第4話 村の問題

「見慣れない格好だな」


 ゼノビアは腰に帯同した剣を抜き構えながら俺をにらみつける。

 

 「俺は怪しい者じゃない! 気づいたら森にいて命からがらこの村にたどり着いたんだ…」

 「ゼノビア、剣を降ろしなさい」

 「しかしリノアさま」

 「あちらが敵意を見せてない以上、こちらも好戦的になれば話ができません」


 リノアはゼノビアに指示をだす。

 こちらに敵意がないことが伝わっのか…助かった。

 

 「ゼノビアが言うとおり、見慣れない格好をしていますね」

 

 たしか、俺はスーツ姿でこの二人は昔の村人のような服装をしている。

 記憶をなくした事にして、やり過ごすしかないな


 「実は記憶をなくしてしまって、気がついた時に森にいたんだ…だからここがどこなのかも分からないし、なんでこんな服を着ているのかもわからないんだ」


 少し苦しい言い訳だが、今の俺にこれ以上の言い訳を考える事ができなかった。


 「分かりました。とりあえずあなたの言っていることを信じるとしましょう」

 「この村は…」


 そういうとリノアはこの村の説明をしてくれた。

 どうやらこの村の名前はノーヴァ村というらしい。

 この村はバリエンテ王国という国の領内にあるらしく、約100年前、バリエンテ王国内の無法者を一斉に監禁するために作られた村らしい。西には大きな谷があり、谷を越えた先にバリエンテ王国がある。東には俺が抜けてきた森…不可侵の森がある。北には大きな山脈があり南には大きな海が広がっているらしい…

 

 「つまり脱出は困難であり、鎖国状態ってわけか…」


 無法者とは言ってもさまざまらしく、人族の犯罪者や人族以外の種族で構成されていて、バリエンテ王国では、種族間差別があり人族以外の種族は無法者の扱いを受けていた。当初数千といた村人も村内の紛争により人口は減少し、今では人族の村人30名で村を運営しているらしい。ちなみに二代前の国王が健在の時は、定期的に無法者がノーヴァ村に運ばれて来ていたらしいが、一代前の国王になった時に谷にかかっている橋を壊され、王国と村の唯一の道も閉ざされたみたいだ。それ以降約60年間交流はなく、生産力のない村は人口減少とともに紛争もなくなった。


 「見たところ人族しか見当たらないが…他の種族はどうしたんだ」

 「他の種族は、人族が村から追い出し散り散りになったと父から聞いています」


 なるほど、この村が最悪な状態だということは分かった。

 どうやらこの世界は異世界で、俺は転生してきたらしい。

 というかなんでこんなに異世界ハードモードなんだ…

 他の村に行くことも出来ないなら、村においてもらうしかないな


 「自己紹介がまだだった…俺の名前はタダシ、もしよければこの村においてくれないか」

 「もともと無法者の村なのでかまいませんが、おもてなしは出来ませんよ」

 「かまわないよ、それより村がどういう状態なのかを見させてほしい。なにかお手伝い出来ることが出来るかもしれない」

 「分かりました。私は先ほどノーヴァ村の村長になりました。リノアと申します。よろしくお願いします」

 「私はゼノビアだ。勘違いするな。まだ貴様を信じきったわけじゃない。敵意があるとみなしたら迷わず切り捨てるから行動には気をつけろ」

 「すいませんタダシさま、ゼノビアは先代の村長の頃から村長補佐を務めていたので…無礼をお許しください」


 とりあえず自己紹介はすんだみたいだ。どうやら前村長の一室が空いているみたいだからそこに住まわしてもらえるみたいだ。

 今日は、村長を埋葬して詳しい話と村人への紹介は明日するらしい。

 なんの因果で異世界転生したのかも、この村の近くに転成したのかも分からない。なにか意味があるのか? この世界で俺は何をすればいいのか。未だに現実を受け入れられずにいるが、今やることはとにかく生き残るためにどうするかを考えなければいけない。どんなに悩んでいても体は正直なようで、気づかない内に異世界初日を終えるのであった。

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