ヒトリで完結する話

アマイロノソラ

1、


 夕日が照らす教室はエモい。



 友達のいない私が、『エモい』という言葉をようやく理解したのは、

今、なのかもしれない。夕日照らす教室で私は一人。エモい。


 ついでに言えば、だらんと下がる左手には、ざらついて、太い縄が

握られている。片方の先は輪の形で結んである。

 この異質さはエモいのだろうか。ちょっとわからない。


 元々、人が発する言葉の意図が分からなかった。


 相手が自分を責めているのか、褒めているのか。あるいは

大した関心もないのか。そういったことがわからない。


 それなら死ねばいい。


 感情的よりも打算的に私はそう思った。私が生きても無駄だから、

人々のためには死ぬのが最適解だろう、と。


 机を重ねて、登る。天井に縄をくくる。

 蛍光灯にくくると不安定なような気がしたから、壁に埋まっている

フックにかけた。外れないようにゆっくり縛る。


 輪の形に作った縄をつかむと、ざらつく表面が手を擦る。

 ホームセンターで買ったイメージのままの縄だ。


 私はこの輪に首を乗せる。それだけで、呼吸ができなくなるような気がした。



 「死のうとしてるの?」



 そう口を開いたのはワタシだった。首を吊ろうとしているのは私。

私に向かって語りかけているのもワタシ。


 「そうだけど」


 私がそう答えると、ワタシが「ふ~ん」と相槌を打ってくる。

 案外、私は冷静だった。


 「あなたは誰?」


 私は問う。『死のうとしてるの?』その言葉は私が意図して

出した声ではなかった。その声は間違いなくワタシからのものだった。


 傍からは独り言のように見える。でも、それは間違いなく会話であった。


 「くだらないよね、私を見ているのはワタシしかいないんだ。

本当は誰かに止めてもらいたかったのに」


 私ではない。ワタシがそう言った。

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ヒトリで完結する話 アマイロノソラ @amaironosora

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