第11話 謝罪と手当て

「……」


叶太は、私の言葉に何も言わないで、こちらを向いた。


「さっきはごめん……。手、痛かったよね。ちょっとこっち来て」


叶太は立ち上がると、私を見てそう言ってから、私の左手の手錠を外した。


「このソファ、座ってて」


叶太はドアを開けて部屋を後にした。


(今なら、逃げられるのかもしれない)


そんな考えがよぎったけれども、私は逃げなかった。叶太に言われたことを思い出すと、私は逃げることが出来なかったのだ。言われたとおりに、ベッドから立ち上がって、ソファに腰かけた。少しすると、叶太は箱を手に持って帰ってきた。叶太は、近いというぐらいに横に座って、手を手当てしてくれた。それとお腹も。


「ありがとう」


箱の中に道具を片付けた叶太は、いきなり私を抱きしめた。


「か、叶太!?」

「……ずっと辛かったね。痛かったね。知らなくてごめん……」

「そんな……」

「俺が絶対守るから。だから、ここにいてほしい」


叶太が優しく頭を撫でた。私は涙がこみ上げそうになった。


「っ……」

「お腹、すいただろ、食べよう」


私を離した叶太は、私の答えを聞く前にそう言って、私たちはすっかり冷めきったご飯を食べたのだった。

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