空の狩人IV

翌日、任務のないリラとアリアの2人は朝早くから魔法の訓練のため北の森へと向かう。

太陽が空の真上から少しズレた頃、ニーヴェア本部では幹部による会議が開催されていた。議題は「地上探査任務の魔導士選抜」についてである。

ニーヴェア本部の一室にてその会議は行われる。部屋には円形の大型テーブルが1つとそれを囲むように7つの椅子が用意されていた。

ニーヴェアの幹部は6人、そのうちの2人がガルシアとエマである。


「さて、今回の選抜だけども―私が選ぶのはこの10人の魔導士だよ。」


そう発言したのは茶髪の男性であった―彼こそが3大魔導士と謳われるここブランシュの最強にして魔導士協会ニーヴェアの統括者であるウィリアム・ホワイトだ。

ウィリアムが提示した資料には10の魔導士についての顔写真と名前、そしてある程度の情報が記載されていた。その中にはエマの子であるリラ―そして予想外にもアリアの名前も記されていたのだった。


「代表、アリアも行かせるのですか?」


「あぁ、そのつもりだよ。アリアとリラの2人は実戦経験は少ないにしろ魔法の技術に関しては秀でているからね。それにあの2人は共生関係にも見える、2人同時に送り出す方がさらなる成長に繋がるとも思っているんだけど…親としてはどう思うかな?」


「どう思うも何も―2人の親としては死地にも近しい場所に送り出すのは嫌です。ただ、子を守るのも親の役目ですが、子の成長を促し見守るのもまた親の役目です。だから私は2人の意思に委ねるつもりですよ。」


「そうですか。」


エマの親としての覚悟ある答えにウィリアムは微笑む。


「部隊長はルーカス、君に任せようと思うが頼めるかな?」


「えぇ、かまいませんよ。2人の保護者的役割も担えますからねその方が姐さんも安心できるでしょう。」


ルーカスはエマの不安が少しでも和らぐように、部隊長就任を承諾した。


「では、本人たちの同意をもって地上探査部隊を編成することとする。今日の議題は以上、解散!」


幹部会議の数時間後、選抜魔導士にそれぞれ協会からの通達が行われた―もちろんその連絡は街離れで訓練をしていたリラ、アリアの下にも届けられた。


リラの人差し指に一羽の白い小鳥が止まっている。小鳥の右足首には赤色の水晶が填め込まれた足枷のようなものが着けられている。


「協会本部より通達。リラ、アリアの両名を地上探査部隊の候補者とする。明日、午後17時までを期限とする―以上。」


声の主はどうやらリラの指に止まる小鳥のようだ。小鳥の足首に着けられているのは魔道具の一種―魔力を込めた魔導士の声を他者に届けるもの―であり本来の声の主は協会に所属する伝令係のものである。

小鳥はそう告げると元来た空へと羽ばたいて行った。


「アリアは―」


「嫌よ。」


リラが言い終わる前にアリアはその言葉を遮る。


「危険なのは分かってる。だからリラが私を守って、私がリラを守るから!それに―レオンに勝手に約束しちゃったしね。」


アリアの顔立ちは今までにないほど凛々しく覚悟に満ち溢れているものだ―リラはそう感じた。


自分は命に代えてでもアリアを守らなければならない―毎日のようにリラは自分自身に言い聞かせてきた。それほどまでにリラに取って彼女という存在は大きく大切なものであるのだろう。だからこそ行かせたくはない―だが、それを言ったとしても彼女の決意は揺らぐことがなく、信念が曲がることもまたないだろう。

それはつまり―リラに取ってアリアが大事であるように、アリアにとってもまたリラが大事であるということの裏返しでもある―互いが互いを大事に思うが故に、危険に晒すことを良しとせず迫りくる危機からは守り抜く、これは互いを思い合うが故に2人の間に結ばれた関係性であるのだろう。ただ、それが友情によるものなのかはたまたそれ以上の特別な何かによるものなのかは2人にはまだ知る由もない。


「アリアは言い出したら聞かないからね…ただし、俺から離れないで、守ってくれるんだろ?」


「言い出したら聞かないのはお互い様でしょ?もちろん、守り抜いてみせるよ!」


守り守られ共に生きていく―それこそが、この2人の人生であるのかもしれない。


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