うんどうかい 中編
「うおおおおおおおぜったいまけねえええええええ!」
「こっちこそ! ぜったいかってやるわあああああ!」
目の前でガンを飛ばしあってるのは、奇しくも俺の幼稚園で出来た友達二人。
一方は緑かかった短髪の少年、もう一方は相も変わらず真っ赤な髪をくるくる巻いたお嬢さま然とした女の子。
「けんかしないでよぉー」
なのちゃんが割って入るが、それでも二人はにらみ合ったまま。
『だってこいつにはまけたくないもん』
と揃って口にした。
ろくくんとあかねちゃん……相も変わらず仲がいいのか悪いのかわからないな……。
でも、二人とも運動神経自体は高そうなので、ちょっと気になるかも。
そんな決戦のバトルフィールドは、第四種目のかけっこ。
ちなみに第二種目は年中さんのかけっこ、第三種目年少さんのみつばちダンスだった。
……幼児が可愛すぎておもらししたらしく、休み時間の間にはちさんの衣装の年少さんと並んでおむつ替えされて恥ずかしい想いをした。
年少さんでもおむつ外れてる子が過半数なのに、この身体は……。ちょっと泣きそうになったのは置いとくとして。
午後最後の種目とあって、そろそろお腹もすいてきた。これが終わればいよいよご飯。
会場の盛り上がりも最高潮で、気持ちは自然と盛り上がる。そしてその盛り上がりのまま、最初のレースが始まった。
*
レースは見る見るうちに進んでいき。
――ちなみにろくくんとあかねちゃんは全くの同着で、二人そろって一位に入れられていた。よかったね。
最終レース。
「いっしょにがんばろうね、あおいちゃん!」
隣でなのちゃんが微笑む。
「あはは、そうだね」
俺も俺でふふっと笑い。
立ち上がった。
見える景色は、どこか懐かしい、砂で包まれた校庭。白線のレーンがまぶしく、自然と駆けだしたくなる衝動に襲われる。
「位置について!」
走り出す準備をして――。
「よーい……ドン!」
俺たちは、駆け出し――。
見る見るうちに追い放された。
えっ、ちょっと待って。なのちゃん、なんでこんなに速いの?
いや、よく見るとそのなのちゃんもほかの人に抜かされてる。というか、秒数にして十秒強、五十メートルの短い直線コース、既にゴール者が出始めているのに俺といえばまだ半分しか走れていない。
わかった、俺の足が遅すぎるだけだ。
しかも半分を超えたあたりで――たぶんまだ三十メートルも走っていないと思うが――息が切れ始めた。早くも失速する。
しかもおむつがもこもこしてさらに走りにくい。なんかもこもこがぶにゅぶにゅに変わって、足を押し広げて、走りにくさが極限まで高まって……だめ、もうはしれないよぉ……。
――結局、四位のなのちゃんからも大きく離されて、およそ三十秒以上かけてようやく俺はゴールした。
幼稚園児に負けたぁ……こうこうせいなのにぃ……。
よくよく考えてみれば、自分も体はひ弱な幼稚園児になっているのだから当たり前なのだが、それでもどこかで「自分は高校生なのだから勝てて当然だ」なんておごり高ぶっていたところもあったのかもしれない。
元高校生のプライドがへし折られて泣きそうな俺を、なのちゃんはぎゅっと抱きしめて。
「よしよし、泣かないで」
ゆっくりと頭を撫でたのだった。
*
「はー……かわいい!」
珊瑚ちゃんが俺にほおずりする。
「やめてよぉ……」
「やめなーい!」
元気いっぱいにすり寄ってくる珊瑚ちゃんに、うれし恥ずかしで思わず頬が緩んでいた。ちょっと緩みすぎて気持ち悪くなってそうだけど……。
俺がスケベな笑みを浮かべているのを知ってか知らずか。
「妹のほうとイチャイチャするのもほどほどになー。ほら、瑠璃のやつが頬を膨らませてるぜ?」
クラスメイトの子が珊瑚ちゃんから俺を引きはがした。
「にゃ、ちょっと!?」
「ちびっこはこっちでお弁当食おうなー」
両脇腹をつかまれて持ち上げられる身体。そのまま、別の場所に連れてかれる。
「そんなー、殺生なー! コハちゃんってばもー!」
「ふふ、珊瑚パンチなんてあたしには効かねーぞ?」
「んもー!」
ぽこぽことクラスメイト……たぶん瑠璃が幼児退行する前によく話に出てた琥珀ちゃんかな……の胸を叩く珊瑚ちゃん。ふふ、微笑ましい。
そして移動させられたお弁当の前。
「あおいちゃんだー!」
目の前にはなのちゃんがいた。
「なのちゃん!? なんでここに? ママは?」
「ママはおしごとでね、きてくれなかったんだー。でもねでもね、かわりにこはくおばちゃんが」
「おばさんじゃなくてお姉さんなー」
「こはくおねえちゃんがきてくれたのー!」
なのちゃんの説明に、俺はこくりと頷いた。
ひとまず俺は箸を……うまく持てないのでフォークでうまいこと卵焼きを刺して、口に運んだ。
それを微笑ましげに見ている女子中学生たち。ああ、照れくさい!
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