第6話 昔の話
異種族を呼び戻す事に賛成はしたが、果たして村人達は納得するのだろうか。
リノアさんの話によれば異種族を嫌う反乱分子は時間の経過と共にいなくなったらしい。時間の経過と言っても考え方が変わったのではなく、異種族を差別化していた人たちが亡くなっていっただけらしいが……
とにかく今ほしいのは、異種族についての情報だ。
「村が出来た当初、異種族はいたんですよね? 誰か当時の状況に詳しい人はいないんですか?」
「それなら、村で最古参のチゲババさまに話を聞くのが一番ですね」
リノアさまはそう言うと、村に一番長く住んでいるお婆さんのところへ案内してくれた。
「チゲババさま、いらっしゃいますか? 」
そういうと部屋の奧から年をとったお婆さんが姿を現した。
「これは、リノアちゃん元気かい? こんなご老体に何か用事かい?」
チゲババさまと呼ばれたお婆さんは、いきなり来訪した俺ら3人を快く迎え入れてくれた。
「他の種族の方達がいた頃の話を聞きに来たの」
「そうかい、でもなんで急にそんな話を聞きにきたんだい?」
チゲババは不思議そうに聞いてくる。
リノアさんは異種族を呼び戻そうとしている事を説明した。
「そうかい、やっと元に戻れるんだねぇ…」
そうつぶやくと昔について話はじめた。
100年前、バリエンテ王国とディクタドーラ王国の大規模な戦争が勃発した。勝利したのは、バリエンテ王国だったが当時は処刑という概念がなく、追放が一般的であったため国外に追放する事を計画した。当時の国王は領内の端にノーヴァ村を作り、そこを国外追放場所と位置づけた。はじめは、バリエンテ王国の監視員を村に駐在させていたため、種族間や同族間の争いもなく規律に統制がとれていた。しかし、40年後に新国王が即位すると駐在していた監視員は撤退し、バリエンテ王国とノーヴァ村を繋いでいた橋が壊され国から見放されてしまった。
この出来事により、各種族の代表で村長の決定を行ったらしい。当時の代表者候補には、身体能力に優れる、犬人族の長ガリア。豊富な知識と魔術を操る、エルフ族の長エリンシア。優れた技術を持ちその腕前は神技と恐れられた、ドワーフ族の長ドルグ。武器の扱いに長け、人心掌握術に優れたカリスマ、人族の長グリード。
この四人で話し合いをした結果、人数が多いのもあってグリードが村長になった。
はじめは村の統治も上手くいっていたが、流行り病により人族の人口が減少した事により、他種族を恐れたグリードは流言を人族へ流し唆した。流言を本気にした人族は他種族を村から追い出した。それから60年はグリードを村長とし、ノーヴァ村を統治してきたという。
これが、この村の歴史らしい。
つまり諸悪の根源はグリードなのか。
涙をこらえながら話を聞いているリノアさんの前ではさすがに言えないため、心の中でつぶやく。
「お父さんが、主犯だったんですね……」
こらえていた涙は、自然とこぼれている。
優しい心の持ち主なんだな。
俺はそんな事を思いながらも、何も声をかける事ができない。ゼノビアも同じらしい。
この沈黙を破ったのはチゲババさまだった。
「リノアちゃんが元に戻してくれるんだろぅ? 見届けるまで死ねないね」
「はい……必ず元に戻してみせます、私の一生をかけても」
この時思ったよ……
俺がこの異世界に転生してきたのは、このためだったんだなって。
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