第3話

 さらに歩いていくと、今度は小さくてふわふわとした黄色い小鳥がうずくまっていました。

「なにしているの?」

 少女は小鳥の顔が見えるようにバスケットを下に置いて、うつぶせになりました。

 小鳥は涙目になりながら彼女の瞳を見つめました。

「どうして、こんな私にやさしく話しかけるの?」

「あなたが苦しそうに見えたからよ」

「わたしなんて苦しんでいいの」

 少女は頭につけていた赤い頭巾を外しました。

 そして、苦しまなくていいよ、と言うかわりに頭巾で小鳥をくるみ、少女の胸に抱きよせました。

 ほおずりされて、小鳥は少しだけ体をよじりました。

「くすぐったいよ」

「でも、笑えたでしょう?」

「……やっぱり、今は笑いたくない」

 小鳥は頭巾から滑り降りました。水かきのついた小さな足を投げ出してまた座り込みます。

「わたし、アヒルの子。みにくいアヒルの子」

「そんなことないわ。黄色くてきれいな羽毛に包まれているじゃない」

「うん。みんなそう言ってくれる。でも、わたしの心は真っ黒よ」

 少女は静かに、美しく柔らかい背中の羽毛を撫でました。

 小鳥はしょんぼりと話を続けます。

「わたしにはたくさんの兄弟がいたの。でも、その中に一匹だけ体が真っ黒なヒナがいたの。お母さんはいつもその子を見たらがっかりした顔をしていた。見た目も中身もぼんやりしたあの子を見たらわたしもイライラしちゃって……。それでつい、ひどい言葉をかけてしまった。同じようにうっとうしく思っていたのか、他の兄弟もあの子をいじめ始めたわ。

 あとで慌てて止めようとしたんだけど、最初にいじめたのがわたしだから、何の効果もなかった」

「……黒いヒナはどうなったの?」

「昨日、わたしたち家族から離れて行ってしまったわ」

 少女はもう一度赤い頭巾を小鳥にかぶせてから、ぎゅっと抱き上げました。

「それでも、ちゃんと自分がしたことに気づいて行動したじゃない」

 胸の奥に仕えていたものが一気にあふれ出すように、小鳥はわっと泣き出しました。

「違う、違うの!私が本当に悲しいのは、あの子がいなくなってほっとしている自分なの!」

「ほっとしている?」

「黒くてほかの兄妹とは違うあの子は、よくわかんないけれど……いつしかすごい鳥になるんじゃないかって怖かったの。何者にもなれない私とは違う。誰もがうらやむような姿に……。変わりゆく姿を見たくなくて、正直いなくなってほっとした。

 ごめんなさい。私の心は醜くてあさましい。だから、もういなくなってしまいたい……」

 小鳥の声は、涙でおぼれてしまいそうでした。

 少女はバスケットの中でもひときわ強い光を放つ白いドロップを取り出し、小鳥に見せてやりました。

「ねぇ、これ……。とってもきれいでしょう?」

 小鳥ははっとして、ドロップの光に吸い込まれるようにくぎ付けになっていました。

 少女はにっこり笑いかけました。

「白色はね、どの色よりも光り輝くのよ。これから白くて立派なアヒルになるあなたが輝けないはずがないじゃない!」

「白は……輝ける」

「それにね、心の輝き方は人それぞれ。もし目立った才能がなくたって、他の鳥に埋もれちゃったとしても、あなたにはあなたの輝き方があるの。このドロップたちにいろんな色の光があるようにね」

 小さなくちばしの先にドロップが当てられます。小鳥はちょいとドロップをつまみ、口に含みました。

「甘くて……おいしいよ」

 少女はゆっくりうなずきました。そしてバスケットを手に持ち立ち上がりました。

「今、このドロップに、あなたが輝けるおまじないをかけました。この光を独り占めするのか、他の鳥たちにも分けてあげるのか。それはあなた次第よ。でも、自信を無くさない限り、心は光り続けるはず。だから、自分だけは見失わないで」

「うん!」

 小鳥は無邪気な声でうなずきました。

 安心した少女は小鳥に別れをつげ、また先に進み始めました。

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