の手を止めることもある。そして機動力に優れている機体の場合、行動の優先順位を追跡に切り替える個体も当然存在する。
アキラ達に追い越された一部の機械系モンスターが、多脚の足の先にある球体型のタイヤを激しく回転させる。タイヤが地面を擦り僅かに煙を上げるほどの回転で一気に加速して、アキラ達を勢いよく追いかけ始めた。
行く手を遮る障害物を撃破しながら進んでいるアキラ達より、障害物の掃除を終えた道を追ってくるモンスター達の方が速い。敵を迎撃せずに
アキラが後続の敵にA4WM自動擲弾銃を構える。照準器を
アキラが引き金を引く前に、狙っていた敵が派手に吹き飛ばされて転倒する。着弾の衝撃で機体が大きく
アキラの横で銃声が響くたびに、頑丈そうな機械系モンスターが次々に破壊されていく。撃ったのはキャロルだ。片手持ちの設計にも
アキラが少し驚きながらキャロルを見る。キャロルはアキラを見て得意げに
アルファが少し感心したような表情で話す。
『言うだけのことはあるわね』
『そうだな。急がないと俺の分の的がなくなりそうだ』
『キャロルは先頭の敵から順に狙っているわ。アキラは後の敵を狙って』
『了解』
アキラの拡張視界に表示されている的の優先順位が書き換わる。アキラは目標を切り替えて、しっかり狙って引き金を引いた。擲弾は目標に命中こそしなかったが、その少し手前に地面に命中した。機械系モンスターが擲弾の爆発で吹き飛ばされた。
アキラが顔を
『外したか。もうちょっと上か?』
『A4WM自動擲弾銃のデータ取りが終わるまで、私のサポートも十全にとはいかないわ。擲弾を撃っているのだから、誤って自分の車を撃ったりしたら大変よ。それだけは止めてね』
『了解。危ない時は止めてくれ』
アキラは再び狙いを定めて引き金を引く。擲弾が空中を飛んでいき、目標近くの地面で爆発したり、通り過ぎて後方のビルの壁に激突して爆発したり、狙っていたものとは別の機械系モンスターに命中したりする。揺れる車体からの狙撃は元々難しいとはいえ、
『当たらないな』
『全然練習していないもの。当然よ。多少外れても敵の追跡を阻止できる程度の被害は与えられるわ。どんどん行きましょう』
『練習あるのみか』
アキラが敵を多少撃ち漏らしても、キャロルがしっかり撃破しているため問題にはなっていない。山場を越えるまで、アキラはCWH対物突撃銃を使用した時とは別人のようなお粗末な狙撃を繰り返していた。
ミハゾノ街遺跡の市街区画に無数に存在するビルの1棟でハンター達が立て籠もっていた。
ハンター達はビルの1階の出入り口に近い広間を占拠して、他の部屋へ
ビルそのものはかなり頑丈だ。出入り口を塞げば敵の攻撃をある程度防ぐことはできる。その分だけ
交代で休憩を取っていたが、全員の表情に疲労が色濃く表れている。ビルの外にはモンスターが
彼らに残された希望は誰かが彼らを救出に来ることだけだ。しかしそれも
見張りのハンターが休憩中で情報端末を凝視している別のハンターに尋ねる。
「……何か変化は?」
尋ねられた男は黙って首を横に振った。
「……そうか」
尋ねた方も返答は分かりきっていた。何らかの進展があれば、尋ねるまでもなく男の態度に絶対に変化が表れるからだ。それでも尋ねてしまうのは、か細い希望に
ハンター達がこのビルに立て籠もってから、既に半日以上経過している。彼らは日が沈む前にこのビルに逃げ込んだ。その時にいた者達の半数は既に死亡している。
ビルに逃げ込む途中で敵に襲われて、通路や出入り口を封鎖している間に敵に襲われて、戦闘時の負傷が悪化して、ビルからの脱出を試みて周辺の敵に襲われて、応戦して死に、
それでもまだ生還の希望は残っている。考えつく限りの当てに緊急依頼を送信したからだ。救援の依頼が届いている可能性はある。時間を稼げば誰かが救援に来るかもしれない。
生き残りのハンター達に、生還の見込みがない外へ飛び出すほどの勇気と度胸と狂気は残っていない。減っていく弾薬を眺めながら、か細い希望に
男が情報端末をじっと見続けている。夢と幻覚の中で誰かからの通信を受け取り、我に返って情報端末を確認して、夢と幻覚のどちらかであったことに気付く。そんなことを既に数度繰り返していた。
男の端末に短距離通信による通話要求が届いた。男が点滅する通知を見ながら壊れかけた笑みを浮かべる。これが夢か幻覚か現実か、男には分からない。しかしやることは同じだ。情報端末を操作し、通話要求を受け入れた。すると、情報端末から女性の声がする。
「アルハイン保険から救援依頼を受託した者よ。そっちはココレンスさんであっているかしら?」
男は
「聞こえている? アルハイン保険の救援保険を契約したココレンスさんの情報端末に
男は混乱していた。夢か幻覚か判断できる状態ではなかった。
「負傷で話せる状態ではないの? それなら誰か話せる人に代わってもらえないかしら。そっちの状況を知りたいのだけど」
男が返事を返さないので、女性が話を続ける。
「聞いてるの? 話せないし、他に誰もいないなら、テキストメッセージでも良いから送ってほしいのだけど。それとも外部からの通信に対して自動的に接続するように情報端末に設定されているだけで、本人はとっくに死んでいるの? 聞いている? 誰かいない?」
ついに男が我に返った。男は女性の声が現実のものであることも理解した。その瞬間、男があらん限りの声で情報端末に向けて叫ぶ。
「助けてくれ!」
男の叫び声が広間に響く。広間にいるハンター達の視線が集まる。
男の情報端末から聞こえてきた女性の声は、彼らを助けに来たエレナのものだった。
アキラ達がミハゾノ街遺跡の道路を強引に突破し続けている。道は広いが敵も多い。その場に止まって応戦などしていれば、倒した敵の残骸で一帯が埋まってしまい車両での移動が不可能になりそうだ。
アキラとキャロルが追ってくる小型多脚戦車を競うように破壊し続けていた。撃破数はキャロルの圧勝だ。それでもアキラがA4WM自動擲弾銃の試し撃ちの的に困らないほどだ。アルファも十分なデータが取れただろう。
アキラが愚痴をこぼす。
「幾ら何でも多くないか? 切りがない」
キャロルがアキラの問いに答える。
「ハンターオフィスの戦力が出張所を基点にして一定範囲で防衛線を敷いているらしいわ。その外側はその分だけ敵の密度が上昇しているのかもしれないわね」
「ハンターオフィスはそんなことをやっているのか。どうやって知ったんだ?」
「休憩中にシカラベから聞いたわ。夜の内に防衛線の内側にそれなりの数の人型兵器を投入して、強力な無人兵器の排除には成功したようよ。今は主要な通路を封鎖して一定の安全を担保している最中なんだって。ドランカムの部隊もその作業に参加しているらしいわ」
アキラは途中で見た大型機の残骸と人型兵器の腕などを思い出した。恐らくそれがその交戦の跡なのだろう。アキラ達がいるのは防衛線の外側だ。つまりあの手の大型機が
アキラが嫌そうな表情で話す。
「外側はどこもこんな有様なのか? それなら確かに保険でも掛かっていないと、救助の緊急依頼を受けるやつは少ないだろうな。保険が必要になるわけだ」
「保険会社もこんな状況を想定して保険料を決めたわけじゃないでしょうから、多分大損でしょうね」
アキラにもキャロルにも戦闘中に雑談をする余裕がある。セランタルビルの中で大量の機械系モンスターに襲われた昨日の状況に比べれば、今の状況など慌てるほどのことはない。並みのハンターなら慌てふためく戦場で、アキラ達はその実力を示していた。
エレナから情報端末を介してアキラ達全員に指示が出る。
「200メートル先の門の先のビルに救出対象が立て籠もっているわ。シカラベはビルの出入り口に停車して、救出対象を全て生死不問で乗車させて。残りのメンバーは出入り口周辺の敵を
シカラベがエレナに尋ねる。
「連中の乗車に費やせる時間は?」
「10分。うだうだして乗車を遅らせるようなやつは置いていくわ」
「最優先の乗車対象は?」
「ココレンスってハンターが保険の契約者よ。既に死んでいた場合、遺体の損傷の程度に関わらず乗せてちょうだい。最低でも彼の情報端末は欲しいところね。本人も識別用の情報端末も見つからない場合は、5分で捜索を打ち切って」
「そいつと連絡は取れなかったのか?」
「該当者の情報端末を持つ自称本人とは連絡が取れたわ」
シカラベが少し面倒そうに答える。
「……ああ、了解した」
シカラベは長年のハンター稼業からいろいろ察していた。サラもキャロルも同様だ。理解が追いついていないのはアキラだけだ。
エレナがアキラに確認を取る。
「アキラ達の方は大丈夫? 私の予想より襲撃が多かったわ。無理をしていない?」
良い意味ではアキラを気遣うための、悪い意味では車両を含めて最も貧弱な装備のアキラと、エレナが正確な装備も実力も把握できていないキャロルの様子を確認する
アキラがしっかりと答える。
「大丈夫です。問題ありません」
情報端末からエレナの勇ましい声が響く。
「そう。それなら、行きましょうか!」
エレナ達の車両を先頭にして、アキラ達はビルの敷地内に飛び込んだ。
ビルを包囲していた機械系モンスター達が、攻撃対象を立て籠もっているハンター達からアキラ達に一斉に切り替える。銃器の類いを装備しているモンスターが次々に銃口をアキラ達へ向ける。近接攻撃しかできないモンスターがアキラ達との距離を詰めようと動き出す。
そしてアキラ達に
シカラベの装甲兵員輸送車の機銃が大量の銃弾で一帯を掃射する。近距離ならば賞金首にも効果がある強力な銃弾が、機械系モンスター達の生半可な装甲を
エレナ達の車両に搭載されている機銃から放たれる銃弾が、ビルの周囲から集まってくるモンスター達に浴びせられる。サラは自動擲弾銃を構えて撃ち続ける。無数の擲弾がモンスターの頭上に降り注ぎ、無数の爆発がモンスター達を吹き飛ばしていく。
アキラとキャロルが敷地の門に銃の照準を向け、敷地内に侵入しようとするモンスター達を迎撃する。
敵は数台の車両がすれ違えるほどに大きな門を塞ぎかねないほど大量だが、キャロルが放つ銃弾とアキラの放つ擲弾により破壊され、粉砕され、吹き飛ばされ、
その
敷地内は瞬く間に鉄火砲火が支配する戦場に様変わりした。
ビルの中に立て籠もっているハンター達が、ビルの出入り口を塞いでいる障害物の隙間からアキラ達の戦闘を見ている。
「来た! 本当に助けが来た!」
「早く出口を開けろ! このままだと外に出られないぞ!」
「強化服を着ているやつは、出口を塞いでいる車両を
「負傷者を出口の近くまで運べ!」
ハンター達が慌ただしく動き始める。この機会を逃したら生き延びる術はない。全員がそれを理解していた。残りの気力と体力を総動員して作業を進めていく。
アキラ達が敷地内の敵を粗方始末すると、シカラベがビルの出入り口の
ビルの出入り口は破壊された車両で塞がれたままだ。立て籠もっていたハンターの1人が、何とか出られそうな狭い隙間を通って、必死の形相でビルの外に出ようとしている。
シカラベが出入り口を塞いでいる車両の残骸を思いっきり蹴飛ばした。蹴飛ばされた車両の残骸が数メートル横に吹き飛んでいく。
シカラベが大声で指示を出す。
「10分で出発する! 生死不問で全員乗せろ! それと、ココレンスってやつはどいつだ?」
シカラベの横を通って車両に入り込もうとするハンターが、シカラベに腕を捕まれて止められる。男が必死の形相で叫ぶ。
「な、なんだ!? 入れてくれよ!」
「自力で動けるやつは後だ。自力で動けないやつを先に運んでこい」
男はシカラベの制止を振り切って必死に車両の中に入ろうとする。
「うるせえ! 俺は生き残るんだ!」
シカラベが叫んだ男を勢いよくビルの中に投げ飛ばした。男は体力を消耗した状態で固い床に
シカラベが他のハンターを
「もう一度言う! 生死不問で全員乗せろ! 死体だろうが頭が無かろうが頭しか無かろうが全員だ! あと、ココレンスってやつはどいつだ? あるいは、俺達と連絡を取っていたやつだ」
負傷者に肩を貸しているハンターが別のハンターを指差す。
「……れ、連絡を取っていたやつは、そいつだ」
シカラベが答えたハンターに、車に乗れと顎で指す。ハンターが
シカラベがエレナと連絡を取っていたハンターを見る。そのハンターの表情は引きつっていた。
シカラベが救出対象のハンター達の乗車を進めている間も、アキラ達は周辺のモンスター達を倒し続けていた。周辺の敵を粗方倒したのか、門の外やビルの周りから現れる追加のモンスターの量は大分減少していた。
アキラが軽く息を吐く。
「
キャロルがアキラを見て強気に
「アキラ。私への報酬は安値で済みそう?」
アキラが苦笑気味に、しかしどこか楽しげに答える。
「この調子だと、高く付きそうだ」
キャロルが満足げに笑って話す。
「昨日の私とは違うってことを見せられたようね。報酬を期待してもいいかしら?」
「まだ序盤だ。そうやって安心するのは早すぎる。油断するなよ?」
「油断なんかしないわ。言ったでしょ? たっぷり搾り取ってあげるって」
アキラとキャロルが不敵に楽しげに笑い合った。
アルファが笑ってアキラに指示を出す。
『それならアキラの分の報酬が残るように、今のうちに撃破数の追い上げをしておきましょうか。アキラ。CWH対物突撃銃に持ち替えて』
『分かった。あれだけ倒したのに、まだ追加分のモンスターが周囲に残っているのか?』
アキラは指示通りに使用する武器をCWH対物突撃銃に変更し、面倒そうな表情を浮かべた。
『正確には、追加分ではないわね。初めからいた分よ』
アルファがビルを指差す。アキラがビルを見るとアキラの視界が拡張されて、今までビルの壁面に隠れて見えなかった機械系モンスターの姿が表示された。アキラはすぐにビルに向けてCWH対物突撃銃を構えた。
キャロルがアキラに釣られてビルの方向へ銃を構える。しかしキャロルには敵がいるようには見えなかった。キャロルの目に映っているのは、機械系モンスター達の残骸が散らばる地面と、頑丈な旧世界製のビル、撤収作業中のシカラベ達と、周囲を警戒しているエレナ達だ。敵性の存在は見受けられない。
キャロルが視線をアキラに戻す。アキラは真剣な表情でビルに向けて銃を構えている。
キャロルが再びビルに視線を戻した時だった。ビルの3階の窓から機械系モンスターが飛び出してきた。キャロルはそれを見て驚き、その機械系モンスターが即座にアキラに銃撃されて半壊する光景を見て更に驚いた。狙撃された機械系モンスターはそのまま落下して地面に激突し、派手に
機械系モンスター達がビルの複数の窓から次々湧き出てくる。アキラはそれらを次々に正確無比に狙撃していく。狙撃された機体が着弾の衝撃で壁面から破損状態を問わずに引き剥がされ、落下して地面に激突した衝撃で大破した。その一部が装甲兵員輸送車の天井に激突し、派手な音を内部に響かせた。車に乗り込んでいるハンター達が小さな悲鳴を上げた。
アキラはアルファの索敵により敵の出現位置を正確に把握している。アルファによる命中補正も合わさって、一撃で敵の弱点を正確に狙撃し続けていく。アキラに狙われた機械系モンスターはビルの外部に出た瞬間に撃破されて地上へ落下していった。
エレナ達もすぐに敵襲に気付いて応戦する。キャロルもすぐに攻撃に加わる。破壊された機械系モンスター達の部品が地面に降り注いでいく。
キャロルがビルの側面を降りてくるモンスター達を撃ち落としながら考える。
(まただわ。アキラは誰よりも早く敵の存在に気付いていた。一体どういう索敵能力をしているの? 私達は敵がビルの外に出てくるまで気が付かなかった。そこまで高性能な索敵機器を保持しているようには見えないわ。一流のハンターが持っている優れた勘ってやつかしら)
キャロルはアキラの装備を目視でしか確認していないが、キャロルの目にはアキラがそこまで高性能な情報収集機器を装備しているようには見えなかった。装備を偽装しているようにも見えない。
一流と呼ばれるハンターの中には、高性能な情報収集機器でもなければ絶対に気づけないはずの敵の存在に気付く者も多い。本人にも分からず説明も出来ない何かで敵の存在を察知するのだ。本人にも他者にも説明できないので、勘と呼ばれて一括りにされている何かだ。
(車の運転も、アキラは自動操縦に完全に任せていたわ。戦闘中だからって、あれだけの敵に襲われている状況で、そこまで自動操縦の運転を信じられるの? それともアキラが遠隔操作で運転していたの? そんなことができるの?)
車の自動運転機能の精度にも限度があるのだ。よほど高性能な制御装置を搭載して念入りに設定しなければ、遺跡での運転を任せるのは難しいだろう。戦闘中なら
何らかの方法、車載のカメラなどで車両前方の映像を取得し、その映像をゴーグル等に表示して遠隔操作で車を運転することは不可能ではない。アキラにそれだけの力量があればの話である。正面と背後の状況を的確に把握して、車の運転をしながら追いかけてくる機械系モンスター達を攻撃することなど、並大抵のことではない。少なくともキャロルにはそんな
(私の勘だと、どちらでもないって感じなのよね。……でもそのことでアキラを問い詰めるのも危険な気がするのよね。……本当に、得体の知れない子ね)
キャロルはそんなことを考えながら楽しげに不敵に笑っていた。
キャロルはシカラベからアキラに関する情報を引き出していた。アキラが億超えのハンターであることも知っている。シカラベに誘われて賞金首討伐に参加して、十分な成果を上げたことも知っている。そしてそれらの情報が正しいことも、アキラの実力に間違いがないことも、昨日のセランタルビルでの戦闘で既に知っている。それらの情報は、キャロルのアキラに対する評価を十分すぎるほどに上昇させていた。アキラには一流と呼ばれるハンターの片鱗が確かに存在していた。
見所のあるハンターが命懸けで手に入れた金。危険な旧世界の遺跡で手に入れた遺物を売却して得た金や、過酷な依頼を達成して得た報酬の金など、自分の命を賭けて得た金。キャロルはハンター達がその貴重な金を、命と人生の
キャロルは対価に見合う至福を相手に与えていると思っている。キャロルを抱いたハンターがその支払いのために、より危険な遺跡に向かい、より困難な依頼を引き受けて、その結果破滅したとしても、キャロルは薄く笑うだけだろう。自分を抱くために自身の力量を超える無謀な賭けに挑むほどに自分を求めてくれた人がいなくなったことを悲しみ、それ程までに自分を求めてくれたことを喜ぶだろう。
キャロルがアキラを籠絡した時、アキラは自分の
(……でも今のところ、アキラが私に手を出す様子は全くないのよね。シカラベもアキラの女の趣味は知らなかった。シカラベがアキラを
キャロルはそこで思考を打ち切って戦闘に集中する。アキラ達を取り巻く状況が、キャロルに余計な思考に意識を割くことを許さなくなってきたのだ。
アキラ達の奮闘により
「あの様子だとビルの中にもたっぷり詰まっていそうね。外の戦闘で良かったわ」
キャロルは意識を敵に集中させて笑いながら引き金を引き続けた。余計なことを考える余裕がないだけで、費用が
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