空の狩人Ⅲ

ミラ島中心都市「クチナシ」の中心を先刻彼らが訪れていた魔導士協会ニーヴェア本部とするのならば、ここはクチナシ北部に位置する。

そしてここにリラとアリアが育った母の待つ家がある。

現存する建造物は魔導士協会の施設と都市の外壁を除き皆煉瓦造りであり、内部は木造の建築となっている。

フローレス家は2階建ての建造物で1階に3部屋とお風呂場、2階にそれぞれエマ、リラ、アリアの個室と今は使用されていない父の個室が存在する。


「ただいま、母さん。」


「エマ様ただいまー」


「邪魔するぞ姉さん」


リラが玄関の扉を開け中に入ると3人は各々帰宅の挨拶をした。

その声を聞くと奥からリラと同じ白髪をした女性が出てきた。


「おかえりなさい。それと、今回も無事でなによりよルーカス。」


女性はエマ・フローレス。リラの母であり、アリアの育ての親そしてルーカスの姉弟子にあたる人である。白髪に青眼の優しそうな顔立ちをした女性であるがS級魔導士の資格を持ち《紅蓮の魔女》の異名を持つ実力者である。なぜ見た目に反した《紅蓮》の異名を持つのかは後々語るとしよう。


「本部でルーカスに会ったからお昼に誘って連れてきたよ。大丈夫だった?」


「大丈夫よ料理は少し多めに作ってあるから。さぁ、すぐに出すから席に座っててね。」


エマにそう言われると3人はエマがやってきた奥の部屋に向かった。

玄関から真っ直ぐ向かった奥の部屋はダイニングになって木造四角形のテーブルと木造丸椅子がよんせき、そして少し広めのキッチンがあった。3人がそれぞれ椅子に座るとエマが料理を温め直し運んできた。

どうやら本日の昼食は野菜のスープ、鶏肉の香草焼き、白パンのようだ。


「さぁ食べましょ。」


「「自然の恵に感謝を…」」


エマが座ると4人は作法として食事をいただく前の挨拶をし昼食を摂るのだった。


「そういえばルーカスは予定より早い帰還ね?」


食事を食べ終えると、エマがルーカスに尋ねた。


「あぁ、もうすぐアイツの…レオンの命日だろ。だから急いで帰ってきたんだよ。」


レオン…と言うのは本名レオン・キャンベル。リラ、アリアの幼なじみであり2人と同じくルーカスにとって弟のような存在だった1人だ。


「今日3人で墓参りに行こうとしてたんだ、ルーカスも一緒にどう?」


「あぁ、行かせてもらうよ!人数が多い方がアイツも喜ぶだろうしな!」


今日の午後、3人でレオンのお墓参りに行こうと計画していたリラは「それなら!」とルーカスも誘うのだった。


××××××××××××××××××××××××××××××××××


お墓参りをすることになった4人は街外れにある墓地へとやってきていた。ここには、街の住民や殉職した魔導士の多くの墓が設置されている。この空の世界では火葬が一般的である、地上で生活していた頃は土葬が一般的であったらしいが魔獣の中に死体を操るものが存在するため火葬が一般的となったのだ。

そのため墓の下には遺骨が埋められている。遺灰は空へ還すのが慣わしであるため、火葬後の遺灰は遺族の手により空へと還される。


レオンの墓は墓地入口から奥に向かって4列目にある。墓は石造りで十字架が立ててありその下に遺骨がしまわれた石版にも似た棺のようなものが埋められている。

棺の表面には"レオン・キャンベル ここに眠る"と刻まれていた。


「レオン今年も来たよ…」


リラはレオンの墓を見つめ悲しげな表情でそう言った…

ここにレオンの骨は埋まっていない…それどころか灰を空へ還すことすら許されなかった。

リラは唇を噛み締め、拳を強く握りしめた…


「レオン私ねもっともっと強くなるからね!それで私がレオンの代わりにリラを守るからね!」


静寂を破るようにアリアが自身の決意を亡きレオンに叫んだ。

それを聞いたリラは今のアリアの決意をレオンが聞いたら大笑いしていただろうなと思うのだった。

エマとルーカスは何も言わない…いや、静かに心の中でレオンに語りかけているのだろうか…


「レオン…また来るね…(約束は必ず果たすから)」


そう言い残すと4人ら墓地を後にするのだった。

帰り道エマとルーカスは何やら会話をしている。


「姉さんボスからの伝言を伝えとくよ、明日午後1時より幹部会議を行う…だってさ。」


「分かったわ内容はだいたい予想がついてる」


「たぶん次の候補はリラだろうな…」


「えぇ…あの子は推薦されたらきっと行くでしょうね、あの人の子だもの」


「顔立ちは全然似てないのにな、頑固さだけは…いや、これは2人ともに似たのか?」


「そうね、夫婦揃って私たちは頑固ですから。」


エマは頑固だと言われたことに拗ねたように言い返した。


「悪かったよ…。行かせるのかアイツを?」


「私はあの子が決めた道を進ませてあげるのが仕事だから…」


そう尋ねられたエマは少し悲しげな様子でそう答えるのだった…

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